尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

2冊の「部活本」-これからの部活動のために

2017年12月23日 23時12分14秒 |  〃 (教育問題一般)
 2017年も残り少なくなってきて、ぜひとも今年中に読んでおきたい本を読まないと。前から日本の学校、教育を考えるときに、「部活動の再検討」がどうしても必要だと思っていはいた。でもこの問題はあまりにも複雑に絡み合っている。大阪市の桜宮高校の体罰問題が大問題になったころ、僕も「体罰」などに関して書いているが、「部活動のあいまいな領域」と題して書いたぐらいである。

 部活動に関して書かれた一般的な本も今まで見たことがないんだけど、今年は2冊もあった。本当はもっとあるらしいけれど、僕が実際に手に取ったのは、中澤篤史「そろそろ、部活のこれからを話しませんか」(大月書店、「部活」のところが赤字なのは実際の本の通り)と島沢優子「部活があぶない」(講談社現代新書)である。どっちも読みやすい本で、これからの議論の前提となる。部活に関わらざるを得ない中学、高校の教員はもちろん、親や行政関係者など幅広く読まれて欲しい本。
 
 島沢著「部活があぶない」から紹介するが、読んで題名の通りの本。島沢氏は桜宮高校事件などを追いかけてきたフリーライターで、著者紹介を見ると筑波大女子バスケット部で大学選手権優勝、その後日刊スポーツ記者を務めたとある。「事件事故が多発し、児童虐待化する部活を徹底ルポ」と帯に出ている。実際にごく最近群馬県の高校で、陸上部のハンマー投げがサッカー部員にあたって死亡する事故が起きたばかり。春には栃木県の高校登山部が雪崩に巻き込まれて8人が死亡する大事故が起きた。体罰やいじめなんかじゃなくても、死亡するケースが起きるのだ。

 この本を読むと、それ以上に深刻な「事件」を含め、様々な悲劇的事例がたくさん出てくる。海外では柔道で死亡事故などどこでも起こっていない。日本では何件もの柔道による死亡事故が起きている。それはなぜか? まさに「ブラック部活」というしかない事例がレポートされている。そしてそれは「教師にとってもブラックな部活」なのである。それだけではなく、最終章では「ブラック」にならない指導例がいくつか紹介されている。まず教員と保護者が緊急に読んでおく本だろう。

 中澤著も読みやすいけど、部活動の歴史や海外の事例紹介なども豊富で、この問題を考えるときに必読の本になっている。著者は早稲田大学スポーツ科学学術院准教授で、「運動部活動の戦後と現在-なぜスポーツは学校教育に結び付けられるのか」(2014、青弓社)という大著の研究書もあるらしい。でも専門書を読むのも大変だし、そもそもその本の存在を知らなかった。そういう研究を踏まえて、一般読者向けに書かれたのが、「そろそろ、部活のこれからを話しませんか」である。

 この本を読んで思い出したけど、「部活動」という言葉自体がそんな古いものではない。僕の中学時代には「クラブ活動」だった。高校は独特で昔から「班活動」と言ってるところだったから「クラブ」も「部」もなかった。(慣習では言ってたような気もするけど。)僕が高校を卒業したのは1974年で、1978年に教育実習を母校でやった時には「必修クラブ」というのがあった。僕が中学に勤務した80年代にも「必修クラブ」があった。時間割に組まれているクラブと差別化するため「部活動」と呼ばれた。

 そうだ、そうだと思いだしたわけである。そんなもの(必修クラブ)があるなんて想像も出来ない世代からすると、大昔から「部活」だったと思うかもしれない。80年代には全国の中学で「校内暴力」が吹き荒れ、「学校再建」の中で「部活全入」などの動きも出てくる。しかし、僕にとっては「部活動」はもともと「クラブ活動」として生徒の自主的な要素の大きなものだったというのは実感でもある。

 教育課程の問題は細かくなるからここでは省略する。この本でも、生徒の生命、教員の生活を守るために、現在の大変な状況と今後の展望が書かれている。しかし、そういう部分は島沢著でも書かれているし、マスコミでも最近はよく取り上げられている。中澤著は実際の中学でのフィールドワークに基づく「部活の存廃をめぐる闘い」が非常に面白い。高校は生徒数が多く、従って教員数も多いけど、中学は学級数が少子化で減ると教員減が部活の存廃に関わる。そういう実態は中学教員以外、あまり知られていないと思う。多くの人に読んで欲しい部分。(僕も学校の対応には疑問。)

 もう一つ、海外の事例で「アメリカでは部活参加が特権と考えられている」というのが非常に大事な指摘だと思った。日本だったら、その学校の生徒である以上、部活参加は基本的に拒めないと思われているだろう。「君には部活より勉強が優先だ」なんて、とても言えない。アメリカ映画なんかでも、アメリカンフットボールなど高校の名誉を掛けた試合が出てくる。そういう「部活」は全員参加じゃなく、ちゃんと「トライアウト」で選抜される。「少数エリート」の特権活動なのである。なるほど、そうだったのか。この問題は日本でも大切ではないか。授業や学校生活はいい加減なのに、部活動だけのために登校するような生徒がけっこう多いと思う。それはやはりおかしいのである。

 という具合に、いろいろな問題がいっぱい出てきて紹介しきれない。コラムもたくさんあって、著者の体験や部活漫画の紹介などもある。全国の高校で、学校図書館にそろえて欲しい。残された問題として、「学校推薦の問題」と「生徒会活動との関わり」があると思う。全国の中学生は半分以上が一度は私立や公立の推薦制度を利用するんじゃないか。高校生でも、就職生徒はもちろん、大学でも推薦制度が複雑に出来ていて利用する生徒が多い。「学校推薦」の場合、学力は調査書で判るが「より広い人間性」を見るとされる。「部活」で成果をあげたとか、部長などを務めたと書きたいわけである。生徒会との関わりは今は省略。今後の部活を考えるときに前提として読んでいるべき本だろう。
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