【公募展優秀賞受賞作家の現在(いま)Ⅰ】
松伯美術館(奈良市登美が丘2丁目)で「未来につなぐ日本画展」が開かれている。副題に「公募展優秀賞受賞作家の現在(いま)Ⅰ」。この美術館では日本画の普及と若手作家の育成を目的に、開館以来ジャンルを花鳥画に絞った公募展「花鳥画展」を23回にわたって開催してきた。さらに2016年からは隔年でジャンルを問わない「松伯日本画展」も開いてきた。
ところが新型コロナ感染症の拡大で、今年度も含め3年連続公募展の中止を余儀なくされた。そんな中で企画したのがこの「未来につなぐ日本画展」。公募展の歩みを振り返りながら受賞者の制作を支援しようという試みだ。昨年度の大賞受賞作家の作品展に続いて、今年度と来年度は優秀賞受賞作家を取り上げ2回に分けて近年の作品を紹介する。今展の会期は3月12日まで。
出品作家は26人。1人で複数点を出品した作家もあり展示総数は全部で40点に上る。出品者のプロフィルを眺めると、20代で優秀賞を受賞した作家も多く含まれる。受賞後、他の展覧会で大きな賞を受賞したり個展を重ねたり活躍の場を広げてきた人が目立つ。公募展での受賞が作品制作の大きな励みになったことは間違いない。
青木秀明さんは20代早々に優秀賞を受賞、その後も第9回川端龍子大賞展で龍子大賞、2007年京展で市長賞など高い評価を得ている。今回の出品作は『re born』と『自在の様相』の2点。ハゲタカのような猛禽類の鳥と立派な角を持つ羊が美しい衣装を身にまとう。それぞれにこんなコメントを添えていた。「もし前世があったなら、私は人間だったんだろうか。そんな発想から生まれた私の輪廻転生図」「何を描いても結局は自画像だと思う。自我像とも言うべきか」
藤城正晴さんも20代前半に優秀賞を受賞。その後、東京や愛知を中心に精力的に個展を開催してきた。出品作『散華』は満天の星と三日月の下で光り輝く満開の桜を描いた作品。画面全体に無音の世界と静謐な美しさが広がる。「満開の桜から花びらが舞い散り、桜と外部との境が融解していく様」を描いた。
池田真理子さんの作品『ツチアゲビ』はラン科の植物を忠実に描写した細密画で、他の展示作品とはやや趣を異にする。プロフィルによると、第20回アメリカボタニカルアーティスト協会展最高賞(2018年)、英王立園芸協会展最高作品賞(19年)。今やボタニカルアートの世界で第一人者として活躍しているようだ。作品には「日本画とは離れているように見えますが、植物を愛おしく見つめ、写生から学ぶ姿勢は古くからある花鳥画の視点に共通するものを感じます」とのコメントが添えられていた。
守家美保子さんの『河伯(かはく)の居るところ』は池の畔で過酷な環境を生き抜いてきた大木を描く。河伯は河童(かっぱ)のこと。河童を愛した芥川賞作家火野葦平の旧居名が「河伯洞」(北九州市若松区)だったことを思い出した。ボタンの透き通るような花びらが美しい長谷川雅也さんの『―華―吟―』、無数の白菊の花で画面を埋め尽くした那須ちひろさんの『冬隣』、絹本着彩で闇夜に浮かぶ桜の花弁の透明感を表現した松原亜実さんの『春麗』、メルヘンチックな古田年寿さんの作品『昭和浪漫』なども印象に残った。