【アフリカ・ナミブ砂漠原産、葉2枚だけで2000年の長生きも!】
地面にへばりつくように伸びる昆布のような長くて大きい葉っぱ。終生、1対2枚の本葉だけしか出さない。長寿植物として知られ、推定なんと2000年というものもあるそうだ。ヴィルヴィッチア科の1科1属1種の裸子植物。その奇怪な姿や特徴から「キソウテンガイ(奇想天外)」という和名が付けられている。京都府立植物園でその珍奇な植物に初めてお目にかかった。
原産地はアフリカ南西部。アンゴラからナミビアにかけてのナミブ砂漠に自生する。19世紀半ばにオーストリアの探検家ヴェルヴィッチアがアンゴラ南部で発見した。学名の「ヴェルヴィッチア・ミラビリス」も彼の名前にちなむ。「ミラビリス」は「脅威の」。和名キソウテンガイは1936年、原産地から初めて種子を輸入した園芸商・石田兼六氏が自ら名づけ園芸誌上で発表した。
このグロテスクな植物の発見は植物学者にとっても衝撃的だったようだ。「種の起源」で知られるダーウィンも「植物界におけるカモノハシ」と驚きを隠さなかったという。砂漠の高温少雨の中で生き延びるため、葉の両面に気孔があり、そこから大気中の湿気を吸収する。ただ葉はやや厚めだが、サボテンのような多肉植物にも見えない。葉の基部に細胞分裂を活発に行う分裂組織がある。
雌雄異株。京都府立植物園にある雌株は1973年、アンゴラの植物園から譲ってもらった種子から育てたもの。日本に現存するものとして最古という。その雌株が92年、国内で初めて開花した。その3年後に再び開花したため、日本新薬京都山科植物資料館が育てた雄株の花粉を使って人工授粉を試みた。(写真㊧=雌株、㊨=雄株の花)
それがうまくいって結実、その種子からの実生栽培にも成功した。まさに世界的な快挙! ところが2004年夏、その実生株2株が温室から盗まれた。世の中、心無い人間がいるものだ。この植物園の開園は今から90年ほど前の1924年(大正13年)。日本で最初の公立植物園として誕生した。警察に被害届を出したのは開園以来、この時が初めてだったという。