波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋    第63回

2009-02-02 10:07:02 | Weblog
台湾から帰国した松山はすっかり疲れていた。やはり神経を使い夜昼の仕事は日本と違い、けじめの付かない所がある。特にえらいサンのお供とあっては気の休まる時が無い感じだった。しかし、彼の疲れはそれだけではなかった。
会社での雰囲気も本来の自然さが無かった。相変わらずの空気の中で一人とて、心を許して話せる人がいないことは、ある意味緊張感を伴い、落ち着かなかった。
むしろ外出して、気の許せるユーザーとの時間のほうがのんびり出来る時間ではあった。中には好きなゴルフの話の出来る人もいるし、酒をプライベートに飲める人もいた。五十も半ばを過ぎたこの年頃になって、つくづく淋しさを感じ始めていた。そんな日々の中で、何と言っても楽しいのはゴルフの時間だった。
松山の住んでいる千葉の郊外には公営のゴルフ場があり、ここは抽選で当ると通常の半額ぐらいの料金でプレーが出来た。葉書で応募して当選すると、近所の仲間に連絡をして、出かける。その日も良いお天気で、休日とあって、満員である。
午前中のプレーが終わって、ハウスでの休憩は一時間半と告げられた。松山はいつものように食事の前にワンカップの酒を飲み始めた。
運動をした後での酒は格別だった。メンバーの友達はビールを飲み、わいわいがやがやと賑やかだった。酒はぐんぐん進み、いつの間にか、5本ほど空けていた。
食事を軽く取り、午後のプレーのためにスタートへ向かった。
座って飲んでいるうちは、何事もなく落ち着いていたのだが、歩き始めた時から急に酔いが廻り始めた。確実に様子がおかしかった。
スタート台に立ち、一打はドライバーを振り上げた。ボールは芯には当らなかったが、前に飛んだ。一斉に歩き始めたが、二打目の所に来ると、再びドライバーを振る。そのときは気づかなかったが、そのままプレーは続いた。彼は完全に酩酊状態になっていたのだ。恐らく何を振っているのかも朦朧として良く分っていなかったのではないだろうか。グリーンに上がっても、そのままドライバーでプレーをしている。そんな状態でも、特別むちゃくちゃをするのでもない。ただ、プレーが遅く悪いだけだった。キャデーもあきれたのか、何も言わないで黙って見つめるだけである。そしてその日は無事に終わった。友人達は、終わったあと、慌てて、自宅に電話して、奥さんに迎えに来てもらってホッとしていたが、本人はどんな思いだったのだろうか。松山は酒におぼれる現象が起きることをまだ自覚できていなかったようである。しかし、彼のうちに少しづつ、何かが変化していたのだ。
そして、それは彼の上に大きな重圧になっていく事になる。

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