日経ビジネスO.L.(2/6)に掲載された「T・ピケティ先生×吉川洋先生の対談」は、なかなかの傑作だったね。日本人がどうしてこんなに消費増税にこだわるのか不思議でしょうがないのだろうなあ。確かに、1997年にハシモト・デフレをやらかすまでは、所得税も法人税も高かったから、消費税となるのは分からなくもなかったが、その後の減税によって選び得るようになっても、路線を変えることができないでいる。
しかも、日本は、消費不足でデフレにあり、企業の資金は膨張しているのだから、課税を強化するなら、消費ではなく資本というのは自然な発想だ。それなのに、この逆を何としてもやりたがるのだから、訳が分からないに違いない。デフレから抜け出たいなら、保育や介護といった公的部門の賃金を上げたらどうか、人口減という最大の問題への対応も大事と言われても、日本人は、できない理由をあれこれ並べるだけである。
………
財政赤字を解消するには、それと一対になっている企業の過剰貯蓄も同時に減らさないといけない。ところが、成長戦略と叫んで、お題目は並べても、それで設備投資を十分に増やせるとは、誰も思っていない。財政再建では、2020年までに基礎的財政収支の赤字をゼロにする数値目標は金科玉条だが、それに見合った設備投資を増大させる政府計画はない。本当は、こちらの実現を確かめてから、財政再建を進めなければならないはずだが。
結局、設備投資の促進は適当に済ませ、財政赤字の削減に突進することになる。これで需要を削減してしまうと、企業はリスクを感じて、ますます設備投資が出て来なくなる。こうしてもたらされるのは、経済の縮小均衡である。日本の名目GDPが20年近くまったく更新できないのも当然だ。このような、債務の問題には一生懸命でも、債権の側の在り方は放置するという「政策対象の非対称性」が経済的な困難の根本にある。
おそらく、その背景には、ナイーブな経済観がある。財政赤字を削減すると、金利が低下し、自動的に設備投資を増やしてくれる、こうした初等教科書そのままの認識だ。金利がゼロに近い日本で、どうしてそれが妥当すると思うのかは謎であるが、日本の財政当局の人材は、ほとんど法学部出身で経済学は撫でた程度らしいから、教科書と実態との違いに疎いのも仕方がないのかもしれない。
………
こうした「非対称性」は、古くて新しい問題である。かつて、金本位制は、国際収支に均衡をもたらすとして崇められたが、金を減らす貿易赤字国には、緊縮を迫るものとして有効に働いても、黒字国に拡張を義務付けるようには機能しなかった。この不全が金融政策の自由を奪うことにつながり、赤字国に塗炭の苦しみを与え、しまいには、金本位制自体が崩壊することになった。
現在のギリシャの問題も、これに類する。ギリシャ人も、「働いて返せ」と言われるならまだしも、緊縮財政で働き口を奪われたままでは、どうしようもないだろう。飢餓輸出を強いるのでなければ、貸し手が返し方を考えてやらねばならない。借り手責任を追求するばかりでは解決しない。今週は、ECBが融資特例を撤廃し、ギリシャの金利が急上昇したが、中央銀行が敢えてリスクを拡大するなんて、呆れたものである。
取るべき道は、ドイツ副首相だったJ・フィッシャー氏の指摘(日経ビジネス2/9号掲載)のように、ドイツが公共投資を推進し、欧州全体の経済を押し上げることである。ドイツは、世界最大の経常黒字国であり、2014年は過去最高を更新しようというのであるから、この不均衡も非難されるべきである。これを放置しておいて、ギリシャに経常収支の改善を求めるのは無理がある。
………
個人の家計とは違って、マクロ経済では赤字と黒字は一対であり、双方を同時に解決する必要がある。しかし、人々は赤字ばかりに目が行き、黒字が問題とは考えない。ここに悲劇が起こる素地がある。強引な赤字の削減は、経済全体を縮小させ、誰のためにもならない。むしろ、先に黒字を削減する方が成長には有効だろう。
為替レートについては、硬直的な金本位制が正しいとは、もう誰も思わない。為替レートが変化することで、債務が調整されることは、既に受容されている。ギリシャの問題は単一通貨圏内だからであり、それがなければ減免されるものだと達観し、経済再建に寛容でなければならない。これが経済政策の歴史から得られる知見である。
他方、財政赤字への対処法については、これからである。国内に過剰貯蓄がある以上、仕方がないと達観し、それがいかに大きくても受容しつつ、安全に管理する方策を見つけるべきであろう。中央銀行が大量に国債を保有することは、今は「禁じ手」でも、昔は為替レートのフロートがあるべきものでないと思われていたように、経済運営に不可欠で日常的なものに変化するかもしれない。
資産格差が大きいなら、財政赤字は、それが是正されるまでの次善の策と位置づけることができる。これを安全に管理するのに、利子配当への課税は、金利上昇に伴う利払いの増加に対処する装置となる。インフレには、機動的な消費増税を割り当て、資産高騰には、融資担保の掛け目を迅速に抑制する制度を用意しておく。そうなる歴史の途上に、今はある。
(2/6の日経)
上場企業、今期最高益に、伸び率3%程度。ECBが融資特例を撤廃、ギリシャ金利急上昇。経済教室・移住の障壁撤廃こそ・八田達夫。
(昨日の日経)
農協改革は大筋決着。米雇用1月25.7万人増、12、11月は大幅上方修正。景気上昇局面に12月一致指数、上昇幅は小さい。
(今日の日経)
電子納税使いやすく。海外収益の還流、16%増で初の4兆円規模。世界の中銀が緩和ドミノ。検証・イスラム国人質事件。読書・科学で勝負の先を読む。
※検証は昨日の報道特集が卓越。米国の圧力の下での外交とは厳しいものだ。
しかも、日本は、消費不足でデフレにあり、企業の資金は膨張しているのだから、課税を強化するなら、消費ではなく資本というのは自然な発想だ。それなのに、この逆を何としてもやりたがるのだから、訳が分からないに違いない。デフレから抜け出たいなら、保育や介護といった公的部門の賃金を上げたらどうか、人口減という最大の問題への対応も大事と言われても、日本人は、できない理由をあれこれ並べるだけである。
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財政赤字を解消するには、それと一対になっている企業の過剰貯蓄も同時に減らさないといけない。ところが、成長戦略と叫んで、お題目は並べても、それで設備投資を十分に増やせるとは、誰も思っていない。財政再建では、2020年までに基礎的財政収支の赤字をゼロにする数値目標は金科玉条だが、それに見合った設備投資を増大させる政府計画はない。本当は、こちらの実現を確かめてから、財政再建を進めなければならないはずだが。
結局、設備投資の促進は適当に済ませ、財政赤字の削減に突進することになる。これで需要を削減してしまうと、企業はリスクを感じて、ますます設備投資が出て来なくなる。こうしてもたらされるのは、経済の縮小均衡である。日本の名目GDPが20年近くまったく更新できないのも当然だ。このような、債務の問題には一生懸命でも、債権の側の在り方は放置するという「政策対象の非対称性」が経済的な困難の根本にある。
おそらく、その背景には、ナイーブな経済観がある。財政赤字を削減すると、金利が低下し、自動的に設備投資を増やしてくれる、こうした初等教科書そのままの認識だ。金利がゼロに近い日本で、どうしてそれが妥当すると思うのかは謎であるが、日本の財政当局の人材は、ほとんど法学部出身で経済学は撫でた程度らしいから、教科書と実態との違いに疎いのも仕方がないのかもしれない。
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こうした「非対称性」は、古くて新しい問題である。かつて、金本位制は、国際収支に均衡をもたらすとして崇められたが、金を減らす貿易赤字国には、緊縮を迫るものとして有効に働いても、黒字国に拡張を義務付けるようには機能しなかった。この不全が金融政策の自由を奪うことにつながり、赤字国に塗炭の苦しみを与え、しまいには、金本位制自体が崩壊することになった。
現在のギリシャの問題も、これに類する。ギリシャ人も、「働いて返せ」と言われるならまだしも、緊縮財政で働き口を奪われたままでは、どうしようもないだろう。飢餓輸出を強いるのでなければ、貸し手が返し方を考えてやらねばならない。借り手責任を追求するばかりでは解決しない。今週は、ECBが融資特例を撤廃し、ギリシャの金利が急上昇したが、中央銀行が敢えてリスクを拡大するなんて、呆れたものである。
取るべき道は、ドイツ副首相だったJ・フィッシャー氏の指摘(日経ビジネス2/9号掲載)のように、ドイツが公共投資を推進し、欧州全体の経済を押し上げることである。ドイツは、世界最大の経常黒字国であり、2014年は過去最高を更新しようというのであるから、この不均衡も非難されるべきである。これを放置しておいて、ギリシャに経常収支の改善を求めるのは無理がある。
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個人の家計とは違って、マクロ経済では赤字と黒字は一対であり、双方を同時に解決する必要がある。しかし、人々は赤字ばかりに目が行き、黒字が問題とは考えない。ここに悲劇が起こる素地がある。強引な赤字の削減は、経済全体を縮小させ、誰のためにもならない。むしろ、先に黒字を削減する方が成長には有効だろう。
為替レートについては、硬直的な金本位制が正しいとは、もう誰も思わない。為替レートが変化することで、債務が調整されることは、既に受容されている。ギリシャの問題は単一通貨圏内だからであり、それがなければ減免されるものだと達観し、経済再建に寛容でなければならない。これが経済政策の歴史から得られる知見である。
他方、財政赤字への対処法については、これからである。国内に過剰貯蓄がある以上、仕方がないと達観し、それがいかに大きくても受容しつつ、安全に管理する方策を見つけるべきであろう。中央銀行が大量に国債を保有することは、今は「禁じ手」でも、昔は為替レートのフロートがあるべきものでないと思われていたように、経済運営に不可欠で日常的なものに変化するかもしれない。
資産格差が大きいなら、財政赤字は、それが是正されるまでの次善の策と位置づけることができる。これを安全に管理するのに、利子配当への課税は、金利上昇に伴う利払いの増加に対処する装置となる。インフレには、機動的な消費増税を割り当て、資産高騰には、融資担保の掛け目を迅速に抑制する制度を用意しておく。そうなる歴史の途上に、今はある。
(2/6の日経)
上場企業、今期最高益に、伸び率3%程度。ECBが融資特例を撤廃、ギリシャ金利急上昇。経済教室・移住の障壁撤廃こそ・八田達夫。
(昨日の日経)
農協改革は大筋決着。米雇用1月25.7万人増、12、11月は大幅上方修正。景気上昇局面に12月一致指数、上昇幅は小さい。
(今日の日経)
電子納税使いやすく。海外収益の還流、16%増で初の4兆円規模。世界の中銀が緩和ドミノ。検証・イスラム国人質事件。読書・科学で勝負の先を読む。
※検証は昨日の報道特集が卓越。米国の圧力の下での外交とは厳しいものだ。
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