尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

並立制と併用制-選挙制度を考える②

2017年11月18日 23時00分13秒 |  〃  (選挙)
 選挙をおこなう意味は何だろうか? 一つはもちろん「国民の代表」を選ぶことである。その選ばれた代表が集まって、議会で法律を作る。そういう「立法」が国会議員の役割だけど、日本のような議院内閣制では「内閣総理大臣の指名」も大きな役割となる。「行政権の肥大化」は先進国共通で進行しているからから、行政トップを選ぶというのは、むしろ一番重要とも言える。

 国会議員をどう選ぶかというときに、「国民の代表」選びを最大の仕事と考えるなら、できるだけ国民の多様な声をそのまま反映する議会構成がふさわしいことになる。だから、完全な比例代表が望ましいわけだ。しかし、「行政トップを選ぶ」方を優先するなら、小選挙区で政権の選択を国民ができる方が望ましい。比例代表だと過半数を取る政党がなかなか出ない。だから、イタリアでは全630議席中、最大党派が340議席に達しなかった場合、最大党派に340議席を自動的に与えるという規定がある。比例代表選挙に政権選択機能を持たせるためだけど、「民意」通りの議会にはならない。

 そのように、「小選挙区」と「比例代表」はどちらも利点と欠点があり、それを相補うために「並立制」や「併用制」がある。日本は並立制を取っているが、導入の際に「穏健な多党制」が望ましいとされた。公明党や共産党も重要な政党として残っているから、ある意味で導入の目的は果たされているが、僕には問題点の方が大きいと思う。ここ4回ほど「与党が3分の2」を取るほど過大議席になっている。また、比例区で議席数が足りなくなって他党に議席が移ることも多い。

 日本の制度では、小選挙区と比例代表区に「重複立候補」が認められている。比例区は同一順位にしておいて、小選挙区で敗退した時に「惜敗率」(落選候補者の得票÷当選者の得票)で順位をつける。この制度では、自分の選挙区で支持候補を当選させるためには、有権者は小選挙区で投票したうえで、もしそっちで負けても比例で復活できるように比例区でも支持候補の党に入れないといけない。だから、党に勢いがあると小選挙区でどんどん当選し、比例区でも同じようにどんどん当選する。名前を貸した程度の意識の党職員が比例名簿の最下位なのに当選したりする。

 現在のように「憲法改正」が政治課題とされている時には、このような「過大議席」をもたらしやすい選挙制度は望ましくない。では、他にどんな制度があり得るかと考えてみると、ドイツで行われている「小選挙区比例代表併用制」というのがある。これは「併用」というけど、ベースは比例代表である。だが比例代表では当選者をどう決めるかに難問がある。党が作った比例名簿だけだと、有権者の側が議員個人を選べない。そこで、議席数は比例で決めて、当選者の決定に小選挙区を使うということで「併用制」というわけである。もっとも、これにも大きな欠点がある。

 それを具体的にドイツの事例で見てみたい。ドイツでは2017年9月24日に連邦議会選挙が行われた。法定の議席数は598で、その半数の299の小選挙区がある。有権者は2票を持ち、基本的には比例代表で議席数が決まる。その結果、メルケル首相の与党であるCDU・CSU(ドイツキリスト教民主同盟、キリスト教社会同盟=バイエルン州だけ社会同盟)が33.0%を獲得して第一党になった。連立を組んでいた社会民主党(SDP)は20.5%となった。それぞれ64議席、40議席を減らした。

 実際の議席数は、CDU・CDSが246、社民党が153である。全部で約600議席なんだから、おおよそ3割を取ったCDU・CDSは200ぐらい、社民党は2割程度だから、120程度のはずである。そこが「併用制」の面白いところで、まず比例で当選数を決める。そのうえで小選挙区の当選者で、その党の当選者数を埋めていく。そうすると、比例で決まった数を超えて小選挙区で当選していることがある。その場合、小選挙区当選者は自動的に当選とするので、議席数の方が変わるのである。これが「超過議席」で、今回はなんと111議席の超過当選者が出て全議席数は709になった。

 どうしてこうなったのか。長年の保守、革新の二大政党の人気が落ちてきて、新興右翼政党などが勢力を伸ばしたわけだが、やはり小選挙区では左右両翼の党、あるいは緑の党などは当選が難しい。だから、キ民同盟や社民党などしにせ政党に大量の「超過議席」が生じたのである。ドイツでは(ナチス台頭の過去を警戒して)小党排除のための「5%条項」がある。しかし、今回は初めて7党(キリスト教民主同盟と社会同盟を別の党として数えた場合)が当選者を出している。

 議席数の内訳は、右派の「ドイツのための選択肢」が前回ゼロから一挙に94議席で第3党。中道自由主義の「自由民主党」(FDP)が80議席。旧東ドイツ与党と社民党左派が合同した「左翼党」が69議席。環境派と東ドイツの民主化運動勢力が合同した「同盟90/緑の党」が67議席。メルケル首相が4期目を確実にしたと日本では報じられたが、実はまだ連立の組み合わせが決定していない。年内の合意は難しいと言われている。

 社民党はメルケル内閣と連立しても難民政策などで独自性を打ち出せず、党勢が伸び悩むので今回は連立しないと決めてしまった。極右の「ドイツのための選択肢」と左派の「左翼党」は、どこの党も連立の対象にはしないので、そうなると「自由民主党」と「緑の党」に連立に加わってもらうしかないけど、これは相当に難しい。比例代表を中心にすると、政権のあり方が決まらないことがあり得るという好例である。しかし、そもそも100以上の超過議席が生じ、選挙の前には選挙後の議席数が判らないというのは、やはりおかしいのではないか。こうしてみると、比例代表と小選挙区をうまく組み合わせたはずの「並立制」も「併用制」もどっちもかなり問題があるということになる。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする