【東大寺・興福寺・春日大社・薬師寺・法隆寺など27点】
0.1ミリの細字のサインペン1本で各地の五重塔や京都、奈良の社寺を描き続けているペン画家がいる。京都府長岡京市在住の三村威左男さん(70)。デザイン会社や印刷会社でグラフィック・デザイナーなどとして活躍する傍ら、在職中からライフワークとしてサインペンによる描画に取り組んできた。その三村さんが世界遺産、古都奈良の仏教建造物などを描いた「日本文化遺産 奈良周辺エリア」展が29日、京都・寺町の「ギャラリーヒルゲート」で始まった(5月4日まで)。
三村さんは1944年4月、大阪・船場生まれで、ちょうど古稀を迎えたばかり。三十年余をかけて全国に点在する五重塔を描き続け、2005年には当時現存した74基全てを描き終えた。いずれも現地を訪ね塔の前で、ケント紙を水張りしたパネルに鉛筆などで下書きせず直接ペンで描いた。それらの作品を、1991年の「五重塔 五十景」展を皮切りに数年おきの個展で発表してきた。著書に「日本の五重塔総覧―紀行文を添えて」(文芸社刊)がある。
2006年からはテーマを「古都京都の文化財17の社寺・城」に移し、08年にPart1として8カ所、11年にPart2として残り9カ所の作品を発表。続いて今回は古稀記念として「古都奈良の文化財」と「法隆寺地域の仏教建造物」に絞った作品を発表した。
三村さんは京都と奈良の違いを「京都は見る町、奈良は歩く町」と表現する。奈良ではいいアングルを求めて、借りた自転車で対象物の周辺を何度も走り回った。五重塔と同じ手法で、現地で写生し、帰宅後、写真を参考に仕上げていく。ただ「写真と同じようにならないように私なりの〝細工〟をしています」と話す。
『春日山原始林 飛火野に鹿の群れ』(上の上の作品㊥)では陽光が光の太い筋となって降り注ぐ。それが作品のスケールの大きさに繋がっている。『春日大社 中門と釣灯籠』(同㊨)では社殿の上に大きな釣灯籠を描いた。灯籠に込めた様々な願いや歴史の重みを感じさせる作品。『元興寺 浮図田(石塔石仏群)と屋根瓦(行基葺き)』(上の作品㊧)では実際には他の場所にある世界遺産を示す石碑を画面の右下に配した。(上の作品㊨は「東大寺 二月堂・法華堂」)
三村さんの作品はいずれも黒の濃淡だけで描いたモノトーンの世界。それが見る者の想像力をかき立てる。自身も「黒一色で(様々な)色を感じてもらえる書き方を目指してきた。それがこのペン画の魅力でもあると思う」と話す。一時は水彩画のように色をつけるべきか迷った。しかし15年ほど前、ある著名画家の「やがて伝わってきます」との一言で吹っ切れたそうだ。