尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「ルッキズム」と女子選手、須崎優衣と女子バスケー東京五輪を振り返る⑤

2021年08月14日 21時02分08秒 | 社会(世の中の出来事)
 東京五輪をめぐる諸問題を考えるとき、「ルッキズム」(Lookism)の問題を落とせない。「ルッキズム」とは、「見た目差別」「外見至上主義」のことで、特に女性が就職試験で容貌重視で落とされたりする差別である。女子スポーツ選手の場合、成績以上に外見で有名になった選手が昔からいた。女子選手にのみ「芸術的」な演技を求める競技もある。「アーティスティック・スイミング」「新体操」は女子しかない種目である。(それが認められるのは、「水泳」「体操」という競技の一種目だからだ。)また今回初めて知ったが、体操の「床運動」も女子にだけ伴奏音楽がある。

 マスコミで報じられるときも、男子選手には「豪快さ」や「頭脳」が評価される。豪快に「一本勝ち」し、豪快に「ホームラン」を放ち、「沈着冷静」で「優れた戦略」が賞賛される。一方女子選手は「優美」に勝つことが求められる。もっともそれだけでは勝てないわけだが、「闘志むき出し」で立ち向かうことよりも、立ち居振る舞いにも気を配って「試合終了後の笑顔がステキ」だったりすることが報道される。そういうジェンダーバイアスがスポーツをめぐっても存在するわけである。
(開会式で旗手を務めた須崎優衣と八村塁)
 今回記事を書くために何人かの女性選手を検索してみたら、「○○ かわいい」という検索ワードが頻出するのに驚いた。まず容姿でもてはやす人々の目がある。ほぼすべての女性メダリストがそうなんだけど、中でも八村塁とともに開会式で旗手を務めたレスリングの須崎優衣選手は八村との身長差も注目されたのか、「かわいい」が一番最初に出て来る。それをどう考えればいいんだろうか。他人がどう思うかは自由と言うしかないんだろうか。須崎優衣女子レスリング48キロ級で、全試合で相手選手に1ポイントも許さずに「テクニカルフォール勝ち」(相手に10点差を付ける)の圧勝だった。それこそ一番の注目じゃないかと思うけど。
 
 その須崎優衣は東京五輪の代表権をめぐってし烈な争いがあった。そう言えばそんなニュースを聞いた記憶があるが、覚えていなかった。柔道男子66キロ級の阿部一二三丸山城志郞との24分に及ぶ壮絶な代表権争いはよく覚えているんだけど。そもそも女子48キロ級にはリオ五輪金メダルの登坂絵莉(とうさか・えり)がいた。そして7最年長の入江ゆきもいて、日本選手権は世界選手権より大変と言われていた。2019年世界選手権代表争いでは入江ゆきが勝ったため、入江が世界選手権でメダルを取れば五輪内定だった。しかし、世界選手権で入江が準々決勝で中国の孫亜楠に敗れてしまい、代表権争いはまだ続くことになった。
(代表権争いに勝った須崎優衣と負けた入江ゆき)
 2019年12月の日本選手権で、須崎優衣は準決勝で登坂に勝ち、決勝で入江に2対1で勝った。その上で2021年4月の五輪アジア予選で勝って出場権を確保して、代表に決定したのである。五輪決勝は入江を世界選手権で破った孫亜楠だった。このようにギリギリで代表権を得た選手がなぜ旗手に選ばれたんだろうか。開会式からすぐ試合が始まる競技ではなく後半開始から競技で選ぶんだろうが、初めての五輪(須崎は22歳で、早稲田大学在学中)選手を選び、試合でも活躍したんだから精神力もすごいんだろう。

 当初から日本選手がメダル有力候補だった柔道やレスリングと違って、事前には全く予想されていなかったメダルもある。世界的には陸上100m決勝のイタリアのヤコブスなどもそうだろう。(NHKの中継放送では何故かずっとジェイコブスと発音してたけど。)日本ではフェンシング男子エペ団体(金メダル)など、競技そのものを知らなかった。そんな中でも女子バスケットボール銀メダルはかつてない快挙だろうと思う。もっとも僕はバスケは特に関心もなくて、今回も特に熱心に見ていたわけでもない。ベスト8になって準々決勝のベルギー戦は夕方からだったから少し見たけど、リードされてたから負けなんだろうと思って最後は見なかった。そうしたら修了16秒前に町田瑠唯選手のスリーポイントシュートが決まって、86対85の1点差で日本が逆転勝利。
(日本の女子バスケチーム)
 その町田瑠唯選手を検索すると「かわいい」が出て来るのである。女子サッカーの岩渕真奈選手と似ているという話題もあった。そういう話がネットで話題だったけれど、町田選手は準決勝のフランス戦でオリンピック1試合個人アシスト新記録の18アシストを記録した。そのフランス戦は見ていたんだけど、バスケで日本が決勝に進出する日があるんだと思ってしまった。決勝のアメリカ戦は負けたとはいえ、「90対75」は大善戦ではないだろうか。町田選手は身長が162㎝と出ている。バスケ選手として世界で活躍するには異例に低いんだろう。それでも町田選手は今大会の「オールスター・ファイブ」に選出されている。

 今回の女子バスケチームでは、馬瓜(まうり)エブリンオコエ桃仁花(モニカ)のような外国系日本選手も活躍した。まさにこれからの日本を象徴するようなチームだ。小柄であっても動きで相手に勝り、スリーポイントシュートで得点を重ねる。米中のような超大国の間で生きていくしかない日本にとって、単にスポーツに止まらないロールモデルのような気もしてくる。そのぐらいの快挙だと思う。

 今回はベラルーシチマノウスカヤ選手(陸上競技)の亡命問題もあった。また柔道のイラン選手がイスラエル選手との対戦を忌避して棄権したケースもあった。2019年の柔道世界選手権でイスラエル選手との対戦を拒まなかったサイード・モラエイ選手は、その後イランを離れて東京五輪にはモンゴル国籍で参加した。決勝まで進出し、日本の永瀬貴規に敗れて銀メダルだった。いろいろな問題があるがこのぐらいで。
(チマノウスカヤ選手)(永瀬選手とモラエイ選手)
コメント (2)
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