ちょっと東京五輪問題も飽きてきたけれど、もう少し書きたいことがあるから続けることにする。東京五輪にはもともと「金メダル30個が目標」と言っていたと思う。1年延期のうえ、コロナ禍が続いているから、直接の「数値目標」はなくなったと記憶するが、現実には27個に金メダルだったから「もう少し」だったことになる。もちろんメダル数とかノーベル賞受賞者数とか「数値目標」を作ること自体が間違っていると思うが、それはそれとしての話である。つまり、瀬戸大也と桃田賢斗と鈴木雄介が金メダルだったら、30個になったのである。
えっ、前の二人はともかく、鈴木雄介って誰? という人も多いだろう。何の選手で東京五輪の成績はどうだったの? いや、鈴木雄介選手は東京五輪には出場しなかったのである。出来なかったというべきだが。多くの競技で、2019年に開かれた世界大会で「金メダルだったら五輪が内定」ということが多かった。瀬戸大也は韓国の光州で開かれた世界水泳で200mと400mのメドレーリレーでともに金メダルを獲得して、東京五輪内定第一号となった。一方、鈴木雄介はカタールのドーハで開かれた世界陸上で、50キロ競歩で優勝して五輪内定を得たのである。(ちなみに、20キロ競歩で優勝したのが、東京五輪銅メダルだった山西利和である。)
鈴木雄介は現時点で20キロ競歩の世界記録保持者である。それまでも20キロ競歩で活躍してきたが、故障などが多く五輪や世界陸上ではなかなか活躍できなかった。世界陸上の選考会では4位に終わって20キロ競歩出場権を逃した。そこで50キロ競歩に種目変更して日本選手権に臨んだところ、日本記録を出して優勝、世界陸上でも優勝。そうして東京五輪に内定したわけだが、2021年になって代表を辞退することを発表した。理由はコンディション不調で、「酷暑の中で開催された同レース(ドーハ大会)以降、回復力の低下が著しかった」のだという。1988年生まれで33歳という年齢も回復を遅らせている原因かもしれない。
(鈴木選手がドーハ大会50キロ競歩で優勝)
東京じゃなくてドーハの話である。しかし、今回の東京大会も猛暑だった。札幌に移した競歩とマラソンも例年にない高温だったという。東京大会に出たことによって、選手生命に影響するケースもあり得なくはないのである。男子マラソンでは106人中で30人が途中で棄権している。約3割が完走できなかった。終了時の気温は28度だったというが、湿度が72%だったことが過酷なレースになった理由だろう。女子マラソンでは15人、50キロ競歩でも59人中10人の棄権者があった。男子マラソンで73位だった服部勇馬選手は、完走後に車いすで搬送され重い熱中症だった。完走したことを讃えるような論調もあったが、僕は服部選手は棄権するべきだったと思う。
ところで2019年世界陸上ドーハ大会が開かれたカタールと言えば、2022年サッカー・ワールドカップの開催地である。ワールドカップは今まで(ヨーロッパ各国のリーグがシーズンオフの)6月から7月に行われていた。2002年の日韓大会もそうだし、2018年ロシア大会もそうである。ところがドーハでは6月から7月の平均最高気温が40度を超えるのである。ということで来年は11月21日から12月18日にかけて開催されると、散々もめた挙げ句に決まっている。ドーハの12月の平均気温を調べると、最高が24.1度、最低気温が15度になっている。もっとも意外なことに平均湿度は71%になっている。(ウィキペディアによる。)
(東京五輪で倒れ込む選手の姿)
今年の東京はとにかく暑い。五輪終了後に少し収まった感じもあるが、それは32度ぐらいになったという意味。真夜中にトイレに起きてしまい、トイレが30度あって涼しく感じられるという倒錯的な状態だ。フィリピン沖の海水温が冬に高くなる「ラニーニャ現象」の年は夏が高温になるという。予報が当たった状況である。
東京の天気を調べてみると、開会式があった7月23日前後数日と五輪終盤の8月4日から6日にかけて、東京の最高気温は34度を超えていた。最低気温も25度を超える日が多く、夜もクーラーが無ければ寝られない。では、他都市も調べてみよう。東京と招致を争ったイスタンブールは8月5日、6日頃の最高気温は32度、33度ぐらいだった。マドリードはもっと大変な状態で、今後の予報では16日の最高気温が41度になっている。5日、6日の最高気温は34度、35度で、今年に関する限り東京より暑いようだ。
次の開催都市のパリは今年は低温状態で、8月5日、6日の最高気温は20度から25度あたりになっている。高温の年もあって、そんな報道を読んだことがあったと思う。7月、8月の最高気温は40度前後だが、平均すると最高気温は25度前後になっている。2028年開催のロサンゼルスも今年は低温で最高気温が20度ほどの日が続いている。今年が異例に低く、過去の最高気温は40度を超えているが、平均では25度以下である。2032年のオーストラリア・ブリスベーンも南半球だから当然のこととして、ここ数日の最高気温は20度前後になっている。こうしてみると、真夏の五輪は二度と無理だろうということにはならず、今後も夏開催が続く可能性が高い。
ということで、意外なことに2020年五輪に関して言えば、イスタンブールやマドリードになっていても暑かった。パリ大会やロス大会では東京ほど猛暑になる可能性は低い。そういうことになるけれど、日本の場合は湿度が高いことが他国と大きく違う。慣れていないと適応が大変だろうし、適応するための事前キャンプが難しかった。その意味でアンフェアな面があったが、それでも日本選手ばかりが勝ったわけでも無い。
しかし、7月8月の東京はスポーツに対して「理想的な環境」とはとても言えない。「復興五輪」とか「コロナに打ち勝った証」と言うのは、少なくとも「主観的な真実」だったかもしれないけれど、「夏の東京の気候は理想的」というのは「自覚的なウソ」だったに違いない。そういうウソから始まったから、後々のこともウソになってくる。マラソンを札幌にしても、多分暑くなるだろうと僕は思っていた。非科学的な発想だけど、言い出しっぺに問題があるから「呪われた五輪」になると思ってしまう。それにしても、ドーハ大会の鈴木選手のように、陸上、野球、サッカーなどの選手に今後負の影響が残る可能性を考えておくべきだ。
えっ、前の二人はともかく、鈴木雄介って誰? という人も多いだろう。何の選手で東京五輪の成績はどうだったの? いや、鈴木雄介選手は東京五輪には出場しなかったのである。出来なかったというべきだが。多くの競技で、2019年に開かれた世界大会で「金メダルだったら五輪が内定」ということが多かった。瀬戸大也は韓国の光州で開かれた世界水泳で200mと400mのメドレーリレーでともに金メダルを獲得して、東京五輪内定第一号となった。一方、鈴木雄介はカタールのドーハで開かれた世界陸上で、50キロ競歩で優勝して五輪内定を得たのである。(ちなみに、20キロ競歩で優勝したのが、東京五輪銅メダルだった山西利和である。)
鈴木雄介は現時点で20キロ競歩の世界記録保持者である。それまでも20キロ競歩で活躍してきたが、故障などが多く五輪や世界陸上ではなかなか活躍できなかった。世界陸上の選考会では4位に終わって20キロ競歩出場権を逃した。そこで50キロ競歩に種目変更して日本選手権に臨んだところ、日本記録を出して優勝、世界陸上でも優勝。そうして東京五輪に内定したわけだが、2021年になって代表を辞退することを発表した。理由はコンディション不調で、「酷暑の中で開催された同レース(ドーハ大会)以降、回復力の低下が著しかった」のだという。1988年生まれで33歳という年齢も回復を遅らせている原因かもしれない。
(鈴木選手がドーハ大会50キロ競歩で優勝)
東京じゃなくてドーハの話である。しかし、今回の東京大会も猛暑だった。札幌に移した競歩とマラソンも例年にない高温だったという。東京大会に出たことによって、選手生命に影響するケースもあり得なくはないのである。男子マラソンでは106人中で30人が途中で棄権している。約3割が完走できなかった。終了時の気温は28度だったというが、湿度が72%だったことが過酷なレースになった理由だろう。女子マラソンでは15人、50キロ競歩でも59人中10人の棄権者があった。男子マラソンで73位だった服部勇馬選手は、完走後に車いすで搬送され重い熱中症だった。完走したことを讃えるような論調もあったが、僕は服部選手は棄権するべきだったと思う。
ところで2019年世界陸上ドーハ大会が開かれたカタールと言えば、2022年サッカー・ワールドカップの開催地である。ワールドカップは今まで(ヨーロッパ各国のリーグがシーズンオフの)6月から7月に行われていた。2002年の日韓大会もそうだし、2018年ロシア大会もそうである。ところがドーハでは6月から7月の平均最高気温が40度を超えるのである。ということで来年は11月21日から12月18日にかけて開催されると、散々もめた挙げ句に決まっている。ドーハの12月の平均気温を調べると、最高が24.1度、最低気温が15度になっている。もっとも意外なことに平均湿度は71%になっている。(ウィキペディアによる。)
(東京五輪で倒れ込む選手の姿)
今年の東京はとにかく暑い。五輪終了後に少し収まった感じもあるが、それは32度ぐらいになったという意味。真夜中にトイレに起きてしまい、トイレが30度あって涼しく感じられるという倒錯的な状態だ。フィリピン沖の海水温が冬に高くなる「ラニーニャ現象」の年は夏が高温になるという。予報が当たった状況である。
東京の天気を調べてみると、開会式があった7月23日前後数日と五輪終盤の8月4日から6日にかけて、東京の最高気温は34度を超えていた。最低気温も25度を超える日が多く、夜もクーラーが無ければ寝られない。では、他都市も調べてみよう。東京と招致を争ったイスタンブールは8月5日、6日頃の最高気温は32度、33度ぐらいだった。マドリードはもっと大変な状態で、今後の予報では16日の最高気温が41度になっている。5日、6日の最高気温は34度、35度で、今年に関する限り東京より暑いようだ。
次の開催都市のパリは今年は低温状態で、8月5日、6日の最高気温は20度から25度あたりになっている。高温の年もあって、そんな報道を読んだことがあったと思う。7月、8月の最高気温は40度前後だが、平均すると最高気温は25度前後になっている。2028年開催のロサンゼルスも今年は低温で最高気温が20度ほどの日が続いている。今年が異例に低く、過去の最高気温は40度を超えているが、平均では25度以下である。2032年のオーストラリア・ブリスベーンも南半球だから当然のこととして、ここ数日の最高気温は20度前後になっている。こうしてみると、真夏の五輪は二度と無理だろうということにはならず、今後も夏開催が続く可能性が高い。
ということで、意外なことに2020年五輪に関して言えば、イスタンブールやマドリードになっていても暑かった。パリ大会やロス大会では東京ほど猛暑になる可能性は低い。そういうことになるけれど、日本の場合は湿度が高いことが他国と大きく違う。慣れていないと適応が大変だろうし、適応するための事前キャンプが難しかった。その意味でアンフェアな面があったが、それでも日本選手ばかりが勝ったわけでも無い。
しかし、7月8月の東京はスポーツに対して「理想的な環境」とはとても言えない。「復興五輪」とか「コロナに打ち勝った証」と言うのは、少なくとも「主観的な真実」だったかもしれないけれど、「夏の東京の気候は理想的」というのは「自覚的なウソ」だったに違いない。そういうウソから始まったから、後々のこともウソになってくる。マラソンを札幌にしても、多分暑くなるだろうと僕は思っていた。非科学的な発想だけど、言い出しっぺに問題があるから「呪われた五輪」になると思ってしまう。それにしても、ドーハ大会の鈴木選手のように、陸上、野球、サッカーなどの選手に今後負の影響が残る可能性を考えておくべきだ。