く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<海龍王寺> 秘仏十一面観音立像など特別公開

2021年03月31日 | 美術

【光明皇后や弘法大師の写経なども】

 遣唐使の航海安全祈願の寺として信仰を集めた古刹、海龍王寺(奈良市法華寺町)で、秘仏の本尊十一面観音菩薩立像(重要文化財)などを特別公開する寺宝展が開かれている。光明皇后が書写した「自在王菩薩経」や弘法大師筆「隅寺写経」、文殊菩薩像(重文)、毘沙門天画像(同)、聖徳太子像なども公開中。このお寺は境内を彩るユキヤナギの寺としても知られるが、30日訪ねると花はすでに盛りを過ぎていた。その代わりソメイヨシノや枝垂れ桜が満開だった。

 海龍王寺は奈良時代初め藤原不比等邸の北東隅にあり、720年に不比等が没すると娘の光明皇后の〝皇后宮内寺院〟となった。本尊は桧の寄木造りで像高は約94cm。光明皇后が刻んだ像を基に鎌倉時代に慶派の仏師によって彫られた。肉身は金泥、衣は朱や緑青などで彩色され、切金で精緻な文様が施されている。お顔の赤い唇が印象的だ。本尊の左側には運慶作と伝わる文殊菩薩像や愛染明王像、右側には毘沙門天像などが安置されている。そのそばには毘沙門天画像も。

  

 光明皇后の「自在王菩薩経」は父不比等と母県犬養橘三千代の追善供養のために743年に書写されたもの。弘法大師の写経に関しては鎌倉初期の寺文書の中に「弘法大師が渡唐の無事を祈り、壱千巻の般若心経を書写・納経された」との記述があるという。聖徳太子像は2歳と7歳の頃のお姿を写したといわれる2体が公開されている。7歳像については江戸時代の什器帳に「聖徳太子像・御自作」と記されているそうだ。ちなみに今年は聖徳太子没後1400年の節目。太子が創建した法隆寺では4月3~5日1400年御聖諱(ごしょうき)法要が営まれる。

  

 本堂の左手にある西金堂(重文)は奈良時代に建立された建物で、堂内には国宝の五重小塔が安置されている。高さは4.01mで、均整のとれた精巧な造り。塔が小規模なのは皇后宮内寺院として敷地が限られていたため、2基の小塔を造って東西の両金堂に納めたのではないかと考えられている。東金堂は創建時から西金堂と向き合う形で立っていたが、明治の廃仏毀釈の影響を受けて失われ今では基壇の跡を残すのみ。春の特別公開は3月23日~4月7日に続いて5月1~9日にも行われる。

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<ハナチョウジ(花丁字)> 赤い筒状花が咲き乱れて

2021年03月29日 | 花の四季

【メキシコ原産、学名から「ラッセリア」とも】

 オオバコ科(またはゴマノハグサ科)ハナチョウジ属の常緑低木(高さ50~120cm)。原産地はメキシコで、日本には明治時代に渡ってきた。枝はよく分枝し弓状にしだれて赤い筒状花(長さ2~3cm)を下向きに付ける。花の先端は4つまたは5つに裂けて開く。最盛期には無数の花が咲き乱れ、まるで滝のように流れ落ちる。

 学名は「Russelia equsetiformis(ラッセリア・エクイセティフォルミス)」。属名は18世紀の英国の医師・植物学者、アレクサンダー・ラッセル(1715頃~1768)の名前に因む。ハナチョウジはこの学名から「ラッセリア」とも呼ばれる。種小名の語源は「エクイセツム属のような形の」。エクイセツム属の和名はトクサ属で、葉が退化して緑色の茎だけが目立つ様子がトクサ(砥草)の仲間に似ていることによる。

 和名は花を横から見ると「丁」の字に見えることから。花は赤い色が一般的だが、白やピンク、クリーム色なども。英名では「コーラルプラント」や「ファイアー・クラッカープラント」とも呼ばれる。鮮やかな赤い花を珊瑚(サンゴ)や爆竹(花火)にたとえた。日本でも「バクチクソウ(爆竹草)」と呼ばれることもあるようだ。もともと熱帯育ちのため寒さにはやや弱いが、暖かい地域では春から秋まで長く咲き続ける。

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<フッケリーメギ> その名は19世紀の英植物学者から

2021年03月26日 | 花の四季

【ヒマラヤ原産、小枝に黄色の6弁花をびっしり】

 メギ科メギ属の常緑低木(高さ2~3m)で、日本に自生するメギの仲間。学名「Berberis hookeri(ベルベリス・フーケリー)」。インド北部~ネパール、ブータンのヒマラヤ地方に分布する。枝にはメギ同様、鋭い棘がある。4~5月頃、鮮やかな黄色の6弁花が集まった散形花序を付け、花後には果実が青紫色に熟す。

 属名はアラビア語でのメギの名に由来するという。メギの葉や枝はアルカロイド成分の「ベルベリン」を多く含み、目の洗顔薬などに用いられる。和名に「目木」の字が当てられたのもそのため。種小名は19世紀の英国の植物学者フッカー親子への献名。父ウィリアム・ジャクソン・フッカー(1785~1865)と息子のジョセフ・ダルトン・フッカー(1817~1911)はともに王立キューガーデンの園長を務めた。ジョセフは『種の起源』のダーウィンと交流があり、『ヒマラヤ紀行』『英領インドの植物相』などの著作を通して多種多様なヒマラヤ植物の魅力を世界に発信した。

 日本のメギの学名は「Berberis thumbergii(ツンベルギィ)」だが、和名には「コトリトマラズ(小鳥止まらず)」という別名もある。こんな変わった名で呼ばれるのも枝に鋭い棘が多いため。さらに本州の中部や近畿に自生する日本固有種のメギの仲間「Berberis sieboldii(シーボルディ)」は「ヘビノボラズ(蛇上らず)」が標準和名になっている。その変種に「ヒロハヘビノボラズ」もある。メギ類は薬用のほか、防犯や害獣侵入防止のため生垣などとしても利用されてきた。

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<郡山城址公園> 東隅櫓を彩る枝垂れ桜

2021年03月24日 | 祭り

【きょう24日から第60回お城まつり】

 関西有数の桜の名所、奈良県大和郡山市の郡山城址公園。「日本さくら名所100選」にも選ばれており、満開の桜が城内を彩る3月下旬~4月初旬には毎年「大和郡山お城まつり」が開かれてきた。60回目となる今年も24日から始まる。追手東隅櫓そばの枝垂れ桜はソメイヨシノより一足早く白く染め上がり、前日の23日には早くも多くの人がカメラを構えていた。約150年ぶりに再建された城内の「極楽橋」の近くにある枝垂れ桜もその完成とまつりの開幕を祝うかのように咲き誇っていた。

 郡山城は1580年筒井順慶によって築城が始まり、85年に入城した豊臣秀長(秀吉の弟)の手によって大きく拡張された。野面積みの天守台の石垣などには寺院の礎石や石地蔵、五輪塔などが転用石として多数使われている。江戸時代になると水野、松平など徳川譜代の大名が次々に城主へ。そして1724年甲府から柳沢吉保の長男吉里が転封すると柳沢氏は6代145年間続いた。その後、明治政府による廃城令で城内の建築物は入札売却され全て失われた。

 城郭の復元が始まったのは1980年代になってから。追手門に続いて追手向櫓、多門櫓、東隅櫓と続き、2017年には崩壊の恐れもあった天守台の石垣修復と展望デッキの整備が行われた。さらに今年3月12日には本丸と毘沙門曲輪を結ぶ極楽橋も完成して渡り初めが行われた。橋は江戸時代の史料や発掘調査の成果を踏まえ、公益財団法人郡山城史跡・柳沢文庫保存会によって再建された。長さ約22m幅5.4mの緩やかに弧を描く反り橋で、床材や高欄には奈良県産のヒノキ材が使われた。

 お城まつりでは毎年、時代行列や市民パレードなどが華やかに行われてきた。しかしコロナ禍による感染防止のため昨年は急遽中止となり、今年も行列とパレードは取り止めに。その代わりに今年は3~8月の分散型・回遊型イベントとして開催することになった。この間に柳沢神社での奉告祭、天守台での巨大な数珠繰り法要、女王卑弥呼(市キャンペーンレディー)の就任式、金魚品評会、歴史リアル謎解きゲームなどが繰り広げられる。

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<トクサ(砥草/木賊)> かつては木・竹などの研磨に

2021年03月22日 | 花の四季

【茎は伝統色の「木賊色」、能の演目にも】

 トクサ科トクサ属の多年生常緑シダ植物。本州中部以北~北海道の渓谷沿いなどの湿地に自生する。観賞用として庭に植えられ、花材として利用されることも多い。横に這う地下茎の節から高さ60~100cmほどの円柱形の地上茎を直立する。茎は中空で直径5~6mm。夏に茎のてっぺんにツクシに似た形の胞子嚢穂(ほうしのうすい)を付ける。茎の青みがかった濃い緑色は「木賊色」(別名陰萌黄=かげもえぎ)と呼ばれ、古くから伝わる日本の伝統色の一つになっている。

 和名は「砥ぐ草」からの転訛、木賊は漢名から。茎には縦に細かい筋が走り珪酸を多く含む。このため表面がざらついて硬いことから、かつては木や竹細工、角や骨などの研磨材として用いられた。別名にハミガキグサ、ヤスリグサ、ツメトギなど。茎は生薬名で「木賊(もくぞく)」と呼ばれ止血・解熱・下痢止めなどとして煎じて服用された。学名は「Equisetum hyemale(エクイセツム・ヒエマレ)」。属名はラテン語で「馬の毛」、種小名は「冬の」を意味する。

 トクサはかつて信州などでよく栽培され各地に出荷されていたという。能の中にその信州を舞台にした演目がある。室町時代の能役者世阿弥の作ともいわれる「木賊」。都の僧がもう一度父に会いたいという少年僧を伴って信濃の国園原を訪れ、トクサ刈りをしていた老人に出会う。わが家に案内した老人は身の上話をし、生き別れた息子の装束を纏って舞う。そして少年僧が実はその老人の息子だったことが分かり、再会を喜び合う――。長唄にも「木賊刈」という演目がある。「木賊刈る園原山の木の間より 磨かれ出づる秋の夜の月」(源仲正=平安末期の武人・歌人)

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<洋画「ハクソー・リッジ」> 沖縄戦に従軍した米衛生兵の“戦功”

2021年03月20日 | 美術

【壮絶な戦闘をかいくぐって負傷兵を次々に救助】

 コロナ禍による巣籠もり状態の中、うちでDVDを見る頻度が以前より高まった。数えてみたら昨年は4月下旬以降年末までに邦画・洋画合わせて149本。今年に入ってややペースが落ちたが、それでも3月19日までに35本。ほぼ2日に1本近くだ。最近見た洋画ではメル・ギブソン監督の戦争映画「ハクソー・リッジ」が印象に残った。沖縄戦に従軍し多くの人命を救った一人の衛生兵の実話物語だ。その英雄的な活躍はまさに感動ものだが、一方で血みどろの戦闘シーンには目をそむけたくなる凄惨な場面も多く、見る者を壮絶な沖縄戦の渦中に引き込んでしまう迫力に満ちていた。

 映画の舞台となったのは日本軍の守備隊が置かれていた沖縄・浦添城跡そばの前田高地。米軍は立ちはだかる急峻な崖地をハクソー・リッジ(弓鋸尾根)と呼んだ。実際のロケはギブソン監督の出身地で、よく似た地形のオーストラリアで行われた。浦添での戦闘は大戦末期の1945年4月下旬に始まり、日本軍が撤退する5月6日まで続いた。地元の民間人は映画の中に一切描かれていない。ただ当時の浦添村では住民の半分近い約4100人が死亡したといわれており、戦闘の激しさを物語っている。

 主人公の衛生兵のモデルは敬虔なクリスチャンだったデズモンド・ドスさん(1919~2006)。日本軍の真珠湾攻撃に衝撃を受けて志願し兵役に就く。ただ“良心的兵役拒否者”として銃に触ることを拒否し続け、軍法会議にも掛けられる。結局、衛生兵として従軍しグアムや沖縄などで多くの負傷兵の命を救った。沖縄で救出した米兵は映画の中では75人だが、実際にはもっと多かったという証言もあるようだ。「もう1人」「もう1人」。そう神に祈りながら負傷兵を次々に抱えてはロープで崖から下ろす救出シーンが印象的。米兵だけでなく敵の日本兵を手当てする場面も描かれている。最後は自らも負傷し崖の上から担架に横たわったまま吊り下ろされる。

 ドスさんは戦後、良心的兵役拒否者としては初めて大統領から名誉勲章を贈られた。映画のエピローグではそのときの映像やドスさんの生前のインタビュー映像なども流される。兵役中銃を持つよう厳しく指導した上官の1人はインタビューにこう答えていた。「彼こそ最も勇敢な男だった。彼に命を救われたんだから、人生は皮肉だね」。この映画は2016年秋に米国とオーストラリアで公開されたが、日本での封切りは翌17年の6月24日だった。この日は沖縄戦の戦没者を悼む「沖縄慰霊の日」の翌日に当たる。沖縄にとって最も大切な日6月23日を考慮しての日本公開だったのだろう。

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<オオタニワタリ(大谷渡)> 巨大な葉を放射状に広げ

2021年03月18日 | 花の四季

【記紀に登場する「御綱柏」はこの植物?】

 チャセンシダ科チャセンシダ属(アスプレニウム属)の亜熱帯性の常緑植物。本州の紀伊半島南岸から南九州、南西諸島にかけて自生する。谷間のやや湿った岩場や樹幹に着生し、身を乗り出すように巨大な葉を広げる様がまるで谷を渡るように見えることから「オオタニワタリ」と命名された。単に「タニワタリ」と呼ばれることも。根元から放射状に伸びる葉は波打って光沢があり、長さは1mほどにもなる。葉の裏側には胞子嚢(ほうしのう)が線状にびっしり張り付く。

 学名は「Asplenium antiquum(アスプレニウム・アンティクム)」。名付け親は牧野富太郎博士で、属名の語源は「a(接頭語)」+「splen(脾臓)」、種小名は「古代の」を意味する。よく似たシマオオタニワタリは奄美群島以南に多く自生する。一番の見分け方は胞子嚢群(ソーラス)の範囲。オオタニワタリは胞子嚢が主脈から左右の葉の縁近くまで伸びるのに対し、シマオオタニワタリは主脈と縁のほぼ中間辺りまでとやや短い。沖縄に多いシマオオタニワタリやヤエヤマオオタニワタリは山菜として新芽がてんぷらや炒め物など食用に。コリコリとした食感で歯ごたえがあるそうだ。

 環境省のレッドリスト2020ではオオタニワタリは絶滅危惧Ⅱ類、シマオオタニワタリは準絶滅危惧種。三重県紀北町の沖合いにある無人島大島はオオタニワタリの北限といわれ、島全体が「大島暖地性植物群落」として国指定天然記念物になっている。かつては四国の徳島県や高知県でも自生が確認されていた。だが、今では両県とも野生種は既に絶滅したとみられている。オオタニワタリの仲間は観葉植物や花材として人気があり、シマオオタニワタリの小型園芸品種‘アビス’がよく栽培されている。

 古代の歴史書記紀の仁徳天皇と皇后磐之媛(石之日売)にまつわる逸話の中に「ミツナガシワ」という植物が登場する。表記は古事記が「御綱柏」、日本書紀が「御綱葉」。オオタニワタリがその植物ではないかとする説がある。皇后が酒宴に使うミツナガシワを採集するため紀伊国に出かけた。その留守をいいことに天皇が異母妹の八田皇女を宮中に迎え入れる。それを知った嫉妬深い皇后は激怒しミツナガシワを海に投げ捨てた――。このミツナガシワにはオオタニワタリのほかカクレミノ(ウコギ科)とする説もある。牧野博士は学名にわざわざ「古代の」を表す言葉を入れた。なぜ? もしかしたら博士は記紀の伝承を熟知しており、ミツナガシワがオオタニワタリを指すという確信があったのかもしれない。

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<トキワマンサク(常盤万作/満作)> 咲き乱れるリボン状の白花

2021年03月16日 | 花の四季

【国内自生地は伊勢神宮と静岡、熊本の3カ所】

 マンサク科の小高木(高さ3~6m)。細長いリボン状の4枚の花弁からなる白い花が数個ずつ集まって、枝先や葉の付け根から放射状に伸びる。早春他の木々に先駆けて黄色い花を付けるマンサクが落葉樹なのに対し、トキワマンサクは常緑樹のため冬でも落葉しない。分類上もマンサク属、トキワマンサク属と異なる。マンサクの語源には「まず咲く」からの転訛や、花が木全体を覆い尽す様子から「満作」などいくつかの説がある。

 学名は「Loropetalum chinense(ロロペタルム。シネンセ)」。属名は「革紐」と「花弁」の合成語、種小名は「中国の」を意味する。トキワマンサクは日本や中国南部、台湾、ヒマラヤ東部などに分布する。ただ日本で自生が確認されているのはわずか3カ所にすぎない。90年前の1931年に発見された三重県の伊勢神宮、その後見つかった静岡県湖西市神座と熊本県荒尾市の小岱山。湖西市のトキワマンサクは北限群生地として静岡県指定天然記念物に、小岱山のものも熊本県の特定希少野生植物と荒尾市指定天然記念物になっている。

 変種に花色が濃いピンクのベニバナトキワマンサク(またはアカバナトキワマンサク)がある。こちらは中国原産。赤紫色になる銅葉も美しいため庭木や公園樹などとして植えられることが多い。よく似た名前のものにベニマンサクがあるが、これは落葉樹のマルバノキの別名。環境省は国内の自生地が限られるトキワマンサクを、近い将来絶滅の危険性が高いとして絶滅危惧ⅠB類に指定している。静岡県湖西市は毎年4月開花に合わせ「トキワマンサクまつり」を開いてきた。しかし新型コロナウイルスのため昨年に続き今年もやむなく中止することになったそうだ。

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<大和文華館>「中国青花と染付磁器―京都の鹿背山焼」

2021年03月14日 | 美術

【青花・染付など85点、有田や長崎・亀山焼も】

 大和文華館(奈良市学園南)で特別企画展「中国青花と染付磁器―京都の鹿背山焼」が開かれている。青花(せいか)は下地の白磁にコバルトを含む顔料で直接絵付けし透明釉をかけた磁器。元時代(1279~1368)の14世紀中頃に生まれ、明時代(1368~1644)に中国から海外へ盛んに輸出された。藍色の美しい発色の文様は世界で絶賛され、日本では江戸時代初めに青花を手本にして染付が誕生した。この企画展では有田焼や京都の鹿背山焼(かせやまやき)などを通じて、中国の青花が日本でどう受容され展開していったのかを探る。4月4日まで。

 会場には「中国の青花と五彩」「日本の染付:中国陶器の写しと展開」「鹿背山焼と中国陶磁」の3つのテーマごとに計85点の壷や鉢、皿、水指、徳利などが並ぶ。入り口正面には各テーマを代表する磁器3点。右の小さな香炉「青花鹿文香炉」(京都国立博物館蔵)は中国・明末期の景徳鎮窯製。真ん中の「染付山水文大皿」(文華館蔵)は直径45.4cmの大皿で、初期伊万里の代表作として重要文化財に指定されている。左の鹿背山焼「吹墨手鹿桜紅葉文鉢」(木津川市教育委員会蔵)は素地に型紙の文様を当てて顔料を吹き付ける〝吹墨(ふきずみ)〟の技法による。

 会場に入るとまず文華館蔵のものを中心に明時代初期~清時代の景徳鎮窯の青花や五彩が40点ほど並ぶ。五彩は釉薬をかけて焼いた白い素地の上に多色の絵具で文様を描き再び焼き上げたもの。続いて展示されているのは青花を写した有田の染付や、五彩の技法を取り入れた有田の色絵の大皿や小鉢など。有田以外では江戸後期に長崎奉行の命で開かれた亀山焼の鉢や、京都で活躍した陶芸家青木木米(1767~1833)と永楽保全(1795~1854)の小品も。この2人は〝祥瑞(しょんずい)〟など中国陶磁の写しに精力的に取り組んだことで知られる。木米は加賀九谷焼の再生に尽くし、保全も作陶指導のため紀州など各地に出かけた。

 中国の青花・五彩は肥前・有田で染付・色絵として花が開くが、京都でも江戸後期から明治にかけ現在の京都府木津川市鹿背山で青花を写した精緻な文様の鹿背山焼が焼造された。会場には木津川市教委蔵を中心に約20点の鹿背山焼が並ぶ。青花を手本に染付が誕生して約400年。斬新な中国磁器を最初に目にした人々の驚きはいかばかりだったのだろうか。自らの手で中国に劣らない磁器を作り上げたい――。当時の陶芸家たちはそんな思いを募らせ、ほとばしる情熱に駆られて作陶に励んだに違いない。

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<イカリソウ(錨草・碇草)> その名は特異な花の形から

2021年03月12日 | 花の四季

【地域によって様々な変異種。常盤・梅花・黄花…】

 メギ科イカリソウ属(エピメディウム属)の多年草。基本種のイカリソウは主に本州、四国、九州の低山や丘陵地に自生する。早春から初夏にかけ、4枚の花弁と8つの花弁状の萼片から成る淡紫色の花を下向きに開く。花弁は先端から細長い筒状の距(きょ)が突き出す。距の中には昆虫を誘う蜜腺がある。和名のイカリソウはそのユニークな花の形を船のイカリに見立てて名付けられた。小葉の付き方から「サンシクヨウソウ(三枝九葉草)」という別名もある。

 分布地域によって様々な変種があり、自然交雑種も多い。「トキワイカリソウ」(写真、2枚とも)は主に日本海側の山陰から近畿北部、北陸にかけて自生する。トキワは常緑を示す「常盤」で、冬でも落葉しないのが特徴。花の色には白と薄紫色のものがある。「バイカイカリソウ」は花の形が梅に似て、花弁には距がない。近畿以西の西日本に多く分布する。中国地方で見られる「オオバイカイカリソウ」はトキワとバイカの雑種といわれる。近畿~北海道の主に雪国の山地には花の色が黄色い「キバナイカリソウ」が自生する。

 中国原産の「ホザキイカリソウ」は穂状の円錐花序を付ける。古くから漢方で「淫羊藿(いんようかく)」と呼ばれ、滋養強壮効果の高い生薬として使われてきた。その主成分イカリインは日本のイカリソウの仲間にも含まれ、国内でも民間薬などとして利用されてきた。イカリソウは欧米で花の形から「fairy wings(妖精の翼)」や「bishop's hat(司教の帽子)」とも呼ばれているそうだ。「碇草生れかはりて星になれ」(鷹羽狩行)

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<サクランボ(桜桃)> 葉が出る前に白い5弁花

2021年03月10日 | 花の四季

【自家不結実性。1本だけで結実の新品種も】

 バラ科サクラ属の落葉果樹。桜桃(おうとう)は食用となる果実を付けるサクラ類の果実の総称で、大別すると東アジア系とヨーロッパ系、アメリカ系の三つに分かれる。ただ国内で栽培され店頭に並ぶものは「セイヨウミザクラ(西洋実桜)」または「カンカオウトウ(甘果桜桃)」と呼ばれるヨーロッパ系が中心。主産地は東北や北海道だが、中でも山形県が全国の収穫量の80%近くを占め、まさに「サクランボ王国」として不動の地位を築いている。(写真㊤はサクランボの代表品種「佐藤錦」、㊦は主に観賞用の中国実桜「暖地」)

 サクランボという言葉はサクラの子「桜の坊」が「桜ん坊」に転訛したもの。国内で最も多く栽培されている「佐藤錦」はヨーロッパで栽培が盛んな「ナポレオン」に「黄玉」を交配して大正時代に生まれた。栽培の歴史は既に100年を超える。主要品種の中で開花が最も早いのは米国生まれの早生種「高砂」。サクランボは山形を中心に品種改良が活発で「紅さやか」「紅秀峰」「紅ゆたか」など新品種も相次ぎ生まれている。だが生産量・知名度のいずれもなお「佐藤錦」が群を抜く。

 サクランボには自家不結実性という特性がある。このため1本だけ植えても実を結ばない品種が多く、近くに異なる品種を植える必要があった。ところが山形県園芸試験場(現園芸農業研究所)が自分の花粉だけで結実する新品種の育成に成功、2008年に「紅きらり」の名前で品種登録された。23年には実が500円玉よりも大きい新品種「やまがた紅王」の本格販売も始まる。山形県の「県の木」はもちろんサクランボ。1982年に県民投票で選ばれた。「佐藤錦」の生まれ故郷の東根市と「日本一さくらんぼの里」寒河江市もそれぞれ「市の花」「市の木」に指定している。「桜桃の花満面に茂吉歌碑」(皆川盤水)

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<大和文華館> 連続講座「広重―風土と旅情を描く」

2021年03月08日 | 美術

【講師は浮世絵研究の第一人者、浅野秀剛館長】

 奈良市学園南にある美術館大和文華館で「広重―風土と旅情を描く」と題した連続講座が始まった。講師は同館館長で、あべのハルカス美術館(大阪市)の館長も兼務する浅野秀剛(しゅうごう)氏。江戸時代の浮世絵研究の第一人者として知られ、国際浮世絵学会の会長も務める。主な著書に『葛飾北斎・春画の世界』『浮世絵は語る』など。連続講座は歌川広重(1797~1858)に焦点を絞って来年3月まで計5回にわたって開かれる。

 第1回は「生涯と画業(前編)~東海道五拾三次へ至る道」の演題で3月7日に開かれた。会場の同館講堂はコロナ下にもかかわらず約150人の熱心な美術愛好家などで埋め尽くされた。浅野氏は広重研究に欠かせない〝2大基本書〟として内田実著『広重』(1930年岩波書店)と鈴木重三著『広重』(1970年日本経済新聞社)の二つを挙げる。講演ではまず広重の生い立ちをたどり、二代広重と三代広重にも触れた後、スライドで作品を年代順に紹介しながら分かりやすく解説を加えた。

 最初の作品は「琉球人来貢図巻」。琉球からやって来た一行の行列を10歳の頃描いたもので、幼い頃から優れた絵心を持っていたことを表す。ただ文化期(1804~18)の作品は他には狂歌絵本「紫の巻」ぐらいしか残っていないという。文政期(1818~30)に入ると、合巻の表紙や挿絵、摺物を手掛け、当時流行していた美人画や役者絵、武者絵などにも取り組んだ。浮世絵の美人画といえば「見返り美人図」の菱川師宣や喜多川歌麿が有名だが、風景画家広重にも「美人風俗画合 京島原」「外と内姿八景」「今様弁天尽し」など気品漂う美人画があることを初めて知った。「この頃の作品はほとんど残っていない」という貴重品とのことだ。

 だが広重にとっては長く泣かず飛ばずの時期が続いた。そして浅野氏は文政末~天保4年(1834年)の「東海道五拾三次」以前を〝名所絵開眼〟の時期と時代区分する。「最初のヒット商品」として挙げるのが「一幽斎がき 東都名所(10図)」。一幽斎は広重が使っていた号の一つで、この作品で風景絵師としての新境地を切り開いた。そして続いて「東海道五拾三次」を発表、これが爆発的な人気を集め「富岳三十六景」の葛飾北斎と並ぶ絵師としての地位を不動のものにした。浅野氏の講演を聴講して、改めて広重の多彩ぶりと浮世絵の奥深さの一端を垣間見ることができた。

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<イベリス> 「キャンディタフト」の別名も

2021年03月05日 | 花の四季

【名前はイベリア半島から、和名「マガリバナ」】

 アブラナ科マガリバナ属(イベリス属)の草花で、ヨーロッパ南部から北アフリカ、西南アジアにかけて40種ほどが分布する。イベリスの語源はスペインやポルトガルがあるイベリア半島から。この地に古くから多く自生していたことからの命名だろう。秋蒔き1年草と多年草があり、草丈も種によって10~60cmと幅がある。花色も白花のほか赤・ピンク・紫など色彩豊かなものがあり、中には花の香りがいいものも。日本には明治時代に渡ってきた。

 別名「キャンディタフト」。イベリスは小さな4弁花がたくさん寄り集まって一つの花を形成しており、咲き進むとこんもりと盛り上がってくる。その姿が砂糖菓子を束ねたように見えることから、こんな英名で呼ばれるようになった。和名は属名にもなっている「マガリバナ(屈曲花)」。イベリスはヒマワリなどと同じ向日性の植物で、太陽の光を追う習性から花茎が曲がりやすいことに由来するそうだ。

 よく栽培されている1年草には、花色がカラフルで花穂が高く伸びるウンベラータ種、香りが強く「ニオイナズナ」とも呼ばれるオドラータ種などがある。多年草で最もポピュラーなのがセンペルヴィレンス種(写真)。花の色は主に白で、草丈が低く花が一面を覆うためグランドカバーとしての人気も高い。この種は寒さに強い常緑性から「トキワナズナ(常盤薺)」や「宿根イベリス」といった名前でも流通。ただ北米原産のアカネ科の多年草「ヒナソウ(雛草)」にも同じトキワナズナという別名が付けられているので注意が必要だ。

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<奈良県立美術館> 企画展「広重の名所江戸百景」

2021年03月03日 | 美術

【ゴッホが模写した「亀戸梅屋舗」など百景全図!】

 奈良県立美術館ではいま企画展「広重の名所江戸百景」を開催中。江戸時代後期の浮世絵師、歌川広重(1797~1858)の代表作「名所江戸百景」や「東海道五十三次」などを一堂に集めて展示している。「名所江戸百景」(全119作)の中には「ひまわり」や「自画像」で有名な後期印象派の画家ゴッホが浮世絵に心酔した時期に模写した「亀戸梅屋舗(うめやしき)」などもあり、浮世絵師の第一人者広重の世界にどっぷり漬かることができる。3月14日まで。

 

 広重は役者絵から出発して美人画や花鳥画などを描き、1833年に発表した「東海道五十三次」で風景画家としての地位を確立した。生涯に描いた東海道シリーズは20種類以上に上る。もう一つの代表作「名所江戸百景」は最晩年の1856~58年に描かれた。遠近法を大胆に取り入れた斬新な構図は19世紀後半のヨーロッパでの日本ブーム「ジャポニズム」の中で洋画家の注目を集め、とりわけ後期印象派を代表するゴッホ(1853~90)たちに大きな影響を与えた。

 展示作品は前期と後期で一部入れ替えが行われ、会場入り口の導入部には「江戸名所百景」と「東海道五十三次之内(保永堂版)」の代表作を1点ずつ展示。前期は「大はしあたけの夕立」と「日本橋 朝之景」だったが、現在開催中の後期は「亀戸梅屋舗」と「京師 三条大橋」が並ぶ。「名所江戸百景」のこの2点はゴッホがパリ在住時代に模写したことでも知られる。「大はしあたけの夕立」は突然夕立に見舞われて足早に急ぐ人々の姿が生き生きと描かれており、幾筋もの黒い線が降り注ぐ雨の激しさを表す。「亀戸梅屋舗」の題材は将軍徳川吉宗もその花の香で駒を止めたといわれる有名な梅林。前面に描かれた黒く太い白梅の幹が圧倒的な存在感で目を引き付ける。

 広重の展示作品はこのほかに「東海道(丸清版・隷書東海道)」や富士三十六景」「六十余州名所図会」「東都名所」など。「館蔵コレクションにみる名所絵」として葛飾北斎の「東都勝景一覧」、渓斎英泉の「東都両国橋夕涼図」や「江戸名勝尽 隅田川」、菊川英山の「風流美人近江八景 矢橋帰帆」などの浮世絵も展示されている。

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<キクザキイチゲ(菊咲一華)> はかなく可憐な春告げ花

2021年03月01日 | 花の四季

【イチリンソウの仲間、近畿~北海道に分布】

 キンポウゲ科イチリンソウ属(アネモネ属)の多年草。本州の近畿から北海道にかけて分布しており、明るい陽光が差し込む落葉樹林の林床や林縁に自生する。早春、木々が葉を展開し始める前に芽吹いて花を付けるが、初夏には地上部が枯れて長い休眠に入る。このためカタクリなどとともに、短命ではかない早春植物を指す〝スプリング・エフェメラル〟の一つに数えられている。

 草丈は10~20cmほどで、茎の先端に直径3~4cmの菊に似たような形の花を1輪上向きに付ける。花は天気が悪いと閉じ、晴れると開く。花弁のように見えるのは萼片が変化したもの。通常萼片の数は8~13個だが、写真のように多いものもあって「八重キクザキイチゲ」と呼ばれ、「雪の精」といった園芸品種名でも流通している。地域差や固体差が大きく、花色は白のほか薄い紫や濃紫などもある。花の大きさも雪の多い寒冷地のものが暖地に比べ大きくなる傾向があるという。

 学名は「Anemone pseudoaltaica(アネモネ・プセウドアルタイカ)」。属名のアネモネはラテン語の「風」に由来し、種小名は「偽の」と「アルタイ山脈」の複合語。花がよく似たものに「アズマイチゲ」。こちらは小葉にキクザキイチゲのような深い切り込みがないことで区別される。春到来を告げる可憐なキクザキイチゲ。ハイカーたちにも人気の野草だが、佐渡では古くから「ヨメナカセ(嫁泣かせ)」と呼ばれてきたという。なぜ? 佐渡では炊事や風呂焚きなどに使う柴木を山で拾い集めるのは嫁さんたちの仕事で、この花の開花が山に分け入る節目になっていたそうだ。

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