【若葉は古くから山菜に、別名「トトキ」「ツリガネソウ」】
キキョウ科の多年草で、日本各地の日当たりのいい山野でごく普通に見かける。9~10月頃、まっすぐ伸びた茎に釣鐘状の小さな薄紫色の花を下向きに付ける。その花の形と朝鮮人参に似た太く白い根から「ツリガネニンジン」の名付けられた。草丈は40~100cmほどで、秋風に身を任せ心地よさそうに揺れる。
別名「トトキ」。朝鮮語の「トトク」に由来するという。漢名は「シャジン(沙参)」。「ツリガネソウ」や「チョウチンバナ」とも呼ばれる。ただツリガネソウは釣鐘やベルの形をした花の総称で、同じキキョウ科の多年草「ホタルブクロ」やヨーロッパ南部原産の「カンパニュラ」もツリガネソウと呼ばれている。ツリガネソウは宮沢賢治が愛した植物の1つ。作品中にも「釣鐘人参」をはじめ「つりがねさう」「釣鐘草」「釣鐘(ブリューベル)」などとして頻繁に登場する。
ツリガネソウは変異しやすく、花の付き方や葉の形などが様々で、多くの変種がある。代表的なものに花冠が細く花柱(雌しべ)の突出が目立つ「サイヨウ(細葉)シャジン」、本州中部以北の高山に自生する「ハクサンシャジン」(別名タカネツリガネニンジン)、小型の「ヒメシャジン」など。この他、南アルプスの鳳凰三山に由来する「ホウオウシャジン」、愛媛県東赤石山に自生する「オトメシャジン」などもある。
若葉は古くから山菜として利用されてきた。俗謡に「山でうまいはオケラにトトキ、里でうまいはウリ、ナスビ……」。トトキ(ツリガネソウ)の若葉はあくがなく軟らかいため、おひたしや和え物、てんぷら、汁の実などに広く使われる。根は乾燥させて咳止めや去痰薬に。ちなみにオケラはキク科の多年草で、京都・八坂神社では毎年元旦、神前でオケラを焚いて1年の安泰を祈る白朮祭(をけらさい)が行われる。「ひよ渡る釣鐘人参揺れどほし」(豊島美代)。