marieclaire2024.1.18
2024年 3月10日(以下、すべて現地時間)に開催される第96回米アカデミー賞。1月23日のノミネート発表を前に、注目作を紹介する。マリ・クレール インターナショナルのUK版デジタル記事よりお届け。
2024年アカデミー賞を予想。『バービー』か、『オッペンハイマー』か、それとも『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』か?
2023年のアカデミー賞では、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が作品賞を受賞したほか、ミシェル・ヨーの主演女優賞を含む、計7つの栄誉ある賞を獲得している。しかし、今年は1本の映画がこれほど多くを独占する可能性は低くなりつつあるようだ。ブラッドリー・クーパーの『マエストロ:その音楽と愛と』、インディーズで人気の『パスト ライブス/再会』、ダークコメディ『American Fiction(原題)』など、他にも受賞候補とされる大作があり、それらすべてがアカデミー賞での成功を期待されている。
映画評論家や業界の専門家による2024年アカデミー賞予想リストを精査した結果、今年のアカデミー賞の作品賞レースで注目すべき作品と、2024年1月にノミネーションリスト入りしそうな俳優を紹介する。
アカデミー賞の公式なノミネーションはいつ発表されるのか?
アカデミー賞のノミネート期間は2024年1月11日から16日までで、1月23日に正式なノミネート作品が発表される。
授賞式は3月10日、日曜日に開催され、ロサンゼルスのドルビー・シアターでの恒例の華やかなセレモニーにて、受賞者の全リストが発表されることとなっている。
2024年アカデミー賞作品賞予想
アカデミー賞のカウントダウンはホリデーシーズンが終わってから始まるのが恒例だが、今年頂点に立つのはどの作品なのか、すでに予想が立てられている。以下の2024年アカデミー賞作品賞予想は順不同である。
1. キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
アカデミー賞が好きなジャンルといえば西部劇であり、『ノーカントリー』(2007年)、『レヴェナント:蘇えりし者』(2015年)、そして最近では2021年の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』など、このジャンルの作品が少なくとも一つの賞を受賞している。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』はマーティン・スコセッシ監督の最新作で(彼は脚本も共同執筆している)、西部劇のレンズを通してアメリカの先住民族との関係を検証している。
レオナルド・ディカプリオが主演し、アーネスト・バークハートを情感たっぷりに演じたことが称賛されているが、アカデミー賞で大きな話題を呼んでいるのは、アーネストの妻モリーを演じたリリー・グラッドストーンだ。モリーは1920年代のオクラホマ州で「恐怖の支配」(オーセージ・カウンティで起きた残忍な連続殺人事件)の時代に生きたオーセージ族の女性である。
スコセッシ監督は『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』(2016年)でリリーの演技を見た後に、彼女を(モリー役に)キャスティングしたことについてこう語っている(米誌『Variety』より)。「リリーの役柄は物静かで、口数も少ないが、その存在感、一挙手一投足でスクリーンを支配していた。あのようにスクリーンで存在感を発揮する術を心得ている俳優はほとんどいない。モリーというキャラクターにぴったりだった」
2. バービー
映画『バービー』をめぐる盛り上がりは、これまでに遭遇したことのないものだった。これは完成度の高い映画であると同時に、マーケティングの勝利でもある。ファッショントレンドとなった“バービーコア”は今や完全に定着し、続編が製作される可能性もあることから、この映画は成功を収めたと言っていいだろう。
しかし『バービー』はアカデミー賞を獲得できるだろうか? 一般的に作品賞の受賞候補に挙げられているが、『オッペンハイマー』や『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のような歴史的大作ほど、アカデミー賞の話題にはなっていない。とはいえ、オリジナル楽曲賞は期待できそうだし、批評家たちの間ではライアン・ゴズリングの助演男優賞は間違いなしとの声も多い。グレタ・ガーウィグ監督たちが手ぶらで帰ることになるのを見たら、私たちは驚くだろう。
3.オッペンハイマー
クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』が(作品賞の)大本命であることは明らかだ。ダークで重層的な傑作であり、ノーラン監督のこれまでのキャリアにおいて、もっとも重要な瞬間のひとつを象徴している。壮大なスケールで描かれるこの伝記映画は、キリアン・マーフィ、ロバート・ダウニー・Jr、エミリー・ブラント、フローレンス・ピューらの傑出した演技を誇ることは言うまでもないが、典型的なアカデミー賞作品である。
ノーラン監督にとって初のアカデミー賞受賞は、多くの業界関係者から遅きに失したと見られており、(本作で)監督賞の有力候補となっているが、この作品が作品賞を狙えるかどうかはまだわからない。『オッペンハイマー』の核心は道徳的な物語であり、ノーラン監督は上映後に観客にこう語っている。「我々は、彼らが持っている道具を使って行ったことに対して、その人たちに責任を負わせなければならない。これは結果についての映画だ」
4. 哀れなるものたち
『哀れなるものたち』の予告編を見た人なら誰でも、この作品がちょっと……異質に見えることを知っているだろう。しかしそうは言っても、初期の批評はどうであれ、特に主演のエマ・ストーンの演技についての評判を見ると、このシュールなファンタジー/コメディ/歴史映画のハイブリッドは、歓迎すべき変化だと思われる。エンタメサイト『ポリゴン』のオーリー・ウェルシュ氏は、「2023年の映画の中で、おそらくもっとも独創的でカリスマ性のある主人公」と評し、フランケンシュタインのように死体から生き返ったベラ・バクスターを演じたエマは、世界中の批評家の注目を集め、アカデミー賞の主演女優賞の有力候補となった。
5. May December(原題)
ナタリー・ポートマンとジュリアン・ムーアが一緒に映画に出演するだけでも私たちの関心を引くには十分だが、『May December(原題)』の手に汗握る題材を加えれば、絶対に観るべき映画リスト入りは確実だ。このプロットは児童レイプの罪で刑を受けたアメリカ人女性教師メアリー・ケイ・レトルノーと彼女の元生徒ヴィリ・フアラアウの実際の関係をゆるくベースにしている。
本作のストーリーは主人公の俳優エリザベス・ベリー(ナタリー・ポートマンが演じる)の物語を追ったもので、エリザベスは次回作でグレイシー・アサートン・ユー(ジュリアン・ムーアが演じる)を演じることになっている。グレイシーは、12歳の少年と性的関係を持っていたことが明るみに出た後、タブロイド紙に追い回され、悪名高い人物となったが、後にその少年と結婚し、家庭を築き始めた女性である。居心地の悪い話だ。
6. 『パスト ライブス/再会』
セリーヌ・ソン監督の長編デビュー作『パスト ライブス/再会』は、数十年にわたるロマンスを、思慮深く情感豊かに描いた作品だ。脚本は現実的で面白く、ときに感動的だが、せつないサウンドトラックとロマンチックなカメラワークがさらにそれを引き立てている。劇作家であるソン監督は、ニューヨークに住む韓国人としての経験を脚本に盛り込み、文化的なテーマだけでなく、郷愁や憧れといった概念も探求した。脚本家であり、監督でもあるソンは、ノラという主人公を生み出したことについて(スペイン紙『El Pais』のインタビューで)次のように語っている。
「(ノラによって)実現できたかもしれないのに実現しなかった未来と恋愛のノスタルジーに浸ることができました」。彼女はこう説明を続けた。「私が知っているのは人生のつながりです。日々の感情的な出来事を描き、ときには何と呼べばよいのかわからないような男女の関係の足跡をたどることもあります」
この映画は2023年のサンダンス映画祭で鮮烈なデビューを飾り、その勢いは衰えず、映画批評家たちは作品賞を予想するにあたり、この注目すべきインディーズ作品を選択肢のひとつとして大きく取り上げている。
7. マエストロ:その音楽と愛と
ブラッドリー・クーパーの『マエストロ:その音楽と愛と』は、音楽家レナード・バーンスタインの伝記映画で、ブラッドリーと共演のキャリー・マリガンが最高の演技を見せてくれる。仮に作品賞が逃したとしても、批評家たちはブラッドリーとキャリーの両主演が演技部門で受賞する可能性を強く予想している。
『マエストロ:その音楽と愛と』は、ゆりかごから墓場までという形式を踏襲した伝記映画ではない。バーンスタインの偉大なる愛とフェリシア・モンテアレグレ(キャリー・マリガンが演じる)との結婚を中心に描かれており、批評家の中にはこの古典的なハリウッド映画が2桁ノミネートを果たすと予想する者もいる。
8. American Fiction(原題)
コード・ジェファーソン監督が、アメリカのメディアがいかに黒人を搾取しているかを風刺した本作は、人種に関する明確なメッセージを伝えているが、批評家からは2023年もっとも面白い映画のひとつであり、作品賞のダークホース候補ともみなされている。
パーシヴァル・エヴェレットによる2001年の小説『Erasure(原題)』を原作とするこの映画は、攻撃的な常套句(じょうとうく)に頼る業界にうんざりしている小説家が、ペンネームを使って業界の真実を明らかにしようと決意する姿を描いている。『American Fiction(原題)』は、2024年のアカデミー賞予想において番狂わせを起こす可能性があり、あるアカデミー賞投票者は『Variety』誌にこう語っている。「これはかなりの発見である。大きな賞を勝ち取るのはこういう映画だ。私は笑いたかったし、泣きたかった。結果、笑ったし、泣いた」
その他の有力候補は以下の通りだ。
The Holdovers(原題)
落下の解剖学
The Zone of Interest(原題)
Saltburn
カラーパープル
異人たち
アイアンクロー
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