波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

     オヨナさんと私    第7回

2009-07-06 09:52:01 | Weblog
「傍目八目という言葉を知っていますか。」ヨナさんはスケッチを書きながら婦人を振り向き話した。「将棋や囲碁をしている人の傍で、それを見ている人がその将棋や囲碁を指している人の気づかない勝負の八目先を読むことができると言うことわざなのですが、自分のことは分らなくても人のことは意外と冷静に判断できると言うことを指しているのです。そして、そばで見ていて分った顔をしているひともまた、自分のことになると他の人より八目劣ることしか分らないのです。
つまり、自分のことについては自分以外の人より、八目劣るものだと言うことです。したがって、妻にとって、妻自身のことは傍にいる夫のほうが八目上と言うことになります。(夫のことは妻が上と言うことになる。)
勿論、当事者のほうが深く考えていることもあるかもしれませんし、傍で見ている人が勘違いをしていたり、誤解をしていることもあるかもしれません。
でも、相手が八目上段である場合が多いことも確かなのです。あなたのご主人が
そのような態度であることは何かのサインを出しているのです。
サインと言うのは野球なんかでも使われますが、普通はお互いに確認をして交わすものですが、この場合は確認がありません。だから奥さんには分りません。
そして、混乱が起きるのです。」
「主人は何をして欲しいのですか。どうしてくれと言っているのですか。」
「一度、私を抱っこして頂戴。私、あなたの言う通りしてみるわと言ってみてください」突然ヨナさんはそういうと、婦人を見て少し微笑んだ。
婦人は一瞬、大きく目も開き、驚いた表情だったが、少しの間があって同じように微笑んでいた。「子供たちが成長して家を出てから、何も気づかないまま二人で仕事をしながら暮らし、何も考えていませんでした。いつの間にか、子供たちがいたときと気持ちも考え方もすっかりかわっていた見たいです。
私、言われたように勇気を出して主人に言いますわ。私を抱っこして頂戴って」
「本当にいえますか。」「大丈夫です。言います。」
二人は冷たいお茶を飲み、其処には静寂が戻っていた。
暫くして、気持ちが落ち着き、納得したのか、婦人は「どうもありがとうございました。というと、名前も言わず、静かに其処を去って行った。
その日傘を差した、絽の和服姿にはさっきのようなとげとげしさは無く暖かいものが漂っていた。それは見送るヨナさんにも伝わっていたのだ。