中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

経営のこと、政治のこと、社会のこと、趣味のこと、人生のこと

安全考その1

2011年05月01日 | Weblog
職場の安全

 工場には「安全第一」という掛札がよく見られる。企業経営にとって「安全」はその基盤であることは、今回の震災による東京電力の事例をあげるまでもなく、みんなよく分かっている。しかし、中小企業診断士受験の教科書にも安全に関する記述は少なかったし、中小企業診断協会発行の中小企業診断士用テキストの「企業診断チェックリスト」にも、申し訳程度しか盛られていない。診断士の企業診断業務において安全はその周辺業務の位置づけの感がある。

 しかし、私など企業訪問で仕事場を見せていただくと、5Sをはじめとして、安全への配慮ができているか些細なところまで気になる。階段の手すりや滑り止め、注意喚起のための塗色の有無、通路区分の床表示や溶剤等の臭気まで、改善点に加えさせていただくことがある。

 本来従業員にとって、安全な職場は何より優先される筈だけれど、その環境に慣れてしまうと存外危険性に鈍感になり、改善の対象になりにくい。安全管理も時に第三者の視点でレビュー(確認、見直し)が必要である。

 私など会社勤めの現役時代は、職場間で相互の安全パトロールを定期的に行っていたものだ。工場内または部内の他部署をグループでパトロールして、不安全個所や不安全行為を指摘して改善要請するのである。

 もっとも、安全パトロールレベルで摘発される問題と、機器や装置の設計段階のデザインレビューや工場の安全管理体制などの経営者レベルで対応する問題では専門性に隔たりがある。しかし、一般の従業員が他部署を参考にできること、安全について真剣に考える時間も持てることなど、今思えば安全パトロールは非常に有意義な活動であった。

 品質管理の世界で、全員参加の改善提案活動や小集団活動が推奨され成果を上げたと同じく、安全管理についても上からの指図で、規則を守るという受け身の取り組みだけではなしに、自分たち従業員の安全は自分たちで守るという前向きな全員参加の取り組みが大切である。

 私が若かりし頃、目の病気で入院した大学病院に苛性ソーダ(水酸化ナトリウム=NaOH)*1)で目を負傷した若い人が運ばれて来た。すでに応急処置は終わっていたと見えて、その方は待合のベンチに目を閉じ静かに俯いて座っていたが、近くで作業服の年配の方が二人そわそわと落ち着かない様子で付き添っておられた。部下を負傷させてしまった職長さん達であったろうか。後から聞いた話では被災者は失明したという。一旦事故を起こせば、その悲惨さは取り返しが利かない。その場の雰囲気の深刻さから、私は職場の事故の怖さを教えられた。






*1)毒物および劇物取締法による劇物。工業用には非常に重要な基礎化学品であるが、強アルカリ性で人体に接触すれば激しく皮膚、粘膜を侵す。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする