【螺旋階段、色ガラス、漆喰壁┄和洋折衷】
この建物を単独で見たら、仏塔伽藍の一つとは到底信じられないかもしれない。生駒山の中腹にあり「生駒聖天」として知られる宝山寺(奈良県生駒市)の「獅子閣」。完成からちょうど140年。国の重要文化財に指定されているその建物が8月中、日曜日ごとに特別公開されている。
獅子閣は山門を入って本堂手前を右手に曲がった奥にある。2階建て寄棟造り(玄関は切妻造り)で、まず目を引くのが1階のアーチ状ガラス窓と玄関上部のベランダ。外観は洋館風だが、瓦葺きや漆喰壁など和風の伝統技法も見られる。
宝山寺の客殿として1884年(明治17年)に建てられた。西洋建築として有名だった「鹿鳴館」の完成の翌年に当たる。明治初期、文明開化を象徴するものとして、洋館をまねた“擬洋風建築”が各地に建てられた。獅子閣もその一つ。横浜で西洋建築を学ぶため3年間修業を積んだ吉村松太郎という宮大工が設計し棟梁を務めた。
玄関を入ると、板張りの洋室が広がる。すぐ右側には木製の螺旋階段。漆喰磨き仕上げの真っ白な壁面にアーチ状の扉と窓があり、扉に嵌め込まれた赤青緑の色ガラスが室内を華やかに彩る。左側には6畳敷きの日本間が2部屋。能や狂言に材を採った襖絵はいずれも江戸後期の絵師、土佐光孚(みつざね、1780~1852)の作。
2階には10畳間が2部屋あり、上の間には床の間や違い棚が設けられていた。襖を飾るのは1階とは趣を異にする花鳥画や山水画(筆者は日本画家真嶋北光?)。天井は碁盤目状に縦横組み合わせた格(ごう)天井。ベランダからは眼下に本堂や拝殿などの堂塔を望む。
獅子閣を後に、久しぶりに多宝塔、太師堂を経て奥の院へ。無数のお地蔵さんたちが出迎えてくれた。家族とみられる3人の男性が仏様をたわしなどでゴシゴシ磨いていた。ご苦労さまです。
残念だったのは多宝塔などの賽銭箱に「信者様へ」と題し、こんな一文が掲げられていたこと。「賽銭窃盗事案が夜間に頻発しております┄┄夜間の賽銭献上は門衛に預けて頂きます様、お願い申し上げます」。奥の院の大黒堂には「酒⋅塩⋅穀類をまく事 厳禁します」という貼り紙もあった。
参道で羽を休めている大きなガに出合った。羽根の目玉模様からたぶんヤママユ。虫好きには憧れの昆虫の一つだ。成虫の寿命は僅か1週間から10日ほど。この間に交尾し産卵する。相手は見つかったのだろうか。