スクリーン2024-01-19
明治末期の北海道、厳しい大自然を舞台に莫大なアイヌの埋蔵金を巡り、サバイバル・バトルが繰り広げられる。映画『ゴールデンカムイ』は独特の世界観から「実写化は不可能」と言われていた野田サトルの同名人気コミックの実写化である。主人公の杉元佐一を演じるのは『キングダム』『今際の国のアリス』シリーズなど数々の作品で国内外から高く評価される山﨑賢人。山田杏奈が相棒となるアイヌの少女・アシリパを演じ、眞栄田郷敦、矢本悠馬、玉木宏、舘ひろしらが個性的なキャラクターに扮して三つ巴の戦いを盛り上げる。メガホンをとった久保茂昭監督に話を聞いた。※アシリパのリは小文字が正式表記(取材・文/ほりきみき)
プロデューサーの意気込みに背中を押された
──監督はオファーを受けたときに「どこまで『ゴールデンカムイ』の世界観を表現できるか不安だった」とコメントされていますが、それでもお引き受けになったのはどうしてでしょうか。
コミック原作をやるのが初めてだったということもあって不安を感じていました。しかし、プロデューサーの松橋さんが「冒頭の二〇三高地のシーンは日本兵の凄まじさと勇敢さを今までにない邦画として描きたい。そこから全てが始まる」と強くおっしゃっているのを聞き、ゴールデンカムイの世界観を本気で1つ1つ丁寧に作っていこうとしているのを感じ、その意気込みに背中を押されました。実写化のために自分が何をすべきかということは、それからのスタートだと思えました。
──その段階で脚本はできていましたか。
最初に打診されたとき脚本はまだできておらず、どこまでどう描くのかといったことをうかがい、第一稿までは黒岩勉さんとプロデューサーにお任せしました。その間、一年くらいあったので、個人的なリサーチとして北海道を回り、実写化へのアプローチを探す旅をしていました。
──具体的にはどのようなリサーチをされたのでしょうか。
原作者の野田先生のブログや取材物を読み直してみると、先生は実際に北海道に行って取材をされているので、まずはそれを追うことにしました。野田先生がのぼりべつクマ牧場に行かれたと書かれていれば、僕ものぼりべつクマ牧場に行ってクマを感じ、屯田兵や旧陸軍第七師団についての資料を展示している北鎮記念館や博物館網走監獄に行ったとあれば、そこにも行きました。
そうやって丁寧に自分の目で見ていくと、原作に出てくる建物がたくさんありました。北海道の方々が明治時代の建物を本当に丁寧に残してくれていたのです。幸いにも街並みはできている。そこを中心にする物語であれば、明治時代という文化は描けると思いました。
アイヌに関しては、実際に作らないといけないと思っていたので、アイヌ文化復興・創造の拠点であるウポポイ(民族共生象徴空間)に行って、アイヌ文化に触れました。このように1つ1つスタッフと一緒にリサーチしていきました。
──雪山のシーンが多かったので、ご苦労されたのではないかと思います。
2022年の冬から撮影しましたが、長野で撮っていたら暖冬で雪が溶け、雪山が緑の山になってしまい、別の場所を探しました。ところがそこも溶けてしまって、新潟から何十トンという雪を持ってきて、スタッフのみんなで撒いたことがありました。
一方で、気温が-10度まで下がり、雪がものすごく降ってしまって撮影ができなくなったり、画が繋がらなかったり。撮影時間も日が暮れるまでとなると限られてしまう。そういった苦労が多々ありました。
いちばん大変だったのは、役者が芝居をする場所を雪山で作り出すことでした。スキーをしていて少しコースを外れるとずぼずぼになってしまいますが、雪山の撮影では圧雪して芝居ができるようにしているのです。そういうことを全く気にしないで、雪山のシーンが出てくる映画作品を見ていたことを改めて知りました。
しかも車を停めてから歩いて2時間という場所での撮影は無理。10〜15分で行ける山を北海道、新潟、長野と細かく探しました。さらに圧雪して芝居場を作るだけでなく、スタッフが暖を取れる場所も確保しなくてはならない。そういう準備を完璧にしないと厳冬期の撮影は危険を伴うのです。それくらい徹底した準備をして撮影に臨みました。
役作りで約10キロの筋肉をつけた山﨑賢人
──主人公の杉元佐一を山﨑賢人さんが演じています。監督は山﨑さんとは初めてですね。
知り合いの監督から純粋でいい子だと聞いていました。彼が出演した作品を全部見たのですが、人間の本質がとても優しく、そういったお芝居やセリフの言い回しが自然にできる。どの作品の賢人くんを見ても、応援したくなる魅力を持っていました。
実際に会ってみるとまさにそのまま。純粋で優しいところが自然とセリフに現れますが、杉元もそういう優しさを芯に持っています。逆にそこがクリアできなかったら、なかなか難しかったかもしれません。
──山﨑さんとはどのように杉元を作っていかれましたか。
いちばん大事なのは杉元がどんな生き方をしてきたのかということ。賢人くんには役について書いた杉元ノートを作って渡したのですが、この作品は命を賭けたサバイバル・バトルなので、そこに説得力がないとダメ。原作の最後の方に“自分のためだけならとっくに諦めてる。そもそもの始まりが人助けだ”といったセリフがあるのですが、そういった杉元の純朴な部分を賢人くんも持っていると思ったので、 “杉元がこれまで経験してきたストーリーを追うのもいいけれど、まずは強靭な肉体を作ってほしい”とお願いしました。すると賢人くんは約10キロの筋肉をつけ、日本兵としての武闘アクションを1つ1つ丁寧に身につけてくれました。
二〇三高地や過去のシーンは初めに撮影させてもらいました。特に二〇三高地に関しては原作をバラバラにして、そこのシーンだけまとめたところ1巻分くらいあったので、4日間の予定を10日間まで粘らせてもらい、過酷な戦場を撮りました。そこでの経験があることで、その後の雪山でのサバイバルがリアルになり、杉元は完成すると思ったのです。
──二〇三高地で砲撃を受け、杉元が一瞬、後ろに吹き飛ばされそうになるものの、ぐっと堪えて前に進むシーンに生きることを諦めない強い気持ちが伝わってきました。
そこは狙いです。1つ1つのセリフが全て行動に繋がっています。その辺りは野田先生がしっかり描いてくださっていましたから、そういったことを大事にして撮り、賢人くんもそれに応えてくれました。
──馬そりに引き擦られるシーンも山﨑さんご自身がされているそうですね。
僕はアクションが好きで、アクション作品をたくさん撮っていますが、ほぼ自分でやれてしまう役者さんで主役ができる人はほとんどいません。
しかも賢人くんは自然なお芝居もできる。表情1つ撮ってもすごいんです。パンチするときにそのシーンはなぜ戦っているのかを全部理解しながら、表情をつけるのはすごく大変。お芝居とアクションを両立させることができる唯一の役者ですね。日本の宝ですよ。彼のことを撮るたびにその魅力をじわじわと感じました。
だから杉元なんです。賢人くんしか生身の杉元はできないと思います。
──拝見するまでは『キングダム』の信と被らないかが心配でしたが、まったくの杞憂でした。
そこは本人もいちばん意識してやってくれたと思います。信はこれからいろんな戦いに行く役どころで、すごく若い。一方で杉元は一苦労も二苦労も背負ってきた。僕としては声を意識してもらい、現場で「ちょっと優しすぎるね」などと伝えましたが、本人も表情でやんちゃな部分や優しさがそのまま出るところの棲み分けをすごく意識して、考えながらやってくれたと思います。
──杉元は山田杏奈さんが演じたアシリパと少しずつ関係性を深めていきますが、山﨑さんはそこも丁寧に演じられていました。
杉元とアシリパの信頼関係の構築は今回の大きなテーマです。
最初の方は2人があまり仲良く見えない方がいいと思い、山田さんにはそれを事前に伝え、賢人くんには自然に任せていました。出会いのシーンを撮影したころは2人の間にいい緊張感があったと思います。それが次第に打ち解けていき、野生のリスを調理する“チタタプ”(※チタタプのプは小文字が正式表記)シーンでぐっと距離が縮まります。
だからこそ、杉元はアシリパを置いてコタンを出ますが、アシリパが杉元を追っていきました。脚本が丁寧に原作を追っていますし、賢人くんも山田さんも理由をわかっているので、自然と表情に出たのかなと思います。
最後のシーンはすべてが終わってから撮りました。2人は「セリフの言い回しが今までこうきたので、こういう言い方はどうでしょうか」などとアイデアをたくさん出してくれ、撮影を通じて信頼関係を構築していってくれた気がします。
*アシリパのリは小文字が正式表記
──杉元は梅子との別れを経験したことで人として一回り大きくなり、アシリパとの関係を作っていけたように思いました。
アシリパと出会い、アイヌコタン(村)に行き、杉元は アイヌ文化やアシリパの生い立ち、置かれている状況を知りました。それによって今までの自分にはできなかったことができるのではないかという希望と、この子を守っていくのは自分だという決心が生まれた気がします。
ずっと撮っていたくなる魅力を感じる玉木宏
──鶴見篤四郎を演じた玉木宏さんの怪演が印象に残ります。
脚本が鶴見という人物をしっかり描いていたので、僕と玉木さんはそれを追っていったのですが、狂気の具合は難しかったですね。原作はマンガですから、目を過剰にぐわーっと開いたりしていますが、実写ではそういうわけにはいきません。脳汁が垂れるきっかけとなる目の瞳孔の開き具合などを玉木さんとシーンごとに話し合い、まずは不気味な感じで登場し、その後は狂気にオンとオフを加えながらやりました。常に狂気というわけではないですからね。爆発するのは杉元に串を刺す瞬間。それまではちょっと抑えながら、ときどき垣間見えるくらいにしましょうといった感じにしました。
玉木さんの声や美貌も観客をゾクゾクさせるものの1つだと思いますから、怪演の中に美があるといった感じの鶴見になりました。そして、第七師団のみんなが惚れこむようなどっしりとしたところも持たせて作っていきました。
──鶴見は狂気の人ですが、なぜ第七師団が金塊を狙っているかを語るのを聞いていると、共感してしまいたくなります。どのように演出をされましたか。
共感しちゃうんですよ。それが鶴見の持っている美。だから僕らはあの言葉に説得されてしまうのです。そして玉木さんも同じものを持っています。僕がしたのは振り付けくらい。セリフの言い回しなどは玉木さんにお任せでした。
鶴見もすごく人気があって、連載終了後から全国各地で開催されているゴールデンカムイ展では「鶴見中尉ナイト」といった催しも用意され、お客さんが鶴見のお面をつけて鑑賞するんです。それくらい熱狂的なファンがいます。そんな鶴見を玉木さんが見事に演じ切ってくれました。
──玉木宏さんの魅力はどんなところでしょうか。
何でも挑戦してくれるところですね。原作の1コマを見せて、「ここは原作ではこういうシーンですが、こういう違う動きをしたいです」と伝えれば、すっと演じてくれる。ずっと撮っていたくなる魅力を感じる人でした。
──これからご覧になる方にひとことお願いします。
今までにない北海道、明治時代、アイヌ文化を舞台にした作品です。スタッフ、キャストが一丸になって、大自然の中で起きるサバイバル・バトルを原作にリスペクトを込めて作りました。ぜひ大スクリーンでご覧いただければと思います。
<PROFILE>
監督:久保茂昭
1973年生まれ。これまでEXILE、安室奈美恵、DREAM COME TRUEなど数々の有名アーティストのミュージック・ビデオを500作品以上監督し、「VMAJ年間最優秀ビデオ賞」を5年連続受賞。ドラマ「HiGH&LOW〜THE STORY OF S.W.O.R.D.〜」(15)を皮切りに、同シリーズの映画公開作品を監督。その他の監督作品に、高橋ヒロシによる不良漫画の金字塔『クローズ』『WORST』のコラボ映画『HiGH&LOW THE WORST』(19)や『小説の神様 君としか描けない物語』(20)などがある。
『ゴールデンカムイ』全国劇場にて公開中
東宝MOVIEチャンネル
チャンネル登録者数 137万人
映画『ゴールデンカムイ』予告②【2024年1月19日(金)公開ッ‼】
www.youtube.com
<STORY>
日露戦争においてもっとも過酷な戦場となった二〇三高地をはじめ、その鬼神のごとき戦いぶりに「不死身の杉元」と異名を付けられた元軍人の杉元佐一は、ある目的のために北海道で砂金採りに明け暮れていた。そこで杉元は、アイヌ民族から強奪された莫大な金塊の存在を知る。金塊を奪った男「のっぺら坊」は、捕まる直前に金塊をとある場所に隠し、そのありかを記した刺青を24人の囚人の身体に彫り、彼らを脱獄させた。刺青は24人全員で一つの暗号になるという。
そんな折、ヒグマの襲撃を受けた杉元を、アイヌの少女・アシリパが救う。アシリパは、金塊を奪った男に父親を殺されていた。そして父の仇を討つため、杉元と行動を共にすることに。
同じく金塊を狙うのは、日露戦争で命を懸けて戦いながらも報われなかった師団員のために、北海道征服を目論む大日本帝国陸軍第七師団の鶴見中尉。そして、もう一人、戊辰戦争で戦死したはずの新撰組「鬼の副長」こと土方歳三が自らの野望実現のため金塊を追い求めていた――。
杉元&アシリパVS.第七師団VS.土方歳三・・・!!
雄大な北の大地を舞台に、一攫千金!三つ巴のサバイバル・バトルが、今始まるッ――!!!!
※アシリパのリは小文字が正式表記
<STAFF&CAST>
原作:野田サトル「ゴールデンカムイ」(集英社ヤングジャンプ コミックス刊)
監督:久保茂昭
脚本:黒岩勉
音楽:やまだ豊
主題歌: ACIDMAN「輝けるもの」(ユニバーサル ミュージック)
アイヌ語・文化監修:中川裕 秋辺デボ
出演: 山﨑賢人
山田杏奈 眞栄田郷敦 工藤阿須加 柳俊太郎 泉澤祐希 / 矢本悠馬
大谷亮平 勝矢 / 高畑充希
木場勝己 大方斐紗子 秋辺デボ マキタスポーツ / 井浦新
玉木宏 ・ 舘ひろし
※山﨑賢人の「崎」は正式には「たつさき」
※柳俊太郎の「柳」は正式には旧字の「木夕卩」
配給:東宝
©野田サトル/集英社 ©2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会
公式サイト:https://kamuy-movie.com/
https://screenonline.jp/_ct/17679422