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キジムナーみたいな妖怪に「最近会ってないね」というおばあちゃんがいて…日本と海外の“裏”取材を語る【丸山ゴンザレス×八木澤高明対談】

2024-08-22 | ウチナー・沖縄

ブックバン8/21(水) 6:00

色街、娼婦、殺人事件などをテーマとしたノンフィクション作品をこれまで書いてきた作家・八木澤高明さん。オールカラーの最新刊『忘れられた日本史の現場を歩く』(辰巳出版)では、陸の孤島に住む呪術師、本州にあったアイヌ集落などを訪ね歩き、ルポしています。

本書の発売を記念し、ジュンク堂書店池袋本店で対談が行われました。対談相手は、テレビ番組『クレイジージャーニー』でお馴染みのジャーナリスト・丸山ゴンザレスさんです。以下では、この対談の模様をお伝えします。

(構成:松本祐貴)

ほかの取材をしていることが次のネタのキッカケになる

国家に背を向けた人々の“聖域”/無戸籍者たちの谷

丸山:初対面は、10年ほど前に八木澤さんの取材を雑誌でしたときですね。場所は、足立区の竹の塚にあるレトロな喫茶店でした。駅前で大量のシケモクをビニール袋に入れていたおじいちゃんがいたのを覚えてます(笑)。八木澤さんは、朗らかで柔らかいけど、芯がしっかりしている印象を受けました。そこからお付き合いがはじまり、1年後には単行本『青線』の編集も担当しました。

八木澤:僕の丸山さんの第一印象は、スゴく真面目な人、でした。『クレイジージャーニー』などでのご活躍も、丸山さんの真剣さ、真面目さがあってのものだと思います。

丸山:こんなところでお褒めいただくとは(笑)。あのときは取材と直接関係ない話をたくさんしましたね。

八木澤:一世代前ならベトナム戦争など大きな“現場”があり、社会にも取材者に対する理解があった。でも今は取材者も自己責任などと叩かれる時代になっている――。そんな話をしましたね。僕は海外に行ってもたたずんでいるだけですが、丸山さんは自ら、世界の犯罪の現場に飛び込んでいきました。ルーマニアのマンホールとかね(笑)。

丸山:僕は過去のいろいろな作品を参考にしています。マンホールでは、早坂隆さんの『ルーマニア・マンホール生活者たちの記録』(中央公論新社)です。それと、椎名誠の娘さんである渡辺葉さんが翻訳した『モグラびと ニューヨーク地下生活者たち』(集英社/著者:ジェニファー・トス)を読んで、ニューヨークの地下にも行きましたね。僕自身がまだ読んでいなければ、どんな本でも新刊だと思っています。

八木澤さんが言う“現場がない世代”とも言えますが、どこに行ってもいいという世代とも思えます。でも、ネタにならない場所やテーマに手を出すと貧乏暮らし一直線です(笑)。だから、僕は日本人が興味の持ちそうなネタを狙ってきました。根底には先人たちの記録があります。この八木澤さんの新刊『忘れられた日本史の現場を歩く』はどのようにネタを探したんでしょうか? 

八木澤:例えば、埼玉県秩父の無戸籍者の話だったら、神戸大学のデータベースに大正時代の新聞が保管されているのを見つけて、そこから調べたんです。山口県岩国市にいたインドから帰ってきた“からゆきさん”に関しては、たまたま別取材で訪ねた北九州市門司の古本屋で、そのことについて書かれている本を手に入れました。ほかの取材をしていることが次のネタのキッカケになることが多いですね。

丸山:古本屋は重要ですよね。80年代ぐらいまでの古本だと現場の住所が書いてあります。事件や怪談などの現場にたどり着いたけど、「本当にここだろうか?」と悩んだとき、確実にわかる住所は偉大ですよ。

人の心の襞に触れる物語 八木澤ルポはある意味「文学」

インドから帰ってきた女性/からゆきさんがいた村

丸山:僕はこの『忘れられた日本史の現場を歩く』の推薦文で「これぞ八木澤ルポである」と書きましたが、本当は“八木澤文学”にしたかったんです。『青線』を担当していたときから、僕は八木澤さんの現場の描写、情緒、人との会話が好きなんです。読んでいる側の心の襞(ひだ)に触れるので、ルポというより、文学という言葉がぴったりとくるんですよ。

八木澤:話を聞いた人の話が事実かどうか判然としないところがあって、裏を取りきれない場合でも私が必要と感じればあえて書くようにしています。私も含めて人間の記憶や眺めている日常なんていい加減なもんだと思っていて、私が描いた世界が、嘘か真かは、本を手にとって下さった方々が判断してくれればいいんじゃないでしょうか。

丸山:選び取って書くところが、八木澤さんの文章にハマるんですよ。横浜・黄金町の外国人娼婦たちを描いた『黄金町マリア』(ミリオン出版/増補新版は亜紀書房)もそうです。人の思念を言葉にするのがうまいんです。今回は推薦文として具体例は野暮なので「八木澤ルポ、八木澤文体、八木澤文学」のようなキーワードを入れたいと思いました。そう考えると、もっと分厚く、もっと読みたいと思わせる本書の形はいいですね。からゆきさんの話なんかは、もっと深掘りしてほしいです。

八木澤:ありがとうございます。

丸山:「残すか、忘れるのか」とも推薦文に書きましたが、場所や人によっては残したくない、忘れたいものがあります。八木澤さんが今回巡った土地でも、その中でつむがれていくもの、今取材しなければ忘れられていたものがあるはずです。時間が経って手にとった人にも届く、断片のための旅だったのかもしれないと思いました。僕の好みの世界なので、この本で紹介した19カ所より、もっとめぐってほしいですね。

人々と不思議をつなぐ空気感は日本なら四国や九州に残っている

潜伏キリシタンが建てた教会/中通島

丸山:この本の冒頭は高知の呪術師から始まります。僕は四国と山陰には、日本の中でも古い事象、空気感が残っている気がするんですね。八木澤さんは日本を歩いていてどうですか? 

八木澤:僕は九州の天草にそれを感じましたね。この本には入ってないですが、からゆきさんの話である村を取材しました。あの辺りは、カメラを持って村の中を歩いているだけなのに、接待をよくされたんです。都心では単なる不審者扱いになると思うんですけどね。

ちょっと話を聞いていると、「よく来たねぇ。そうめんでも食っていきなさいよ」と、食事が出てきました。昼時でなければお茶の場合もあります。それが1回だけでなく、どこに行ってもたいがい家で休んでいけと言われるんです。この本では、隠れキリシタンが住んでいた長崎県五島列島の「中通島」を紹介しましたが、そこも似た感じでした。「暑いからオロナミンC飲みなさい」「悪いこと起こるといけんから、塩もっていけ」とかね。よそものをほっておかない文化を九州では感じましたね。

丸山:九州だったら、僕は鹿児島最南端の与論島ですね。ここで、キジムナーの源流の妖怪の話を島のおばあちゃんに聞いてみたんです。すると「最近会ってないね」と答えるんですよ。おばあちゃんだけでなく、何人か同じような話をしてくれました。僕はこの島にはキジムナーが存在するんだなと思いました。島に流れる時間や空気感は壊したくないですよね。

八木澤:キジムナーじゃないけど、2009年に僕は中国に野人を探しに行きました。中国・湖北省、3000メートル級の山がある神農架というところです。現地の人に話を聞くと、キジムナーと同じ反応で「野人ね。最近見てないけど、道路を横切ったり、家の近くまで来るのよ」と言ってましたね。彼らの中には野人はいるんですね。僕たちの価値観や日常からは見えない世界はたくさんあります。この本でもそんな世界に触れてほしいですね。

【プロフィール】

◎八木澤高明(やぎさわ・たかあき)

1972年、神奈川県横浜市生まれ。ノンフィクション作家。写真週刊誌カメラマンを経てフリーランスとして執筆活動に入る。世間が目を向けない人間を対象に国内はもとより世界各地を取材し、『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『黄金町マリア』(亜紀書房)『花電車芸人』『娼婦たちは見た』(角川新書)『日本殺人巡礼』『青線』(集英社文庫)『裏横浜 グレーな世界とその痕跡』(ちくま新書)などがある。

◎丸山ゴンザレス(まるやま・ごんざれす)

1977年、宮城県生まれ。ジャーナリストであり編集者。國學院大學学術資料センター共同研究員。無職、日雇い労働、出版社勤務を経て独立。危険地帯や裏社会を主に取材しており、現在はテレビ、YouTubeでも活躍中。著書に『アジア「罰当たり」旅行』(彩図社)『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』(講談社)『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』(光文社)『世界ヤバすぎ! 危険地帯の歩き方』『タバコの煙、旅の記憶』(産業編集センター)などがある。

[文]辰巳出版

協力:辰巳出版 辰巳出版

 Book Bang編集部

 新潮社

https://news.yahoo.co.jp/articles/7b7d2a3f46361a46abeba5537b4103223780092f

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