尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画の映画「人生はシネマティック!」

2017年11月24日 23時31分59秒 |  〃  (新作外国映画)
 イギリス映画「人生はシネマティック!」が案外の拾い物で面白かった。これは第二次大戦中のイギリスを舞台にしたロマンティック映画だけど、「映画を作る映画」という構造になっている。最近日本でも公開された映画「ダンケルク」の撤退作戦を国策映画にせよという命令のもと、空襲相次ぐ非常時のロンドンで、映画関係者が動き出す。そういう中で、クレジットされなかったけれど実は女性が裏で活躍していたという、これも最近よく作られる設定で進んでいく。

 ここで面白いのは、一つは「国策映画の作り方」。カトリンは画家の夫が空襲警備員をしているが稼ぎが少なく、情報省でアルバイトを始める。そんなタイピストのカトリンが、映画に女性の視点を取り入れるため映画作りに参加を命じられる。新聞で双子の女性が船を出して助けに行ったエピソードを読み、現地調査に派遣されるが、実際の彼女たちは内気なうえ、船は途中で故障していた。

 しかし、それを何とか、若くて美人の双子にして、恋物語をまぶし、犬を助けたエピソードを拾い上げて英雄物語を作っていく。本当は横暴な父が酔っぱらって寝てる間に船を出したのだが、父親役の有名俳優は情けない役柄を嫌って書き換えを要求する。船が故障した事実は、上から「イギリスの威信を傷つける」と書き換え命令。さらに極め付けは、その時点で中立のアメリカ世論に訴えるため、アメリカ人のパイロットを特別出演させろと陸軍大臣から直々の命令が…。やむを得ず、何とかジャーナリスト役を作るも、これがど素人の大根で撮影ストップ。カトリンの機転で乗り切るが…。

 というように映画作りにはつきもののトラブルだけど、国策映画ならではの苦労が尽きない。それが現代のプロパガンダにあり方として、見ていて面白い。ドイツ軍支配下のダンケルクでロケ出来るわけもないから、イギリスの海岸で撮るけれど、ドイツ軍をどう見せるか。この場合、ナチスドイツが「悪」だというのは、現代世界の共通理解だから、国策映画作りと言っても安心して見ていられる。

 一方、こういう映画では映画とは別にバックステージものの人間ドラマがあるわけだ。この映画でも、カトリンが大活躍するにつれ、ロケ現場など家を空ける機会が多くなり、それがどうなるか。しかも連日続くドイツ軍の空襲で、誰がいつ亡くなるか判らないという時代だった。そんな時期を背景にした出会いと別れが描かれる。定番的な進行かと思うと、ビックリする展開もある。

 「映画を作る映画」は結構あるが、トリュフォーの「アメリカの夜」、深作欣二の「鎌田行進曲」、山田洋次の「キネマの天地」、沖田修一の「キツツキと雨」などが思い浮かぶ。素人が映画を作る設定の映画もあるが、これらはプロの映画作りを映画にしている。そういう映画は「映画人の心意気」をうたい上げる映画が多い。「人生はシネマティック!」もまあそうなんだけど、時代背景が大きな意味を持っている点では一番かもしれない。ロンドン空襲、いわゆる「バトル・オブ・ブリテン」の様子を描いた意味でも見る価値がある。イギリスがいかに屈しなかったかの記録。

 監督はロネ・シェルフィグ(1959~)という女性監督。誰だと思うと、デンマークで「幸せになるためのイタリア語講座」というシャレた映画を作った人である。その後イギリスにわたって「17歳の肖像」など何本か撮っているが見てないので判らなかった。主人公カトリンはジェマ・アータートン。他の人も含めて達者の配役だけど、よく知らない。原作があるようだ。いわゆる「ウェルメイド」な出来だけど、戦争と女性、戦争と映画というテーマが面白い映画にもなるという企画のうまさが光る。
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