【雌雄異株、九州南部~沖縄の海辺の崖などに自生】
ソテツ科ソテツ属の常緑低木。宮崎県以南の九州南部から沖縄にかけて、海辺の崖や岩場に自生する。観賞用として栽培され、暖地の庭や公園などに植樹されることも多い。「幹高一尺10年」といわれるように成長は遅い。太い円柱状の幹は通常高さが2~3m、時に5mほどにも。幹の先から鳥の羽根のような長い濃緑色の葉を四方に広げる。裸子植物の中でイチョウとともに最も原始的な植物といわれる。
花期は6~8月。雌雄異株で、雄株は直立し、長さ50~70cm、直径15cmほどの円柱形。多数の鱗片状の雄しべからなり、裏一面に花粉の入る葯(やく)が付く。一方、雌株は綿毛が密生した葉状心皮の集まりで、キャベツのような直径40cmほどの球形。心皮の基部には3~6個の胚珠があり、赤く熟して種子になる。
「蘇鉄」の名前は樹勢が弱まってきたとき肥料として根元に鉄屑を与えたり、鉄釘を刺したりすると、再び蘇って元気になるというところから。幹からデンプンが取れることから古くから救荒食として利用されてきた。ただ、サイカシンという有毒成分を含むことが分かって、近年は食用にされることは少ない。奄美大島などの特産「蘇鉄味噌」の原料はソテツの種子、玄米、大豆などだが、微生物の働きでソテツの毒素を取り除く〝解毒発酵〟という独特の製法で作られるそうだ。
都井岬のソテツ自生地(宮崎県串間市)は自生の北限として、鹿児島県のソテツ自生地(薩摩半島の指宿市・南さつま市、大隈半島の南大隅町・肝付町)とともに、国の「特別天然記念物」に指定されている。静岡市の龍華寺、堺市の妙国寺、香川県小豆島町の誓願寺などのソテツも国指定の天然記念物。このうち堺市・妙国寺のソテツにはこんな伝説も。織田信長がこのソテツを安土城に移植させたところ、ソテツが毎晩「妙国寺に帰ろう」と泣き叫ぶ。激怒した信長が切り倒しを命じるが、斧を振り上げた者が次々と血を吐いて死んだ。そのため信長はソテツをもとの妙国寺に返した――。「朝寒や蘇鉄見に行く妙國寺」(正岡子規)。(写真は鹿児島市の名勝庭園・史跡「仙巌園」で)