池袋の新文芸坐で「公開50周年記念 トラック野郎・銀幕を駆ける一番星」という特集上映が始まった。今回は5本が上映されるが、今日は『度胸一番星』(5作目)と『爆走一番星』(2作目)の上映後に、あべ静江(2代目マドンナ)のトークがあった。他に宮﨑靖男(哥麿会創設、関東み組名誉会長)も参加して、司会は小川晋(トラック野郎研究家)が務めた。「哥麿会」というのは、トラック野郎シリーズに協力したデコトラ運転手の組織だと思うけど、劇場は当初から半分がその会貸切でチケットの一般販売が少なかった。「トラック野郎」たちが全国から集結して、なかなか壮観というか独特な雰囲気ではあった。
今回感じたのは『トラック野郎シリーズ』の圧倒的な面白さである。前にも何本か見ているが、僕は公開当時には見ていない。当時愛川欽也(準主役の「やもめのジョナサン」役)の深夜放送を聞いていたので、そういう映画を製作しているという話は聞いていた。でもまあ、要するに学生だから経済的にすべての映画を見るわけにもいかず、この手の娯楽映画はパスしたのである。その後、次第に面白映画として伝説化していくが、面白さの源泉は「下品さ」にあるとも言えるので、若い時に見ても受け入れられなかったかもしれない。時代的な背景もあって、「コンプライアンス度外視」のギリギリ感が今になると感慨深いシリーズだ。
シリーズの基本はトラック運転手の星桃次郎(菅原文太)が毎回マドンナに片思いするもフラれるという、ほぼ『男はつらいよ』の裏バージョンになっている。しかし、寅さんには出て来ない「セックス」が出てくるし(桃次郎は独身だが、トルコ風呂=現ソープランドに入り浸っている)、立ち小便など日常茶飯。さらに必ずパトカーに追われるが、公道を蛇行運転しパトカーを道の外に追い出すなど「道交法違反」「公務執行妨害」を繰り返す。しかし、その行動は「庶民の連帯」からなされるもので、映画内では痛快なのである。時代的に「反権力的ムード」が自明の前提だったのだ。しかし、後には公道ロケの許可が下りなくなった。
鈴木則文監督は見事に娯楽映画として作り上げていて、『男はつらいよ』シリーズと違って芸術的完成度を目指さない。だから僕は前にどの映画を見ているのか思い出せない。ハリウッド製のシリーズ映画のように。シリーズ映画にもいろいろあって、同じような設定で作られていても、「深み」が出てくるものもある。『マッドマックス』シリーズとか『男はつらいよ』みたいなものが代表。登場人物や作品の世界観を突き詰めていくと、深くなっていくわけである。一方、そこら辺にこだわらず娯楽に徹するシリーズも多く、『トラック野郎』はその典型だろう。ただ面白くてスカッとするのを目指して「職人技」で作るのである。
今になると、ジェンダー規範的にどうかなとか、交通ルール上「通行区分違反」はまずいでしょとか、そもそも「デコトラ」自体もマッチョ的世界だという気もしてくる。『度胸一番星』冒頭のあき竹城の「婦警」描写などはまずいでしょ。でも見ているうちに、「ギリギリセーフ感」こそが狙い目にも見えてくるから不思議。批判や分析を越えて、ただ面白いタイプの映画である。で、2作目マドンナのあべ静江。6日には宇崎竜童(主題歌作曲)、中島ゆたか(初代マドンナ)も予定されてるが、中島ゆたかは前に聞いたことがあるので、あべ静江トークを聞いてみたかった。大ファンではなかったけど、魅力的な声だなと思っていた人である。
あべ静江は名古屋を中心にラジオのDJとして人気で、1973年に歌手として「コーヒーショップで」や「みずいろの手紙」がヒットした。歌手出身かと思っていたら、今日聞いていたら長く子役をやっていたんだという。その後、テレビや映画で俳優もするようになるが、映画デビューが『トラック野郎 爆走一番星』である。結局テレビドラマ中心になったが、松竹映画『思えば遠くへ来たもんだ』にも出ていた。東映撮影所は「怖い」感じの人が多かったというけど、東映映画自体はマネージャーが好きだったので連れて行かれて見たという。ドライブインでバイトする女子大生役だが、そこはセットだった。ロケは天草へ行ったという。
実際の「トラック野郎」たちが多数出演しているが、そのまとめ役が宮崎氏。携帯電話もない時代に大変だったという。しかし、仕事を休んで映画に協力し、今も全国から集まってくる熱い思い出を共有する人々である。宮崎さんの話も興味深かった。あべ静江が一瞬ウェディングドレスを着る(桃次郎の幻覚)シーンがあり、あの時着ちゃったから現実には着る機会がなかったのかもなんて言っていた。まあ写真のようにちょっと変わったかもしれないが、昔を思い出して懐かしかった。
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