波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

 オショロコマのように生きた男  第76回

2012-02-27 13:58:40 | Weblog
初めてのことで戸惑っていると野間は嬉しそうにアルバムを開いて見せた。ぱらぱらとめくる写真には特別なものが写っているわけではなかった。ただ言えるのはどの写真も野間が一人で写っているだけで他の人が写ってないこととその姿が登山姿であることであり、どれも登山中の様子であることか、丘の休憩所のようなところであった。
「この山はどこかの有名な山に登ってるところかな」と聞くと「いや、特別なところではない。近くの山だ。」と言う。確かに
車にはいつもカメラが積んであり、何処でも写真が取れれるように準備がしてあり、特に城などがあったり、古い建屋などがあると記念に写していたが、それらの写真に特別変わったところは見られなかった。怪訝な思いで見ていると
「トレッキングって知っているか。」と聞かれた。恥ずかしかったが村田は始めて聞く言葉で「トレッキング」と鸚鵡返しに聞き返した。「何、それ」「やっぱり知らなかったか、何も言わないから知らないと思ったよ。今、中高年の間では結構流行っているんだけど自分も勧められて始めたんだ」「いや、それでそのトレッキングって何をすることなんだ」「簡単に言うとね、
初心者向けの登山のことさ、本格的な登山は色々と訓練や準備そしてトレーニングも要るだろうけどトレッキングは簡単な装備がちゃんと出来ていれば何時でも出来る山登りさ。だから、特別な山を狙うのではなく、むしろ丘のような山を楽しみながら歩くのさ。装備は本格的にしなければならなくて足の先から頭まで特別仕様のものが必要だけどね。」そんなことからそれから
トレッキングに関する薀蓄をしっかり聞かされる羽目になった。「そんな趣味があるとはちっとも知らなかったなあ。」と冷やかすと野間はニヤニヤ笑っている。「登山靴は勿論だが、シャツなんかも軍隊や航空隊員などが使っている汗をかいても汗を
吸収してしまう特別なものでね。暑いときでも結構快適に過ごせるようになっているよ。」と細かく説明をする。
村田はトレッキングの話を聞かされても特別な興味はぜんぜん出てこなかったが、突然のように野間が何故こんなものに夢中になったのか、それが不思議な気がしていた。
確かに趣味は多いほど楽しく、色々あってよいと思うけど唐突にこんな話が出ることを訝しく思うのだ。嘗て村田は自分がゴルフに夢中になっている時、彼を誘ってゆくことをずいぶん進めて何回かトライしたことを聞いていたが性に合わないのか、
練習2,3回で止めてしまったらしくゴルフの話は、それ以来話をしないようにしていた。