波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋   第28回

2008-10-03 09:52:39 | Weblog
松山もその日、帰りの電車でいつもの酒を飲みながら今日の出来事を思い出しながら考えていた。もし自分が小林の立場で相手のことを思いアドバイスをするとしたらどんなことが言えただろうか。
いつか、友人から聖書を渡され読んだ事があるが、その中でキリストの弟子が
「何が一番大切なことですか。」と聞いた時にキリストは「神の国を愛せよ。
そして隣人を愛せよ」と教えたと書いてあったことを思い出していた。
自分に関係している人が隣人であるならば、あの人も隣人だが私は彼に何が出来ただろうか。普通ならそんな話を聞いてもどうしようもないこと、自分には関係の無いこと、見放してしまうだろう。所長はどんなことをしたのだろう。
私も同じだろうか。少し酔いの回ってきた頭で考えながら、何も思い浮かばず、思いつくこともなかった。
そして人間は生きていく上で様々な問題にあたり悩み、苦しみ、不安の中におかれる。そんな時に何を頼り、何を信じ、どうすることが良いのかが求められるが、
そこに確実な答えを見出せない。頼るべきものの無いことの脆さを感じていた。
「弱った時の神頼み」とあるけど、どんな神なのだろうか、人間の知恵で考えられる神とはどんな神なのか、急には考えられなかった。
自由になるお金があって、好きなことが出来ること、したい事が出来る。そのことが返ってその人に不幸を招いたのだろうか。
そんなことを考えているうちに、不図加代子の顔が浮かんできた。我が家は貧乏だけど、幸せだ。和夫はそう思うと、もうほかの事は忘れていた。
数日が過ぎた。何の電話も無いので落ち着いたのかと思っていたが、又鈴木氏から電話があった。会社に得体の知れない人が入ってきて社長の家族が軟禁されているようだと言うのだある。当然ながら、会社は仕事が出来なくなり、社員は自宅待機になったようである。事態は次第に悪化していた。
小林によると、夜自宅へ全く知らないところから電話があり、名前も名乗らず、
「手形をよこせ」と脅迫めいたことを言われているらしい。
又、木下専務からも「言われたとおりにしてくれ」と頼まれているとのことだが、こればかりは簡単に言う事を聞くわけにも行かず、出来ないと突っぱねている。
結局、この話は弁護士に正式に依頼するところとなった。どうやら弁護士同志の専門協議になった。
小林も、松山もこの時点で自分達の手から離れることになり、少しホッとすることが出来た。しかし、これで未集金の手形の金額が保証されたわけではない。