続、恫喝政治(終わりの始まり)
『<スクープ入手!自民党がテレビ局に送りつけた圧力文書>「公平中立な放送を心がけよ」―――自民党がこんな要望書をテレビ局に送り付けたことが大問題になっている。・・・
投票日の12月14日までの報道に<公平中立、公正な報道姿勢にご留意いただきたくお願い申し上げます>と注文をつけた上に、<過去においては、具体名は差し控えますが、あるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道を行い、(略)大きな社会問題となった事例も現実にあったところです>とクギを刺している。文中には「公平中立」「公平」が13回も繰り返されている。要するに自民党に不利な放送をするなという恫喝だ。・・・露骨なのは<街角インタビュー、資料映像等で一方的な意見に偏る、あるいは特定の政治的立場が強調されることのないよう、公平中立、公正を期していただきたい>という要求。この一文は、恐らく安倍首相から直々に注文があったのだろう。
11月18日、TBSに出演した安倍首相は、街頭インタビューで、一般国民が「景気が良くなったとは思わない」「全然アベノミクスは感じていない」と答えると、「(テレビ局の)皆さん(人を)選んでおられる」「おかしいじゃないですか!」とキレまくり、国民から批判を浴びたばかりだ。・・・「要求を丸のみしたら、安倍首相の経済政策に批判的な人は排除するしかなくなる。街頭インタビューでは、景気停滞に苦しむ地方の不満や、右傾化路線を批判する声も放送できなくなります」・・・
だが恫喝はこの1回では終わらなかった。感情的になった安倍氏の一時的な注文ではなく、確固たる意図があったと思われるのだ。
自民党は、在京テレビキー局に「政治的公平」を求める文書を手渡した(送付したのではなかった)6日後、テレビ朝日の「報道ステーション」の担当プロデューサー宛てに、別の文書を送っていた。衆院選からしばらく経って、ゲンダイは問題の文書を独自入手し、報じている。・・・
文書は、<11月24日付「報道ステーション」放送に次の通り要請いたします>というタイトルがつけられ、<アベノミクスの効果が、大企業や富裕層のみに及び、それ以外の国民井は及んでいないかごとく、特定の富裕層のライフスタイルを強調して紹介する内容の報道がなされました>と番組を批判。<サラリーマンや中小企業にもアベノミクスが効果を及ぼしていることは、各種データが示しているところです>として、都合のいいデータをわざわざまで持ち出して牽制している。テレビ朝日は相当ビビったらしく、安倍自民党に、“恭順の意“を示すためか、その後、担当プロデューサーには異動を命じている。異例の人事だった。
翌2015年になると、政権にとって都合の悪いキャスターやコメンテーターがテレビ画面から一掃され始める。安倍政権やその応援団によるメディアへの圧力はどんどんエスカレートし、メディア側はますます委縮していった。』
本書は、その当面の目的を、憲法9条の解釈を変更して、集団的自衛権の行使容認の閣議決定など安全保障法制の議論を進めるにあたり、メディアがその賛否について、“騒がしく”報道し、世論を喚起されては困るための早めの圧力だったと解釈している。
本稿『 』内は、小塚かおる氏「安倍晋三VS.日刊ゲンダイ」2023年10月刊からの引用です。