パッケージには“お福わけ餅”と印刷された横浜そごうで買って来たと言うお土産を頂戴した。
どら焼きの中にぎゅうひ(白玉粉を蒸して白砂糖と晒し水飴を加えて練り固めた餅)の入った物は何度も食べたが、これはどら焼きの上皮を省いてその面積の2/3程のぎゅうひで覆い被せた物だ。
一代限りの貧乏和菓子屋の末っ子の自分は、和菓子には少しばかりは自信有りと自負しているが、この“お福わけ餅”は一口含んだ瞬間に「これはうまい!」と叫んでしまった。
柔軟で弾力のあるぎゅうひとふんわりしたどら焼きの皮の間には少量の小豆の粒餡、口に含んでいる間、ぎゅうひと神経を配ればぎゅうひの味覚、小豆餡と思えば確実に餡の味覚、どれもが主張する事なく、それでいて三種の味覚がしっかりした見事に調和の取れた絶品の菓子だ。
製造者は秋田市の杉山寿山堂、秋田銘菓諸越(小豆の粉の落雁)の老舗だった。
初めて転勤した頃には前任地の距離に比例した日数で家事整理休暇があった。その時は前職場に赴任先のお土産持参で訪れるのが慣例で、自分も先輩にお土産は何が良いか訊ねると「酒ッコダバ爛漫か新政、菓子ッコワ諸越ダスベ」と諸越は二店の指定があって確かこの杉山寿山堂もあったと記憶していた。
この“お福わけ餅”で久々に青春時代を過ごした懐かしい秋田の思い出に耽入った。