北海道新聞 05/31 11:13
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、まだ食べられるのに余った食品を困窮世帯に届ける道内のフードバンク団体がフル回転している。生活苦に陥った人たちからの支援要請が相次いでいるためだ。運営団体の多くは寄付金が財源で、ニーズが高まるほど資金繰りを圧迫する。インターネット上で資金を募るクラウドファンディングを始めた団体もあるが、食品や人員確保が課題となっている。
「助かります」。NPO法人ハンズハーベスト北海道(札幌市中央区)が運営するフードバンクの事務所で、23日に開かれた就学援助受給家庭対象の食品配布会。米5キロやレトルトカレーなどが詰まった紙袋を受け取った40代女性が頭を下げた。
小学5年の息子と就学援助を受けて暮らす女性は、正社員採用が内定していた転職先の会社が感染拡大の打撃を受け、3カ月間の契約社員で雇用された。会社から「期限になったら社員にする」と言われたが、口約束のため雇い止めの不安の中で働いているという。
■助けを求め殺到
食品配布会は2日間開かれ、昨年の2倍の約100世帯が訪れた。日ごろは母子家庭20世帯に毎月、食品を提供しているが、感染が広がった3月以降、解雇や給与未払いになった人たちから支援を懇願され、十数人に食品を渡した。
国の緊急事態宣言は25日に解除されたが、小山邦子代表(82)は「10万円の特別定額給付金が支給されて改善されるかもしれないが影響は続くだろう。食品の在庫は限りがあるが、困っている人を見捨てられない」と相談電話に対応する。
食品の確保は、各団体共通の課題だ。NPO法人フードバンクイコロさっぽろ(東区)は毎月、母子家庭10世帯に1週間分の食品を送ってきたが、感染拡大で助けを求める母親が殺到。5月は100世帯余りに食品を送り、米が足りなくなった。
フードバンク札幌(北区)でも、5月は前年同月の2倍に当たる100世帯余りに食品を渡した。仕事を失った在留外国人もいた。企業から食品の提供が相次ぎ、4~5月は17トンを受け取ったが、運営するNPO法人札幌市福祉生活支援センターは福祉施設の運営が本業のため、収益のないバンク活動に専任者は置けず、職員3人が本業の傍ら食品の受け渡しを担っている。
■資金集めに奔走
資金集めに奔走する団体もある。NPO法人ワーカーズコープ室蘭事務所が運営するフードバンクいぶりは、困窮家庭の子供200人に食品を送ろうと、18日にクラウドファンディングを始めた。配送費が不足しているためで、6月26日までに百万円を集めるのが目標。
いぶりは3~4月、前年同期の2・6倍の154世帯に食品を提供した。多くは母子家庭だ。自宅待機が続いた洞爺湖温泉の宿泊施設で働くパート女性や、開業が延期された胆振管内白老町のアイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」でパート勤務が内定していた女性からも助けを求められた。休業補償などの支援制度を活用しても、生活に十分な額ではないという。運営責任者の木内卓(たかし)さん(63)は「助けが届いていない家庭がまだある」と協力を呼びかける。
フードバンクの需要は全国的に高まっており、中央共同募金会(東京)は18日、活動助成金を創設。自治体の補助金の対象となる場合もあるが、道内のバンク関係者は「提出書類が複雑で手が回らない」と漏らす。全国フードバンク推進協議会(東京)の米山広明事務局長(36)は「行政も主体的にバンクの運営に関わり、地域ぐるみで活動が安定する仕組みを作ることが必要」と訴える。(佐竹直子)
<ことば>フードバンク 安全に食べられるのに包装の破損や過剰な在庫などを理由に流通されない食品を企業や生産者から譲り受け、困窮世帯や福祉団体に無償で提供する活動。1960年代に米国で、食品が無駄に廃棄される「食品ロス」の削減と貧困対策をつなげるため始まった。日本では2000年以降、広がった。国が昨年10月に施行した食品ロス削減推進法は、自治体にフードバンク活動への支援や連携を求めている。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/426014