【兵庫県立西宮高校邦楽部と西宮神社獅子舞保存会も出演】
奈良市の古社、漢国(かんごう)神社(593年創建)で12月29日、この1年の厄を祓って新年の福を招く「大祓・獅子神楽」の奉納が行われた。2008年に太神楽曲芸師の豊来家玉之助さんが獅子舞を奉納したのが始まり。以来年末恒例の祭事として人気を集めてきたが、過去2年は新型コロナの影響で祭礼のみに。3年ぶりの本格開催に境内は楽しみに待っていた観客で埋め尽くされた。
神楽奉納の中心となるのは豊来家さんに「桃俣獅子舞保存会」(奈良県御杖村)などが加わって結成された「漢国神社韓園講(からそのこう)」。今年は兵庫県立西宮高校邦楽部(和太鼓班)のメンバーと「西宮神社獅子舞保存会」も加わって演舞を披露した。西宮神社は全国に約3500社あるえびす神社の総本社。「西宮えびす」としても広く知られる。その獅子舞保存会は長く途絶えていた獅子舞を再興しようと3年前に発足したばかりとのこと。
獅子神楽の奉納は午後1時すぎ、西宮からの参加者による『道中』から始まった。続いて道案内の神といわれる『猿田彦舞』や『宮参り』、福をもたらす『大黒』、2つの獅子頭を操る『韓園』、宝剣で邪気を払う『剣』や『荒神祓崩し』……。太鼓と笛による軽快なリズムに乗って次々と獅子舞などが披露された。
奉納芸が終わるたび観客席からは大きな拍手とともに、舞台におひねりが投げ込まれた。中でも多くのおひねりが飛び交ったのが県立西宮高校の女子生徒たちによる獅子舞『大地』の演舞後。関係者が手にする竹籠も拾い集めたおひねりでいっぱいになっていた。
この獅子神楽を見るのは2018年以来。その時『へべれけ』という演目が観客に大うけしていたが、今年も一番の盛り上がりを見せた。大きな盃を観客に差し出して赤い瓢箪から酒を注ぐ。その後、獅子にも大盃を差し出す。だが、もったいないと酒を注ぐふりをしては自分が飲む。そのうち自分が酔っ払ってしまうことに。
舞台を取り仕切り、まさに八面六臂の活躍を見せたのが豊来家玉之助さん。軽妙なトークで笑いを誘い、『猿田彦舞』や『韓園』などの一人獅子舞を演じたり、『太神楽』で傘回しなどの曲芸を披露したり。演舞者の後ろで笛も吹いていた。豊来家さんは大阪府生まれ・兵庫県育ちで、大阪芸術大学卒の50歳。自慢はNHK朝の連続テレビ小説『わろてんか』で松坂桃季さんらに曲芸指導をしたこと。かつてNHK番組の「上方演芸ホール」に出演したこともあるそうだ。
終盤、豊来家さんの掛け声で出演者一堂が舞台に勢揃い。一人ひとり自己紹介すると、観客席から温かい拍手が送られた。この後、舞台でトリを演じたのも豊来家さん。『四方鎮(よもしずめ)』の舞で約2時間にわたった神楽奉納を締め括った。終了後、観客には御杖村の郷土料理という「いとこ煮」が振る舞われた。年末の寒空の下、熱々の小豆とカボチャが実にうまかった!