波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋   第62回

2009-01-30 09:53:06 | Weblog
台湾のホテルの朝は朝粥で始まる。勿論洋食もあるがほとんどの人がお粥を食べる。
夕食のアルコールや油の強い料理の後で胃にやさしいこのお粥はぴったりである。
お粥に芋が入っていることもあるが、これも気にならない。そばに付け合せのおかずが置いてある。小魚、海苔の佃煮、野菜の煮物、漬物等7,8種類のものがあり、好きなものを取り合わせが出来る。(味噌汁のようなものは無い。)
日本人であればこの朝食で何となくホッとする。松山も昨夜のことをぼんやりと考えながらやっと一息ついた感じであった。
今日の日程では日系のユーザーの訪問になっていた。日本から台湾へ工場進出し、派遣されている日本人はおおぜいいる。松山の知っている人も何人か台湾に来ていた。生活は人によっていろいろだが、大きい会社の場合、寮のような宿泊施設で生活している。安全であり、日本の食事を賄えるからである。しかし、中にはそんな生活になじめない人もいる。毎晩のように市内へ出て、飲食をしてカラオケバーに入り浸りになってしまうのだ。それは淋しさを紛らわせることであり、アルコールへの逃避であるが、大概の場合、単身赴任できているための気楽さである。会社の規則も国内よりゆるい。そんなことが生活を不規則にしていくらしい。小姐の優しい言葉にも負けてしまうのだろう。表には出てこないが日本に家庭を持ちながら台湾でも同棲をして、ずるずると暮らしている人が結構いることが分った。松山はそんな人に会って、話をしたこともあるが、何故か悪びれる所が無い。
そして、日本へ帰る強い願望も見えてこない。こちらの生活に満足し日本を忘れたかのようである。そのうち病気になり、そのままずるずるとこちらでいつの間にか亡くなっていた人もあった。また、中国へわたり、現地の工場を転々と渡って仕事をしている人もいるらしい。主に技術系の人で、その技術を買われて契約するのだが、あくまで使い捨てである。いらなくなったら、解雇される運命であるが、それでも何とか、生きていけるのである。
松山は日本を離れて暮らすことなど、考えられないので、こんな話を聞くと、とても信じられない気持ちである。日本で生活できないほど困窮しているわけでもなく、家庭にトラブルが起きているわけでもない。可愛い家族が待っている。それでも帰らない。とても理解できないことであった。
数日の業務の予定も無事に終えて、松山は帰国した。台湾が近くて遠い国のように思えた。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿