波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋    第31回

2008-10-13 14:43:40 | Weblog
金融会社から夜になると電話があり、債権の手形を渡すように脅迫的なことを言われたことを思い出して改めて今回の出来事が現実であったこと、そして多くの人に大きな災難をもたらせたことを知らされて恐怖を感じたのである。
鈴木さんもその後消息がわからず、品の良い妙齢の女性社員の方とも会う機会がなくなってしまった。木下さん一家も家を出て埼玉の郊外へ行かれたと風の噂で聞いていたが、もうお会いすることは出来なくなってしまった。
本社からは正式に通達が来た。小林と松山は3ヶ月の減俸(10%)ということで
それ以外の懲罰は無かった。そんなに高くない給料からの減額は痛かったが、首になることを思えばよかったと、松山と加代子は
「災難だったと思うしかないね。誰も恨むわけにも行かないし、誰も特別悪かったわけでもない。ただ人間は弱いから、誰かに頼られたりした時に不安になり、迷ってしまうことがあるんだよ。専務も誰かに話すか、相談をしてみればこんなことにはならなかったのに、可愛そうだよね。」「これから何が起きるか分らないけどお互い何があっても話して助け合っていこうね。」二人はしみじみと話し合ったのである。松山の趣味は特別なものは無い。お酒をおいしく飲むことと、ゴルフぐらいである。友達も特別親しい人がいるわけではない。弟も離れて暮らしていてたまにしか帰ってこない。両親とは一緒に暮らしているが、普段行動を一緒にすることはないし、何事もない。でもお互いに分かり合う信頼関係がそこにはあり、揉め事は無かった。ゴルフへのこだわりはプレーもさることながら道具については一家言があり、うるさかった。しかし、それは高いものやブランドにこだわるのと言うのではなく、自分で内作をして納得のいくものを自作するのである。と言ってもそんなに金を掛けるというのではない。自分で安い道具をそろえ、削り、切削をしてバランスを整えていくのである。
自分で納得のいくものでプレーをし、更により良い物へと工夫をするのである。たしかにゴルフはメンタルな要素が大きくプロでも同じクラブをずっと使うことはまれである。何故ならば体調の変化、成績の結果によってはクラブにその要因を帰することが多いいからで彼も同じ思考の影響なのであろう。そして又自分でこつこつと積み上げていくのは仕事も同じだが、彼の性格に合っているのかもしれない。
そのことに没頭している時の彼は一番すべてを忘れる楽しい時間なのである。
娘達も、加代子もそんな彼を見ているのが一番安心の時でもあった。
大きくなって父親のところへはよって来なくなってきているが、うるさい母親よりも頼もしい父に対する思いは大きいようだった。