CREA1/26(金) 17:11配信
『カムイのうた』への意気込みを話す吉田美月喜さん。
アイヌ民族の壮絶な史実を赤裸々に描いた映画『カムイのうた』で主演をつとめた吉田美月喜さん。文字を持たないアイヌ民族の言葉を初めて日本語に訳した知里幸惠をモデルにした女性・テルを演じています。役作りの難しさについて、吉田さんにお聞きしました。
【画像】『カムイのうた』への意気込みを話す吉田美月喜さん。
──『カムイのうた』へのご出演が決まった時は、どのようなお気持ちでしたか?
テル役に決まったと聞いた時は、「監督と一緒に闘うというくらいの意気込みで、この作品を世の中に伝えていかなくてはいけない」と、強い使命感を抱きました。
テル役はオーディションで決まったのですが、オーディションを受ける前は、アイヌ民族や文化について、「小中学生の時に、授業で習ったことがあったな」というくらいの認識しか持っていませんでした。でもオーディション中もずっと、映画に対する菅原浩志監督の思いや情熱をひしひしと感じていましたし、アイヌについて調べれば調べるほど、知れば知るほど、生半可な気持ちでできる役ではない、という思いが強まっていたので、決まった時は身が引き締まる思いでした。
──テル役を演じるにあたって、菅原監督からはどんなふうに演じてほしいと言われましたか?
監督からは撮影に入る前に、「知里さんとしてではなく、テルとして演じてほしい」と言われました。
テルのモデルは、知里幸惠さんという実在の人物で、映画のストーリーも、実際の知里幸惠さんの生涯をなぞって描かれています。そのうえで監督は私に、「実在した知里さん」ではなく、知里さんの人生や考え方を踏まえたうえで、テルを演じる私自身の思いや考えを表現してほしい、とおっしゃいました。これは実際にやってみるとかなり難しくて、感覚をつかむまでに苦労しました。
──どのように役作りをされたのですか?
まずは当時のアイヌと日本の歴史を勉強するところから始めました。史実を学びながら、同じ19歳の女性として、アイヌの歴史の中に生きる自分の姿をイメージしていきました。
そして、アイヌ民族として生まれたばかりに、和人によって差別や迫害を受ける怒りや哀しみ、「なぜこんな理不尽に苦しい思いをしなくてはならないのか」という憤りなど、自分の中に自然に湧きあがる感情を、役に投影していきました。
ひたすら音源を聴いたユーカラ
──難しい役柄ですよね。役作りで一番ご苦労されたのはどのようなことですか?
理不尽な差別や迫害を受けるアイヌ民族の気持ちになることです。同じ気持ちにならなければテルになりきることはできないと思って役作りをしたのですが、役に入り込むほど、撮影現場にいることがつらいと感じて、苦労しました。そして、これが紛れもなく日本で実際に起きたことだという事実も、かなりショックでした。
あとはセリフが少ないことですね。今作では、「一日中撮影していて、画面にはずっと映っているのに、セリフがほんのひと言しかない……」ということも結構ありました。セリフがないので、ふるまいやちょっとした目の表情で感情を伝えないといけないのが、すごく大変でした。
──でも吉田さんは目力がすごく強いので、監督も「目で訴えかける」演技ができると思われたのでは。
えぇ~! ほんとですか! 監督からもオーディションの時に「目力で伝える魅力がある」と言っていただいたので、すごく嬉しいです。ありがとうございます。
アイヌ民族の方や、アイヌに関わりのあるみなさま、映画を見てくださる方にご納得いただけるかどうか心配でもありますが、撮影中、一生懸命「テル」として生きた私の思いが、スクリーンを通して伝わったらいいなと思います。
──アイヌの叙事詩であるユーカラ(※ラは小文字)はどうやって覚えたのですか?
アイヌ文化は文字を持たないので、歌詞カードがないんです。だから、撮影に入る前に音源を送っていただいて、ひたすらそれを聴いて覚えました。
もともとユーカラは、各家庭の先祖伝来の教訓みたいなものなので、みんな耳で聴いて覚えて、それを伝えてきたそうです。だから、各家庭によって物語が違うし、伝え手・語り手によって抑揚も全然違う。しかも楽譜もないので、本当に、ひたすら音源を聴いて、その音源通りに覚えていくしかないんです。ただただ、聴いて覚える。その繰り返しでした。
単語ひとつひとつ完璧に耳コピできたと思っていたんですけど、いざ撮影が近くなって、ロケのために北海道入りして現地でユーカラの先生にチェックしていただいたら、予想以上にダメ出しをいただいて「あれ?」って思いました(笑)。
本当の伯母と姪のように…
──どんなダメ出しですか?
実はユーカラって「歌」ではなく「物語」なんです。だから、同じ単語でも場面によっては暗く謡うこともあるし明るく謡うこともあるとか、この文章は明るい表現に使うフレーズだとか、ていねいに意味を教えていただきました。
「自分の思うように、会話をするみたいにやってくれたらいいよ」とアドバイスもいただき、はじめはただ音として聴いて覚えていたものが、「これは物語であり、会話なんだ」と理解できたことで、ちょっとずつ“本物”らしく謡えるようになったのではないかと思います。
──もともと歌はお好きなんですか?
はい、好きです。CMではコマーシャルソングをワンフレーズ歌わせてもらったこともあります。でも、お仕事としてちゃんと歌うというのは初めてだったので、緊張しました。しかも最初の歌の仕事がユーカラで、そのうえ島田歌穂さんとのデュエットって……すごいハードルですよね(笑)。
──ミュージカルで世界的に活躍している島田歌穂さんとのユーカラの共鳴は、初めてとは思えないほどお見事でした。本当に血のつながりのある肉親なのでは、と思えるほどの抜群のコンビネーションは、どう構築されたのですか?
島田さんとは、ロケ地の北海道で初めてお会いしたんですけど、とにかく私がガチガチに緊張してしまっていたので、役と同様、本当の伯母と姪のように、何かと気にかけてくださいました。テル役を演じきり、ユーカラを謡い上げることができたのは、島田さんが大きな愛で支えてくださったからだと思います。
島田さんがユーカラを謡うと、意味がわからなくても説得力があって、すごく引き込まれるんですよ。間近で聴かせていただいて、あらためてすごい方だなと思いました。でもその島田さんでも、「ひとつひとつの音が集まってできる音楽を、感覚で表現するのは難しい」とおっしゃっていたので、島田さんに引き上げていただきながらユーカラを謡えたことは、私にとって大きな自信になりました。このユーカラを聴くだけでも心が震えますので、ぜひ劇場のいい音響で聴いて、見ていただきたいですね。
相澤洋美
https://news.yahoo.co.jp/articles/6a2b2a6f9cdb1830818981196b1f0cf2b413e178