経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

子ども保険を設計する

2017年04月16日 | 社会保障
 昔は、政治家に説明したりもしたんだけどね。本題より、間違った思い込みを正すのが大変で、そんなことに労力を使うのがアホらしく、すっかり遠慮するようになった。日経の小泉進次郎議員のインタビュー(4/14)を読んで、かつてのことが思い出されたよ。それでも、子供の養育に社会保険が必要という一点は、正鵠を得ている。こんなことから、改めて筆を取る気になった。

………
 保険はリスクに備えるものだから、「子供を持つことがリスクになるのか」という批判は分からなくもない。しかし、それは、モノの見方次第である。一つの方法は、どんな経済状態の親の元に生まれるか分からないというリスクへの対処と考えることだ。つまり、貧しい親の元でも、給付が受けられることで、最低限の養育が保障されるわけである。この場合、保険の加入者は、子供自身となる。

 したがって、保険料も、子供が負うことになる。むろん、払うのは、大人になってからだ。民間の保険では、保険料をいただく前に保障はできないが、全員が強制加入の社会保険であれば、そうした設計もあり得る。例えば、来年から給付を行い、保険料は18年後から徴収する。こうすれば、子供のない人や子育てが終わった人から、「子ども保険の恩恵がないのに負担だけするのはおかしい」という批判を受けずに済む。

 とは言え、やや情けなくはある。これからの子供は、全員が幼児期の「奨学金」を背負って社会人になるようなものだからだ。そこで、「子ども保険」の特別会計に、毎年の税収の上ブレ分を繰り入れ、成人後の負担を軽くするようにしたら良い。今は、高齢者への給付などに、場当たり的に使われており、こうしたバラマキを是正することにもなる。上手くすれば、将来の保険料負担を、ほとんどなくせるかもしれない。

 「子ども保険」の問題は、給付と負担より、薄撒きにある。給付は、高コストのために保育サービスの供給が困難になっている0~2歳に集中すべきだ。特に、0歳児である。財源3000億円なら、1人当たり年30万円の給付が可能で、従来の児童手当を加え、月額4万円になる。雇用保険の育児休業給付金と合わせ、経済的な不安なく自宅で育児ができるようにするのが政策目標となる。こうして少子化を緩めて初めて、社会保険料は抑制できる。

………
 小泉議員は、社会保障は高齢者偏重、世代間で不公平と考えているようだが、こうした見方は、財政当局系の人々が唱えがちな誤った見方である。国際的には、日本の高齢者の社会保障は並みで、子供が手薄というところだ。日本は、介護保険を実現したところで、過激な緊縮財政でデフレに転落し、福祉の充実どころではなくなり、少子化対策は戦力の逐次投入となった。また、景気回復の芽を摘む緊縮財政でデフレが続き、若者の非正規化が進んで家計の養育力が低下し、子供の貧困も蔓延することになった。

 実は、世代間の不公平は、すべてが少子化による。社会保険の賦課方式の性質上、長寿化や以前の負担の少なさでは、給付より負担が多くなる「損」は生じない。これは数理的に明らかで、「損」は、子供のない人の年金や医療介護を、子供に代わって政府や社会が支えるために生じる。極端なことを言えば、そうした支えをやめて、自己責任とすれば、一挙に「不公平」は解消される。 

 むろん、そんな無茶が許されるはずもない。だからこそ、現実には、子育てを優遇することで、少子化と「不公平」の緩和をする策が取れられる。これを、財政再建を優先して後回しにし、人口崩壊という国を危うくする事態に至ったのが日本であり、そうなってもなお、この国は、「消費税なり保険料なりの財源がなければ、少子化対策はしません」と主張し続けている。

 こうした財源の桎梏をクリアすべく、本コラムは、7年前に「雪白の翼」で答を出しておいた。非正規への処方箋も「ニッポンの理想」で示した。専門家としての役割は果たしたので、あとは、政治家が好きにしてくれという心境である。しかるに、今は、子供に社会保険を使おうという発想に、たどり着いたばかりで、老後にもらう年金給付を、育児期に前倒しでもらえば、負担増は無用という「正解」までは、まだ距離がある。

………
 日本は、財政当局系の人々が執拗に叫ぶ「財源論」や「不公平論」で、随分と遠回りしてきた。偏狭であろうと、数理的に誤っていようと、声の大きい方が世の中を動かしてしまう。確かに、年金制度に少子化対策を組み込むのは、従来の常識からは飛躍があり、人々に理解してもらうのは難しいとは思う。結局のところ、国の行く末は、リーダーが、発言力に惑わされず、広く耳を傾け、真贋を見極められるかにかかっている。


(今日までの日経)
 待機児童ゼロ先送り19年末。国の相続400億円。総人口6年連続減。外国人の純流入 最大の13.6万人。非製造業は賃上げ拡大。小売り8割 今季増益、消費に変化。ヤマト・営業益5割減 残業代200億円。小泉氏・子ども保険を突破口に。


※おまけ
 2月の総雇用者報酬が公表され、1,2月平均は前期比+0.8となった。毎勤の常用雇用×実質賃金が同じく+0.7だったから、期待どおりだ。消費総合指数は、ちゃんと前月比プラスで、前期比は+0.8となった。3月の景気ウォッチャーは、原材料高からか、3か月連続低下だったが、消費者態度は上昇しており、1-3月期の2%成長に向けて前進と言えよう。

(図)




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1 コメント

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Unknown ( )
2017-04-16 22:45:12
>この国は、「消費税なり保険料なりの財源がなければ、少子化対策はしません」と主張し続けている。
いえ、「教育国債」というアイデアがあります。ここ数ヶ月自民党で議論されてきました。
これに対するカウンターとして出てきたのが小泉氏の「こども保険」です。小泉氏は国債による教育支出に対抗するためにこども保険を出したのだと明言しています。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS13H5Q_T10C17A4PP8000/
>こども保険の提言がなかったら、自民党の教育国債と民進党の子ども国債で『国債対国債』の構図だった。その政治の姿を一変させた
実質的な奨学金、もとい教育ローンであるこども保険よりも、真の意味での奨学金である教育国債の方がよいのではないでしょうか。
それに小泉氏が税収の上振れを繰り入れるという考えを取り入れるとは考えにくいです。
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