波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

コンドルは飛んだ  第20回

2012-10-12 09:23:20 | Weblog
日本の食材と違うのは仕方がないと辰夫は覚悟していた。現地のあまり豊ではない土地で育つものは主にジャガイモ(又は
コロ芋)、とーもろこしである。これらを主原料としたパン、それに芋と肉そして少々の野菜を混ぜた煮物、これには塩味と
地元の香辛料が入っている、これが菜物として付く。蛋白源として牛、鶏の肉が普段使われるが、何故か豚肉は高級肉として扱われている。食後の果物は日本より豊富で安くパパイヤ、マンゴー、バナナはいつでも食べられる。ただ周りに海はなく、川はあるが、魚はあまり取れないため魚料理は食べる事は少ない。現地の人が珍味として食べているものに「クイ」と言う料理があるが、これは「テンジクネズミ」を使ったものがある。併し辰夫もこれだけは食べる事は出来なかった。食事に欠かせないアルコール類も発酵酒を中心に色々あるが、酒が好きでない辰夫には無縁であった。
小さいときから下町で育ち、比較的厳格な家で育った辰夫にはこれらの生活習慣に溶け込む事には抵抗はあまりなくなじむ事が出来た。
着任して落ち着いて仕事が始まったころ、日本から新たに一人の社員が派遣されてきた。屈強な若者で本人も着く早々の挨拶で
「身体には自信があります。何でもやりますから申し付けてください」と胸を張っていた。辰夫も見るからに頼もしい身体を見ながら、これなら少々の徹夜や力仕事は任せられるかと期待したが、暫くは様子を見ようと宿舎の雑用(掃除、洗濯、食事など)を主に任せる事にした。そんなある日、仕事を終えて帰ると、彼の姿が見えない。外で片付けでもしているかと見回したが
何処にもいない。もう一度中を探すと、風呂場のバスタブの縁にもたれかかったように倒れている彼を発見し、慌てて介抱して
部屋へ連れて行き寝かせた。
様子を見ると病気と言う病気の兆候はない。呼吸が荒く、ぜいぜいと息をしている。どうやら「高山病」の兆候のようだ。
何しろ4000メートルの高地である。そうでなくても空気は薄く、酸素が少ないのは間違いない。
辰夫も派遣が決まったとき、この事が一番気になり医者に相談した事がある。そのときの医者のコメントは
「男性の血液における赤血球の数は通常40~50だが、高地に住んでいる人の場合は65~70にまであがっている。
だから、高地において順応して赤血球が増える人は大丈夫だが、各人違うので何ともいえない」と言うものだった。

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