波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋    第30回

2008-10-10 11:20:14 | Weblog
松山は他人事のような思いで木下物産のことを考えていた。建物は十階建てのビルで敷地面積も百坪ある。場所は明治通り沿いに面している。資産額も相当なもので何億もすると思われる。それが一夜にして他人のものになり、家族はそこから出て行くことになる。
またしても、自分が何も出来ず、力になってあげることも出来なかったことに一抹の反省をさせられていた。会社への出入りは出来なくなり、中の様子は詳しく知ることは出来なかったがその金融会社の所有となり、家族の人たちは郊外へ引っ越し、会社は倒産として処理された。
まるで悪夢を見たような出来事が僅か数ヶ月のうちに起こり、何十年の歴史のある老舗が一夜のうちに消えたのである。あの木下専務は今頃どうしているのだろう。年老いた社長はお元気だろうか。家族の人たちはと思いは消えることは無かった。
人間はつくづく不思議なものだ。何不自由のない生活をし、立派な家族に囲まれていながら何故突然あんなにも変わるのだろうか。そしてそれはその人だけでなくその人に関わるすべての人に影響を与えてしまう。とりわけ幼い子供の将来の運命をも変えてしまうことになる。しかも何の罪も無いのに。
そしてこのことは当の木下氏自身も自分のしたことに罪悪感を持っていないのではないか。自分はむしろ良いことをしたのにどうしてこんなことになったのだろうと
戸惑っているのではないだろうか。何故こんなことになってしまったのか。
こう考えているうちに松山は不図、今回の事件は誰も悪くないのではないか。誰が何をしたというほどのことは無い。しかし、その中にあって人間と言うものの弱さ、そしてその弱さを知った時にどのように考え、どうすることが大事だったのかそのことをもっと考えて行動すべきだったのだ。
木下さんは確かにある女性から頼まれて言うことを聞いてあげただけだったはずだ。自分はそのことでその女性に代償を求めたわけではない。(恐らく)
その結果としてお金を浪費するところとなり、(会社のお金を使わず)
そのために金融機関からの金で浪費を重ね、その利息、元金が知らず知らずに増えていったのだと思う。勿論返済は厳しく、恐らくいざとなればそのお金を融通することはそれほどのことは無いと思っていたのだろう。しかし、その金融の仕組みを知らされて動転したのだと思う。
いずれにしても彼はこんな大事に至るとは夢にも考えていなかっただろうし、今でもなんで、どうしてこんなことになったのだろうとまるで詐欺にでもあったような気持ちでいたのではないだろうか。