波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

パンドラ事務所  第三話  その7

2013-10-10 10:38:31 | Weblog
瀬戸内海に近い海岸沿いに訪ねる岡山工場はあった。既に訪問者名簿に名前が書いてあり、すぐ応接室へと通された。こうしてお互いに会ってゆっくり話をするのは何年振りかと考えながら忙しい中を時間を作ってくれた相手のことを思い、余計な昔話をしてはいけないと早速本題に入ることにした。「他でもないのだが先日杉山氏の奥さんが来てくれて
七回忌の話を聞いたのだがその時当時の思い出話になってね。」「彼のことは忘れられません。もうそんなになりますか。あの時は本当に残念な事でしたね。私もあの時のことは良く覚えています。」「そうですか。それであの日のことを少しでも知っている人にその時の状況を出来るだけ詳しく聞きたいと頼まれて、お話を聞きたいと思って伺いました。」と単刀直入に話す。
彼はそれを聞いた瞬間、一瞬顔をこわばらせたかのように少し黙り込んでから話し始めた。「私はあの時間所用で部屋にはいなかったので、何があったのか何も知らなかったのだが」と口ごもる。「あのトイレは社内用のものでトイレには社員だけであり、トイレの
中からの異変に気付いた人がいてもおかしくないと思えるのですが」と突っ込んで聞く。答えはない。「ましてデスクの上はパソコンをはじめ、いろいろなものが置きっぱなしだし部屋の誰かがおかしいと気付いて調べてくれても良かったと思うのですが、そのへんの状況を誰かに聞いたり、話は出来ませんでしたか。」青山はいつの間にか冷静さを失い、少し興奮気味になっていた。同僚であり、生活を共にした一人として他人事には思えなかったのである。「そうだねえ。そう言われれば確かに部屋には誰かがいたはずだし、おかしいと思って探した人がいてもおかしくなかったかもしれないけど、何しろ自分の仕事に追われて人のことに構うほど余裕がないのも事実だったと思うよ」「じゃあ、もし杉山君ではなくプロパーの仲間だったとしても同じようにそのままだったでしょうか。」ついに青山は一線を越えてしまったように言い放った。内山の沈黙は続いた。
そしてその後しばらく他の話をして別れることになった。何となく後味の悪い別れ方になってしまったが、それも仕方のないことだった。
岡山駅のプラットホームで列車を待ちながら、今日一日を振り返りながら自省していた。「じゃあもしお前がその場にいたら杉山君のために正しい行動がとれたという自信があるのか。真剣に彼のことを心配して行動したか」どこからか聞こえてくる裁きの言葉が
青山の胸を打っていたのだ。、

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