く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 「神の島 沖ノ島」(藤原新也・安部龍太郎著、小学館発行)

2013年10月03日 | BOOK

【〝海の正倉院〟の写真集と航海録・掌編歴史小説】

 沖ノ島は福岡県宗像市の沖合約60キロの玄界灘に浮かぶ絶海の孤島。古くから航海の安全を祈るための祭祀が行われてきた。戦後の学術調査ではササン朝ペルシャのガラス片なども含む約8万点に上る祭祀遺物が見つかり、一括して国宝に指定されている。そのため沖ノ島は〝海の正倉院〟とも呼ばれ、2009年には「宗像・沖ノ島と関連遺産群」として世界遺産暫定リストに掲載された。

   

 島の中腹には宗像大社の分社・沖津宮が鎮座し、若い神職1人が交代で常駐する。島全体が御神体で、原則神職以外には立ち入りができない。今も女人禁制。その島に作家の安部龍太郎と作家・写真家の藤原新也が渡った。本書はその体験を踏まえた写真集兼文集である。2人とも福岡県出身。安部氏は「等伯」で直木賞を受賞し、藤原氏は「全東洋街道」などの写真集のほか小説作品もある。

 A4版の大型ハードカバー本で、藤原氏の「沖ノ島航海録」と写真集、安部氏の「古代宗像一族の物語」から成る。藤原氏は幼少時、沖ノ島から出土したとみられる泥色の茶碗を漁師が持っているのを見たという。「あの島のものを持ってくるとバチが当たる」。航海録はそんな思い出話から始まる。宗像を出港して約1時間、ようやく水平線に島影が。「沖ノ島はとりつく島もない、茫洋とした海の彼方に現れた〝とりつく島〟であり、すなわちそれは神そのものなのである」。

 写真集はその遠景の島影をはじめ断崖絶壁、苔むした飛び石、鬱蒼とした原始林、古代祭祀が行われた巨岩、そこかしこに散らばるかわらけ、祠や石を根元で覆う巨木など30点余り。見開きA3版の巨大サイズだけに迫力満点だ。神秘の島の写真が広く公開されるのは初めてだろう。これら風景写真と併せ、藤原氏の「沖ノ島祭祀と宝物」の一文に続いて勾玉、純金製の指輪、奈良三彩小壺(日本最古の釉薬陶器)などの出土品も写真で紹介する。

 安部氏の「古代宗像一族の物語」は序の「宗像大社」「沖ノ島上陸記」の後に「三韓征伐」「磐井の反乱」「白村江の戦い」「壬申の乱」の4話が続く。結びの「海の男の心の支え」で、安部氏は「おそらく初期には宗像氏が地方豪族として祭祀を行い、大和朝廷と朝鮮半島との関わりが深くなった頃から、朝廷による祭祀が行われるようになったのだろう」と推測。さらに遺跡から鉄の延べ板が出土していることから「朝廷が沖ノ島の祭祀にかかわるようになったきっかけは、鉄の輸入の必要性だと考えられている」とする。

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