GENROQweb2021/12/29 12:57 更新日 2021/12/29 12:57
今や伝説として語り継がれるジャニス・ジョプリンのサイケデリックな「356」をはじめ、ポルシェは各界のアーティストの創作意欲を刺激する素材でもある。ビビッドなペイントを施したアート作品から、まるで融解したようなボディワークまで、ポルシェ アートカーの世界に迫る(Part.2)。
伝説のロックアーティストが愛した356に先住民族風の911も
Taycan with Artwork by Dale Chihuly
デイル・チフーリによってデザインされた、タイカン・アートカーはシンガポールの国立公園ガーデンズ・バイ・ザ・ベイで公開された。
2021年、シンガポールの国立公園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ(Gardens by the Bay)」で公開されたのが、美しい花々が描かれたタイカンのアートカーだ。
ポルシェは今年、150万本以上の多様な植物を鑑賞することができるガーデンズ・バイ・ザ・ベイにおいて開催された、アメリカのガラス工芸家デイル・チフーリ(Dale Chihuly)主催の展示会「グラス・イン・ブルーム(Glass in Bloom)」のオフィシャルカーパートナーを務めた。
チフーリが制作した「Persians」シリーズのカラーリングに身を包んだタイカンは、鮮やかな花々で彩られた周囲の環境と見事な調和を見せることになった。未来的な温室で公開されたタイカンは、鮮やかなカラーリングと背景の木々の緑が絶妙なコンビネーションを生んでおり、集まった観客にポルシェが進めるサステナブルな精神をアピールすることになった。
Janis Joplin’s 356 C by Dave Richards
ジャニス・ジョプリンが愛したサイケなカラーリングの356 SC カブリオレは、1990年代にジャナ・ミッチェルとアンバー・オーウェンによってカラーリングが復元されている。
伝説のロックシンガー、ジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)は、1972年に発表された曲『Mercedes Benz』において、「my friends all drive Porsches(私の友達はみんなポルシェに乗っている)」と歌っていた。そして、彼女自身も実際にポルシェを所有している。
彼女は1968年にドルフィングレーの1964年式356 SC カブリオレを購入。ジャニスはコンサートスタッフのデイビッド・リチャーズ(David Richards)に500ドルを支払い、『宇宙の歴史』を可能な限りの色彩で356 SCに描き込ませた。
それは、彼女のバンド、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニー、カリフォルニアの風景、神の目、山羊座、頭蓋骨、キノコなどさまざまなイメージを含む、彼女自身の全てを描いていた。見る者を圧倒する356は、こうして誕生したのである。
このサイケな356 SC カブリオレは、ファンがワイパーの下にファンレターを残すほど、ジャニスの代名詞となった。1969年に一度盗難されたものの、無事に犯人は逮捕。犯人は上からスプレーすることで派手なカラーリングを隠そうとしていたが、リチャーズがクリアコートで保護していたため、スプレーを消して本来の姿を取り戻すことができたという。
ジャニスはこのクルマを購入してからわずか2年後、1970年に27歳で麻薬の過剰摂取により亡くなってしまった。彼女の愛車であるポルシェはやがて兄弟の手に渡り、弟のマイケルが劣化したポルシェを元のドルフィングレーの状態に戻している。
そして1990年代、サイケデリックな輝きを取り戻すため、彼女の家族はアーティストのジャナ・ミッチェル(Jana Mitchell)とアンバー・オーウェン(Amber Owen)にオリジナルに描き直すことを依頼した。元のサイケな姿を取り戻した356 SC カブリオレは、その後2015年にチャリティオークションにかけられ、176万ドルという驚異的な価格で落札されている。
Crystal-embellished 911 by Daniel Arsham
2019年にダニエル・アーシャムによって製作されのが、ボディにクリスタルが埋め込まれた真っ白なタイプ992だ。
アメリカ・オハイオ州で生まれたダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)は、ニューヨークを拠点に活動し、「白」と「黒」をテーマとした彫刻、絵画、映像、インスタレーション作品などを手がけるビジュアルアーティストだ。
子供の頃からポルシェに憧れていたアーシャムは、2019年にクリスタルがボディを侵食したワンオフ仕様の911 タイプ992を制作した。ボディにクリスタルを埋め込むことでディストピア風の外観を実現し、“ポスト・アポカリプス”の世界に存在しても違和感のない存在感を手にした。
このタイプ992は2019年にロンドンのセルフリッジで展示された後、アジアツアーも行われた。現代アートの世界は流行り廃りが激しいため、このユニークな作品は「退廃と並行した劣化の感覚を呼び起こす」と、アーシャムは説明している。
911 RSR Le Mans by Richard Phillips
アートカーでありながらも、実際のレースに参戦したのがリチャード・フィリップスによって制作されたポルシェ 911 RSR。2019年のル・マン24時間でイェルク・ベルクマイスターのドライブでクラス優勝を飾っている。
ポルシェ 911 RSRは、単なるアート作品ではなく実際に2019年シーズンのル・マン24時間レースに参戦。GTE Amクラスで勝利を収め、ポルシェのアートカーとして初めてレースで勝利した1台となった。その大胆なデザインとカラーコントラストは、グランドスタンドの最上階からもデザインの全容を把握することができたという。
この作品のテーマは、アーティストのリチャード・フィリップスとポルシェのファクトリードライバーであるイェルク・ベルクマイスターの固い友情。ふたりの関係は2013年にフィリップスがベルクマイスターのヘルメットをデザインしたことから始まっている。
1970 911 S by Ornamental Conifer
シンプルな911 S のボディに大胆なタイポグラフィを描いたのは、カリフォルニアを拠点に活躍するオーナメンタル・コニファーだ。
英国生まれでカリフォルニア在住のアーティスト、ニコ・スクレーター(Nico Sclater)は、オーナメンタル・コニファー(Ornamental Conifer)として活躍。彼はフリーハンドのタイポグラフィで作品を描いており、ユーモア溢れるポップアート風文字は、言葉遊びやクールな言い回し(彼自身は「コニファーイズム」と呼んでいる)を巧みに組み合わせ、独自の作風を確立している。
テキサスのクライアントのために制作された911 Sには、「いつまでも遠くへ(Stay forever far out)」という、大胆かつ自由なメッセージが込められているという。
911 Fat Car NFT by Erwin Wurm
まさに息を飲むようなデザインとはこのこと。エルヴィン・ヴルムがライフワークの一環として制作した911のファットカー。
オーストリアを拠点に彫刻家・画家として活躍するエルヴィン・ヴルム(Erwin Wurm)は、実物よりも大きな作品を手掛けてきたことで知られているアーティストだ。彼のライフワークである「ファット・スカルプチャー(Fat Sculpture)」は20年にわたり、そのテーマは家やクルマなど様々だ。
2021年、彼のアイコンである「ファットカー」が20周年を迎えるにあたり、ヴルムの奇抜さが前面に押し出された911が発表された。同時に発表された映像作品内では、ブルム自身によりこの911ファットカーが、呼吸をするとどのように見えるか、独自の解釈を紹介している。
911 Carrera type 996 by Biggibilla
1998年にオーストラリア・メルボルンで公開されたのが、先住民族出身のアーティスト「ビギビラ」によって描かれたタイプ996だ。
素朴かつ精緻な意匠を与えられた911カレラ(タイプ996)のアートカーは、1998年にポルシェセンター・メルボルンのショールームで公開された。その繊細なカラーリングは、先住民族出身のアーティスト、グラハム・J・レニー(Graham J Rennie)、通称ビギビラ(Biggibilla)によって丹念にハンドペイントされたもの。
この996アートカーは、ポルシェの名を冠した最初のモデルであるアルミニウム製プロトタイプ「No1」の登場から50年周年を記念して制作。アヒル口のカモノハシなど、オーストラリアの動物があしらわれている。
https://motor-fan.jp/genroq/article/18840/