【茶器の棗やナツメ電球はよく似た形のナツメの実に由来】
クロウメモドキ科ナツメ属の落葉小低木(樹高5~10m)。原産地は西アジア~中国といわれ、日本には古い時代に中国から薬用として入ってきた。6世紀後半の奈良県桜井市の上之宮遺跡からナツメの種子が出土しており、福井県には奈良時代「棗郷(なつめごう)」と呼ばれる荘園があった。万葉集にもナツメが詠み込まれた歌が2首収められている。
花期は6月頃で、小枝に淡い黄色の径5mmほどの小花を付ける。花弁、萼片はともに5個だが、花弁は萼片より小さくて目立たない。9~10月頃、長さ2~3cmの果実が鈴なりになる。実は生食されるほか乾燥して料理用や菓子用として利用され、漢方では「大棗(たいそう)」と呼ばれて利尿・解熱・鎮痛・強壮などに使われる。茶道では抹茶を入れる茶器に「棗」があり、小型の電球にも「ナツメ球」と呼ばれるものがある。これらはいずれもその丸みを帯びた形がナツメの実に似ていることに由来する。
一般にナツメの語源とされるのが「夏芽」説。他の落葉樹より遅く初夏になってようやく芽吹くからというもので、貝原益軒も『大和本草』(1709年)に「夏芽を生ず、故にナツメという」と記す。一方でナツメは晩夏に実を付けることから「夏実(なつみ)」や「夏梅(なつうめ)」からの転訛説もある。国内の主産地は福井市北西部の棗地区や岐阜県の飛騨地方で、健康食品や土産物としてナツメの健康茶やカステラ、のど飴、甘露煮などが商品化されている。また沖縄では熱帯果樹として実の大きなインドナツメが栽培されている。「夜もすがら鼠のかつぐ棗かな」(久村暁台)