波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

         オヨナさんと私    第10回        

2009-07-17 09:28:54 | Weblog
あの頃はオヨナさんも世の中のこと、将来のことなど何も分らず、又考えず、ひたすら目の前のことに追われていた。何となく、自分は子供たちに新しい希望を与え、成長する姿を見たい、そんな思いで自分の夢を求めていたような気がする。そして突然話し始めた。
「私もお父さんが言うように暫くこのまま様子を見るのが良いと思います。
ただ出来れば、二つのことを約束してもらうことが大切なことでは無いかと考えます。一つは健康についてです。病気になったらすぐ連絡して相談すること。
外国のことであるし、言葉の不便さもあります。誤った処置で取り返しの付かないことにならないようにするためです。もう一つはいつでも良いから、必ず帰る事を約束させることです。将来のことは誰にも分らないことですけど、本人に大人の自覚を促すことになります。これも大事なことだと思います。
そして良いタイミングでご両親であちらに出向いたらどうでしょうか。ツアーの中であちらで会う機会もてたらお互いの気持ちがスムーズに通じることもあるかもしれません」静かに、ぽつぽつと話すオヨナさんに「もう一杯お茶をいかがですか。」と進められ二杯目のお茶をおいしそうに飲んだ。
夕方になり、日も少し翳り、涼しい風が吹き始めた。「ごちそうになりました。」
オヨナさんは立ち上がった。慌てたように二人も立ち上がり、「こちらこそ、いろいろありがとうございました。」と挨拶を交わし、見送ったのである。
大宮駅から在来線に乗り換えて電車に揺られながらオヨナさんは鞄を抱えたまま居眠りをして、夢を見ていた。
(其処は何もない荒野で石と岩が見えるだけのところだ。杖を手にオヨナさんは歩いている。どこと言うあてがあるわけではない。無性にのどが渇いている。
水が飲みたい。そう思っていると、前方に井戸のようなものが見えてきた。その井戸の傍に女が一人座っている。オヨナさんは女に水を一杯いただけないか。と頼んだ。女は黙って水を汲むとそれを差し出した。オヨナさんは女に何か話しかけたが、それは言葉にならなかった。)突然ガタンと電車が揺れて止まった。オヨナさんは夢から覚めると、ぼんやりした頭で歩き出した。