波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

白百合を愛した男    第88回

2011-04-25 11:34:27 | Weblog
翌朝、ホテルを出てから通訳を頼んでいた現地の商社の人に聞いてみた。「いったい何が起きたのか。」詳しい事情は分らなかったが、夜中突然地元の警察が入り、今晩此処へ止まっている日本人が女性を同伴して泊まっている。それは売春行為を補助した罪になると
言うことで部屋を調べると言う地元警察の取調べだったらしい。ホテルの主人が中に入って説明し、絶対その様な行為はないと言ったが、聞き入れられず宿泊者を連行して取調べを行うと言うことだったらしい。暫く時間がかかったが、主人が何がしかの金を握らせ、
何とかお引取りを願ったらしい。ここでは正当な言い分が通じないこともままあるらしく、法律があっても、その通りに行かないことはあるらしい。まして現地の言葉のやり取りによっては話が通じないことがあってもおかしくなく、その意味では何が起きても不思議は無い様子である。要は自分達の利になるようにされることもあるのだ。何によらず、
頼るところも無いところでは出来るだけ無難に過ぎることを願わないわけには行かない。
ようやくの思いで其処を離れ、目的地の工場の見学を済ませ、そこそこに香港までフエリー船にて、帰国することが出来た。船着場から香港の市内へ入るまでの道をタクシーで走っていると、道の横で大きな袋を持って手を上げている人たちが大勢出てくる。
運転手は顔見知りとあってか、当然のように車を止める。何ごとが起きるのかと又不安になっていると、口々に何か言いながらその袋から木の実を出してくる。「ライチ」と言っているらしい。そうか、これがライチか、あの楊貴妃がこの木の実をとても好きで、遠方にあってもこれが食べたいと、宮殿まで取り寄せて、毎日食べていたと聞いていた、その
ライチである。日本円で百円も出すと、袋一杯にくれる。どんなものかと楽しみに持ち帰りホテルの冷蔵庫で冷やして味見をする。なんとも言えない上品な甘味と香りがほのかにしてその実は口に広がる。果肉は大きな種のためにそんなに口で味わうほどではないが、
それが又野趣味を持たせ、なんとも言えない。楊貴妃でなくてもこの味の良さは分る気がして、何とか日本へ持ち帰りたいと思った。検閲では原則持ち込み禁止であるが、何とか工夫をして土産にしたいと本気になっていた。
北の技術班も香港へ帰り、全員が集合し、無事に調査を終了することが出来たことを祝って乾杯をする。まだ成果がどのようなものであるかは未確認であったが、初めての中国での磁性材調査が無事終わったのである。

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