経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

税収を知らずに緊縮は語れない

2019年07月14日 | 経済
 「財政は破綻寸前」と信じる人にとっては、2018年度の税収が、国で+1.6兆円、地方で+1.1兆円になったと聞いても意味が分からないだろう。一般歳出の伸びは、国の当初予算で+0.3兆円、地方で+0.6兆円でしかないから、財政赤字の削減は着実に進んでいる。裏返せば、デフレから脱却していないのに、それだけの緊縮が早々と行われていることになる。家計消費(除く帰属家賃)が実質だと0.5兆円しか増えていない中で、これほどの緊縮をすべきか、考えてみるべきではないか。

………
 財政危機を語る人は、不思議にも税収の動向を気にしない。アベノミクスの6年間において、税収は歳出を上回るペースで増加しており、財政危機の認識と合わないためと思われる。しかし、実態を見ずに財政再建もない。7/2に公表された財務省の収入調によれば、2018年度一般会計税収は前年度決算比+1.6の60.4兆円となった。また、7/12に出された総務省の地方税決算見込によれば、同じく+1.1の42.0兆円であった。

 国の当初予算で設定していた税収は、59.1兆円でしかなかったから、1.3兆円もの上ブレとなる。ただし、所得税に0.4兆円の還付予定の特殊要因が含まれるとされるため、実質的には0.9兆円となろうが、それでも、幼児教育無償化を消費増税なしで実現できるほどの大きさだ。2018年度は、予想外に輸出が失速し、企業収益が伸びなかったにもかかわらず、この結果であり、いかに予算での設定が少なく見積もられているかが分かる。また、地方税は、地方財政計画額に対して0.4兆円の上ブレとなっている。

 では、2019年度はどうなるか。所得税+2.0%、法人税+6.8%、消費税+1.7%、その他+0.7%の設定だと、前年度決算比+1.6の62.0兆円となる。やはり、高等教育無償化を増税なしでの見込める規模になる。ポイントは、法人税の伸びで、基にした証券二社の企業業績見通しは、国の当初予算の設定より高めになっている。実際の税収額は、消費増税や特殊要因によってズレるが、ベースが2018年度と同様の緊縮傾向にあることを知ることが重要だ。

 こうして見れば、消費増税とは、従来の緊縮傾向の上に、教育無償化分を除いた純増税を載せるものだと分かる。要するに、デフレ脱却前に緊縮を加速しようというわけだ。既に、国・地方の資金過不足のGDP比は-2.0%まで改善しており、この傾向のままで2020年度内にも財政再建の目標を達成しようという状況において、景気が悪化する中、焦って純増税を敢行する意味がどれだけあるのかが問われる。

(図)


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 税収を過少に予想してしまうと、結果的に緊縮財政を行うことになる。当局の予想は、いつも堅過ぎるため、需要状況を把握するには、独自に予想を立てる必要がある。本コラムの場合は、一般にも理解しやすいよう、できる限りシンプルにしており、所得税は名目GDP成長率で、消費税はGDPの消費増加率で、その他税は物価上昇率で伸ばし、法人税は企業業績見通しを用いている。

 3か月ごとに出る企業業績見通しは、景気によって大きく変わり得るものであり、税収の予想も動くことになるが、そこは最新状況を追っていくしかない。ちなみに、1年前の7月に予想した2018年度の税収は60.6兆円だったから、まずまずの結果であった。しかるに、政府の財政再建の道標となっている「中長期の経済財政に関する試算」では、前年度決算の税収の上ブレが判明し、当年度予算の税収が明らかに低くなった場合でも、それを出発点に試算を行っている。これでは、実態の把握が遅れ、無用な焦りを誘ってしまう。

 国の税収は、2018年度までの3年間で年平均1.4兆円増えており、他方、当初予算の一般歳出は平均0.5兆円増にとどまる。つまり、毎年0.9兆円緊縮している勘定だ。これを少し緩めてはどうか。0.7兆円緩めれば、無償化のような大型の少子化対策を毎年一つずつ増やしていける。歳出増でGDPが増えれば、1/4が税・保険料で戻り、実質的な負担は0.5兆円程で済む。これを怠り、緊縮一本槍で来たから、少子化を挽回できないのである。

………
 的確に税収を予想し、実態を把握して焦らず、余裕を見定めて、最も優先かつ有効な施策を打っていく。ごくごく基本的なことである。国の緊縮を緩めても、地方や社会保険は締まったままだから、国全体としては、緩やかに財政再建が進むことになる。焦って緊縮を加速したり、反発から消費税廃止を唱えたり、選挙となっては、極論が飛び交うのも致し方ないにせよ、数字にかんがみれば、着実に直せる道がある。「改革」は無用だ。財政運営を修正するだけで、日本の経済社会は、かなり善くできる。


(今日までの日経)
 米、日本に協力打診 イラン沖で船舶護衛。新車市場が急減速。外国人最多の266万人 20代3割、労働力支える。少子化対策 盲点を探る(上) 晩婚・晩産化止まらず。

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