波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋   第33回

2008-10-20 14:37:18 | Weblog
小林がニヤニヤ笑いながら松山のところへ近づいてきた。「お前、台湾へ行って面白いことがあったじゃないのか、表の話は分ったけど、裏の話を聞きたいね。」
松山はドキッとした。所長は何回も言っているので、いろいろなことを知っているらしい。でもそういうことになると口が堅くなって仕事以外の話はあまり聞いていない。自分では何も話そうとしないで、人から何か聞きだそうとする所長の態度にカチンと来るものがあったが、上司に怒ることも出来ないので、黙ってやり過ごそうとしたが、「夜なんかどうしてたんだよ。」と追求してくる。
何を言わそうとしているのか、何が聞きたいのか、まさか女と遊んだことでもしゃべれと言うことなのかと頭を廻して、これは何か言わなきゃしょうがないのかと覚悟を決めることにした。「いやあ。台湾の女の子はいいですね。小姐シャオチエと呼んでますが、日本語ぺらぺらなんで、不自由しませんでした。お客さんと会食の後、別れてから日本から行った人たちで二次会にスナックへ行きました。
もっともその店も日本人の客が多いい店で雰囲気は全く変わりません。でもそんなに飛び切りきれいな子はいませんでしたね。ただ、愛想がいい事と話が出来るのが
とりえで助かりました。聞いた話によると、個人交渉でホテルにはつれて帰ることは出来るそうで、相場も三万円ぐらいと聞きました。」「それで、つれて帰ったのかね。」「いやー。私はお酒のほうが良いので、飲んでばかりいて、時間になる頃は大分出来上がっていて、眠りこけるところでした。中には良い子を見つけてつれて帰った人もいましたけど。」「そうか。残念だったね。」
話しながら、酒の飲めない所長なら連れて帰りそうだなあとは思っていた。
これ以上話していると、お互いにぼろが出そうなことにもなりかねないので話題を変えた。「食べ物や、お土産で印象に残ったものがあるかい。」「食べ物は勿論中華だけど、みんな特徴があっておいしく食べれないものは無いですよ。最も日本で中華に食べ親しんでいることもありますけどね。お土産は残念ながら特別気に入ったものは見つかりませんでした。これは趣向の違いでしょうか。ウーロン茶は一杯ありましたね。」女史はそばでニヤニヤしながら聞いていたが、何も言わなかった。いずれにしてものん兵衛の松山にとって女の話は無縁に近いし、興味もあまり無かった。話をしながら家で待っているか加代子のことを思うだけであった。
小林もこれ以上は何も出てこないと思ったのか、それとも、場違いな話をしたことを後悔したのか静かに自分の席に戻ると、電話を手に取っていた。