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北海道新聞2024年1月9日 10:21
「盛者必衰」「おごれる人も久しからず」――学生時代に習った『平家物語』の「祇園精舎」の一節がふと脳裏をよぎった。政治資金パーティーをめぐり、自民党最大派閥「安倍派」を中心に、「裏金」を受けとった疑惑が次々と報道されている最中のことだ。その「疑惑」を向けられた政治家らは皆、口をそろえて「捜査に影響を与えるから説明できない」という趣旨の言葉ではぐらかすが、そうした議員が、捜査後にまともな説明をしたことがあっただろうか。
4千万円超のキックバックを受け取った疑惑が指摘される、谷川弥一衆院議員(長崎3区)は、説明を求めるメディアの前で、「事実関係を慎重に調査・確認をして、適切に対応してまいりたい」と型通りのコメントを読み上げた後、居丈高に「これ以上言いません」と開き直った。あげく質問を続ける記者に「頭悪いね」と言い放つ始末だ。ちなみに谷川議員といえば2016年、カジノ法案審議中の質問で、「時間が余ったから」と突然、般若心経を唱えはじめたことで物議を醸した過去がある。
ただ、こうした分かりやすい「おごれる人」のみに気を取られるべきではないだろう。「捜査に影響が」等、何ら合理性のない建前を取り繕い、「お答えを差し控える」と繰り返すこと自体がそもそも不誠実極まりない。
「政治倫理綱領」をご存じだろうか。1976年、旅客機の受注をめぐる世界的規模の汚職事件、「ロッキード事件」が発覚し、その後も政治家の「カネ」と「倫理」が問われる事件が相次いだ。政治倫理の基本理念を示した「政治倫理綱領」は、85年の国会法改正に伴い、衆参で議決をされたものだ。そこには「みずから真摯(しんし)な態度をもつて疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう努めなければならない」とある。「お答えを差し控える」を連発している議員らは、果たしてこの綱領に目を通したことがあるのだろうか。
生前の安倍晋三元首相は、不祥事が続いた際に「膿(うみ)を出し切る」と繰り返してきたが、それを今こそスローガン倒れに終わらせず、実行に移すべきではないだろうか。そしてそれは、「裏金」疑惑を向けられた議員にとどまらないだろう。
性的マイノリティーに対する差別発言や寄稿など、数々の言動の問題が指摘されてきた杉田水脈衆院議員を、岸田文雄首相は2022年、総務政務官に起用した。こうした人物を政権の要職に起用することは、「差別問題など考慮するに値しない」という負のメッセージとして社会に伝わっただろう。
そして昨年、杉田氏の過去の投稿が、札幌・大阪両法務局から人権侵犯と認定された。2016年に開催された国連女性差別撤廃委員会の後、杉田氏は自身のブログなどに、「チマ・チョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場」「同じ空気を吸っているだけでも気分が悪くなる」などと投稿していた。
ちなみに杉田議員も安倍派だ。札幌法務局での人権侵犯認定が報じられた後、塩谷立座長は「しっかりその内容を受け止めて、今後の政治活動の参考にしてもらいたい」とコメントするにとどめている。これでは実質、「お咎(とが)めなし」だろう。杉田氏はその後も、反省のそぶりはない。こうして「おごれる人」であり続けているのは、自民党としての責任が大きいだろう。
差別の放置は、さらなる暴力を招く。パレスチナ・ガザ地区では凄惨(せいさん)な殺戮(さつりく)が続いてきたが、イスラエルの高官や政治家らから、敵を「人間動物」等の非人間化する言動が相次いできている。とりわけ公権力者の言葉の影響は大きく、その扇動効果は計り知れないものがある。
繰り返される杉田氏の差別発言に、・・・・・・
(やすだ・なつき=フォトジャーナリスト)