く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 「そこに音楽があった 楽都仙台と東日本大震災」

2017年01月14日 | BOOK

【梶山寿子著、文芸春秋発行】

 今年も「その日」が巡ってきた。1月17日の阪神大震災。あれから丸22年目に当たる。そして3月11日は東日本大震災から丸6年。「被災者が苦しんでいるときに音楽など不謹慎」。震災直後、神戸でも〝楽都〟を標榜する仙台でも歌舞音曲の自粛ムードが一時広がった。「音楽を自粛することは果たして被災者のためになったのか」。著者梶山寿子さん(ノンフィクション作家・放送作家)はそんな素朴な疑問から、被災者や音楽関係者に広く取材し、音楽が被災者の心に寄り添い、慰め励ましたいくつもの物語を掘り起こした。

       

 「♪大空を見上げてごらん あの枝を見上げてごらん…いっしょうけんめい生きること なんてなんてすばらしい あすという日があるかぎり しあわせを信じて」。東日本大震災から約1週間後の3月19日、被災者避難先の仙台市立八軒中学で『あすという日が』(山本瓔子作詞・八木澤教司作曲)の歌声が響いた。歌ったのは吹奏楽・合唱部の生徒たち。その模様をたまたま取材に訪れていたNHKが全国ニュースで流した。直後から中学には全国から励ましの手紙や演奏依頼が相次いだ。

 震災から約2カ月後、東京で南こうせつのコンサートにゲスト出演した。そのときの動画などがユーチューブで流れている。そのレベルの高さに驚いた。それもそのはず、八軒中の吹奏楽・合唱部は前年秋の全日本吹奏楽コンクール東北大会で優勝、合唱も全日本合唱コンクールで銀賞に輝いた実力校だった。その春も3月19日に吹奏楽全国大会(鹿児島)と合唱大会(福島)に部員を振り分けて出場する予定で、カレンダーに「全国大会まであと○○日」と書いて練習に励んでいた。 

 だが、震災で福島の大会は中止になり、鹿児島の大会への出場も無理に。それなら大会の日に合わせ練習の成果を保護者を前で披露しよう。避難所の人たちに配慮して音が漏れないよう音楽室でささやかに。3月19日の演奏会は最初こんなふうに企画された。ところが避難所の運営委員の中から「私たちも応援するからぜひ聴かせて」といった声が上がる。こうして「音楽の集い」が被災者を前に開かれた。生徒たちの『あすという日が』はCD化され、その収益による寄付の総額は1000万円を上回った。阪神大震災を体験した神戸市の市立玉津中学は八軒中の活動を知って、吹奏楽部を中心に繰り返しチャリティー演奏会を開いた。両中学の交流にも心が温まる。

 中学の吹奏楽部といえば、今年1月9日のNHK「おはよう日本」で、熊本県益城町の町立益城中学の吹奏楽部が紹介されていた。益城町は1年前の4月14日の熊本地震で2度震度7に直撃されたところ。益城中の吹奏楽部は2015年の「第1回全日本ブラスシンフォニーコンクール」中学の部の優勝校。昨年12月25日には復興への願いを込めて、町民ら約200人を前に恒例のクリスマスコンサートを開いた。NHKの放送の中で、音楽室から流れる練習中の生徒たちの演奏に、畑仕事中の男性が「元気づけられる」と話していたのが印象的だった。コンサートの直後、東京で開かれた第2回の全日本コンクールでは見事に優勝し2連覇を飾った。

 本書には八軒中のほか、仙台フィルハーモニー管弦楽団、地元の人気バンド「MONKEY MAJIK」、仙台出身のピアニスト・小山実稚恵さん、ドイツ在住の指揮者山田和樹さんの活動なども紹介している。仙台フィルは震災2週間後からお寺や街角、避難所、仮設住宅などで「つながれ心、つながれ力」をスローガンに無料コンサートを展開し、小山さんは悲しみの中で自問自答の末「自分にはピアノしかない」と、小学校を中心に30カ所以上で演奏してきた。山田さんは「復興とは未来を考えること。未来は子どもたちにつながる」と帰国のたびに子どもたちの指導に力を入れる。著者は取材を通じて確信した。「音楽の力は目に見えない。だが音楽は傷ついた被災者の心にやさしく寄り添い、生きるエネルギーを取り戻す助けになる」 

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<BOOK> 『北の富士流』

2017年01月08日 | BOOK

【村松友視著、文芸春秋発行】

 北の富士(勝昭さん)は幕内優勝回数10回を誇る第52代横綱。現役引退後は九重部屋の親方として名横綱千代の富士と北勝海(現日本相撲協会理事長)を育て上げた。2人の優勝回数は合計39回(千代の富士31回、北勝海8回)。1985~87年には九重部屋10連覇という黄金時代を築いた。まさに名伯楽である。日本相撲協会退職後の1998年からはNHK専属の相撲解説者としてお馴染み。テレビ中継での粋な着物姿と、歯に衣着せぬ辛口の解説が評判を呼ぶ。この3月28日には75歳の誕生日を迎えるが、歳を感じさせない若々しさだ。

       

 著者の村松氏は出版社勤務を経てフリーとなり『時代屋の女房』で直木賞を受賞。北の富士と初めて顔を合わせたのは同じ直木賞作家で作詞家の山口洋子さんが経営する銀座のクラブ「姫」だった。北の富士の人間味に魅せられた村松氏は店に行くたび、常連の北の富士向けにコースターに「北天祐は横綱になれますでしょうか」といった質問やメッセージを書いて店の人に託した。次回行くと必ず北の富士が返事を書いたコースターを店から渡された。それが数年続いた。初対面から30年後、知人を介して北の富士との初めての食事会が開かれた。床の間に白い紙が納まったガラス張りの額があった。その白い紙は村松氏が「姫」で北の富士宛てに書いたコースターだった!

 村松氏は北の富士を〝謎の生命体〟と形容する。北の富士が北海道から上京して入門したのは中学卒業直後。力士最高峰の横綱まで昇りつめ、2人の横綱を育て、今なお相撲解説者として人気を博す。「自身の魅力や努力もさることながら、その個性の輝きを評価する存在にも折々に恵まれなければ、かくも長く〝現役〟が持続するはずもない……〝魅力〟〝人気〟〝運〟というものをくるみ込んだ北の富士流が、いかなる絵柄の彩りによって構成され、どのようなものがたりを紡いできたのだろうか」(「前書のようなもの」から)。北の富士の友人、力士仲間、弟子などへの幅広い取材を通じて、「比類ない華、粋、男気、そして色気などをキーワードとして」(「後書のようなもの」から)北の富士流の〝謎〟を探った。

 入門後、同じ出羽海部屋の若手力士だった松前山(渡辺貞夫さん)によると、北の富士は「いつ横綱になっても困らないように」と、いつも土俵入りの真似をしていたという。「その真似事が現実化したというわけで、〝夢〟は〝見る〟ものではなく〝手にする〟ものであるという証しを身をもって示して見せた」。北の富士は歌がうまく、大関時代には『ネオン無情』というレコードも出している。マスコミからは〝夜の帝王〟というニックネームを献じられた。村松氏は「北の富士本来のセンスが、遊びの場で出会う人々によって、さらに肥やされ、磨かれ、洗練され、醸成されていった」とみる。2人の名横綱を育てた手腕については「他の名伯楽とのちがいは、その〝人間味満開の男道〟による指導スタイルの師匠というところにあるのではなかろうか」。そして「派手な〝求心力〟と、その裏側にある求心的な〝実〟との一体化によって、北の富士流は成り立っているにちがいない」。

【追記】1月8日から始まった2017年初場所、初日のテレビ解説者は北の富士とともにNHK専属解説者の舞の海秀平さんだった。ということは2日目の9日は北の富士? そう思いながら9日の朝刊スポーツ面を開いたところ片隅に「北の富士さんが心臓を手術」という小さな記事。それによると、12月末に心臓手術を受け現在療養中のため初場所の出演は見合わせることになったとのこと。今場所でも味のある名解説を期待していただけに残念。3月大阪場所ではまた元気な着物姿を見せてほしいものだ。

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<往馬大社> 安部敬二郎氏の干支展「日本の鶏を描く」

2017年01月07日 | 美術

【襖2枚分の大きな「親子鶏」や埴輪、民芸品を描いた作品など30点余】

 奈良県生駒市壱分町にある古社・往馬(いこま)大社で、洋画家安部敬二郎さんの作品展「日本の鶏を描く」が開かれている。今年の干支「酉」にちなんで描いた鶏や遺跡から出土した鶏をかたどった埴輪の絵など油彩・水彩・アクリル画30点余を展示中。1月29日まで。

 安部さんは1951年生まれで地元の生駒市在住。「日本の村を描く」「日本の干支」「日本の郷土人形」などをテーマに描き続け、全国各地で個展を開き各地で開いてきた。また大絵馬を社寺に奉納しており、往馬大社や枚岡神社(東大阪市)には鶏を描いた阿部さんの絵馬が今年年末まで拝殿などに飾られるという。

 

 今回の「日本の鶏を描く」展に向け、安部さんは数十羽の鶏が放し飼いされている天理市の石上(いそのかみ)神社を訪ねてスケッチを重ねたという。出品作の中で最大の作品は1.8m四方の襖2枚分の大きさの「親子鶏」。今城塚古墳(大阪府高槻市)出土の鶏形埴輪や笹野彫(山形)、常石張子(広島)、砥部焼土鈴(愛媛)、古賀人形(長崎)など各地の民芸品を描いた作品も並ぶ。安部さんの干支展は東大阪市、京都府木津川市でも開催中で、今春には長野県野沢温泉村でも開く。

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