北海道新聞06/28 09:00
東京五輪の聖火リレーは今月、ルート概要が発表され、走者(ランナー)の募集も始まった。東日本大震災で被害を受けた福島県を2020年3月26日にスタート。日本列島を時計回りに一筆書きで巡り、開会式の7月24日、聖火台のある新国立競技場に到着する。日本全体のほぼ半分にあたる857市区町村を121日間で駆け抜ける巨大イベントは、どのような歴史をたどり、どのように行われるのだろう。(須貝剛)
■1万人がつなぐ
聖火リレーは「キャラバン」と呼ばれる隊列で行われ、トーチを持つランナーをパトカーが先導し、スポンサーなどの車両20台ほどが後に続く。
2020年大会のランナーは1区間の約200メートルを時速5キロほどで進む。1キロに12分かかる速歩のレベルだ。ちなみに1964年東京大会は1区間1~2キロで時速12キロが目安だった。1キロ5分のペースで、体力のある16~20歳が選ばれた。今回は、大会時に中学1年生以上の幅広い世代が対象になる。
都道府県別の日数は東京都が最多の15日。複数の競技会場がある神奈川、静岡など4県と東日本大震災の被災3県は3日で、道内は6月14、15の2日。
ランナーは全国で約1万人、1日80~90人を想定する。多くはスポンサーと国際オリンピック委員会(IOC)に割り当てられ、都道府県実行委員会の募集枠は2500人ほど。50億円以上とみられる運営費の大半はメインスポンサー4社の協賛金で賄われる。
聖火をともすトーチは上から見ると桜の花の形をしている。福島県の小学生らが描いた絵をヒントにデザインされ、ランナー1人に1本ずつ用意される。
■道内は18市町
道内のリレーは18市町で行われ、具体的な道路、区間数などは年内に決まる。1区間のランナーは原則1人で、直前に走れなくなった場合、過去大会では他区間の距離を伸ばすなどしている。
ちなみに、64年東京大会は国内4ルートで10万713人のランナーが参加した。このうち道内は4094人。当時、道内は19市町村の178区間、約340キロで、予備日と青森への引き継ぎ日を含む9日間で行われた=写真=。キャラバンは正ランナー1人、代役の副ランナー2人、五輪の小旗を持つ随走者約20人で編成された。
■「親子の火」方式
2020年大会では、日本列島を限られた日数で巡るため、16年リオデジャネイロ大会でも採用されたリレー方式の「親子の火」が道内のほか、離島の多い東京都、沖縄県などで用いられる。
例えば、道内の1日目に函館市でスタートした聖火は根室市に引き継がれる。もちろん手渡しできないから、根室では、あらかじめランタンで運んでおいた予備の聖火「子どもの火」をリレーに使う。
引き継ぎでは、函館で使った「親の火」をトーチからランタンへ移すのと同時に、根室で子どもの火をランタンからトーチへ移す。親と子の火は一緒にトーチでともさないのがルールだ。根室が北斗市に引き継ぐときも同じ手順。北斗で使われる聖火は函館からランタンで事前に運ばれた親の火だ。
■海中や宇宙にも
そもそも聖火リレーは、ヒトラー政権下で開かれた1936年ベルリン大会で初登場した。古代五輪発祥の地、ギリシャ西部オリンピアを出発し、欧州を巡った。
その後も世界を回るルートが一般的で、64年東京大会でもトルコ、レバノンなどを経由した。しかし、2008年北京大会で中国政府のチベット騒乱弾圧に抗議した妨害行為が各地で起きたため、それからの五輪ではギリシャと開催国でのみ行われている。
00年シドニー大会では水中が舞台となり=写真=、14年冬季ソチ大会ではロシア人宇宙飛行士がトーチを持って宇宙遊泳するなど、科学技術の進歩に伴ってリレーの演出は多様化している。
■121日間、日本を発信 聖火リレー検討委・布村幸彦委員長に聞く
聖火リレー検討委員会の布村幸彦委員長(大会組織委員会副事務総長)にルートの狙い、見どころを聞いた。
――IOCは「一筆書き」「100日以内」を内規で定めているが、東京は121日間と長い。
「私たちが強く訴えたのは二つ。47都道府県を網羅することと、東日本大震災などの被災地を丁寧に回ることだ。100日間では足りないので、何度も思いを伝えた。少しでも復興につながるリレーになればよい」
――東日本大震災の津波に耐えた「奇跡の一本松」(岩手県陸前高田市)のほか、世界遺産の姫路城(兵庫県)、日本三景の「天橋立」(京都府)なども回る。
「都道府県実行委が良いルートを考えてくれた。北海道はアイヌ文化施設『民族共生象徴空間(ウポポイ)』を通る。日本には、世界に知られた観光名所以外にも優れた歴史と文化がたくさんあることを伝えたい」
「親子の火方式も用いたことで(1時間以内にリレーを見に行ける範囲の住民を日本の総人口で割った)人口カバー率は98%になった。国中の人がオリンピックへの期待感を高めてもらえると思う」
――日数が増えたことで運営費がかさみ、メインスポンサーは過去最多の4社。企業色が強まりはしないか。
「企業PRの要素は少なからず出るが、スポンサーは国民と一体になってリレーを盛り上げてくれる。例えば、うちわや自社製品を配ることで沿道で見てくれる人の参加意識は高まる」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/319839
東京五輪の聖火リレーは今月、ルート概要が発表され、走者(ランナー)の募集も始まった。東日本大震災で被害を受けた福島県を2020年3月26日にスタート。日本列島を時計回りに一筆書きで巡り、開会式の7月24日、聖火台のある新国立競技場に到着する。日本全体のほぼ半分にあたる857市区町村を121日間で駆け抜ける巨大イベントは、どのような歴史をたどり、どのように行われるのだろう。(須貝剛)
■1万人がつなぐ
聖火リレーは「キャラバン」と呼ばれる隊列で行われ、トーチを持つランナーをパトカーが先導し、スポンサーなどの車両20台ほどが後に続く。
2020年大会のランナーは1区間の約200メートルを時速5キロほどで進む。1キロに12分かかる速歩のレベルだ。ちなみに1964年東京大会は1区間1~2キロで時速12キロが目安だった。1キロ5分のペースで、体力のある16~20歳が選ばれた。今回は、大会時に中学1年生以上の幅広い世代が対象になる。
都道府県別の日数は東京都が最多の15日。複数の競技会場がある神奈川、静岡など4県と東日本大震災の被災3県は3日で、道内は6月14、15の2日。
ランナーは全国で約1万人、1日80~90人を想定する。多くはスポンサーと国際オリンピック委員会(IOC)に割り当てられ、都道府県実行委員会の募集枠は2500人ほど。50億円以上とみられる運営費の大半はメインスポンサー4社の協賛金で賄われる。
聖火をともすトーチは上から見ると桜の花の形をしている。福島県の小学生らが描いた絵をヒントにデザインされ、ランナー1人に1本ずつ用意される。
■道内は18市町
道内のリレーは18市町で行われ、具体的な道路、区間数などは年内に決まる。1区間のランナーは原則1人で、直前に走れなくなった場合、過去大会では他区間の距離を伸ばすなどしている。
ちなみに、64年東京大会は国内4ルートで10万713人のランナーが参加した。このうち道内は4094人。当時、道内は19市町村の178区間、約340キロで、予備日と青森への引き継ぎ日を含む9日間で行われた=写真=。キャラバンは正ランナー1人、代役の副ランナー2人、五輪の小旗を持つ随走者約20人で編成された。
■「親子の火」方式
2020年大会では、日本列島を限られた日数で巡るため、16年リオデジャネイロ大会でも採用されたリレー方式の「親子の火」が道内のほか、離島の多い東京都、沖縄県などで用いられる。
例えば、道内の1日目に函館市でスタートした聖火は根室市に引き継がれる。もちろん手渡しできないから、根室では、あらかじめランタンで運んでおいた予備の聖火「子どもの火」をリレーに使う。
引き継ぎでは、函館で使った「親の火」をトーチからランタンへ移すのと同時に、根室で子どもの火をランタンからトーチへ移す。親と子の火は一緒にトーチでともさないのがルールだ。根室が北斗市に引き継ぐときも同じ手順。北斗で使われる聖火は函館からランタンで事前に運ばれた親の火だ。
■海中や宇宙にも
そもそも聖火リレーは、ヒトラー政権下で開かれた1936年ベルリン大会で初登場した。古代五輪発祥の地、ギリシャ西部オリンピアを出発し、欧州を巡った。
その後も世界を回るルートが一般的で、64年東京大会でもトルコ、レバノンなどを経由した。しかし、2008年北京大会で中国政府のチベット騒乱弾圧に抗議した妨害行為が各地で起きたため、それからの五輪ではギリシャと開催国でのみ行われている。
00年シドニー大会では水中が舞台となり=写真=、14年冬季ソチ大会ではロシア人宇宙飛行士がトーチを持って宇宙遊泳するなど、科学技術の進歩に伴ってリレーの演出は多様化している。
■121日間、日本を発信 聖火リレー検討委・布村幸彦委員長に聞く
聖火リレー検討委員会の布村幸彦委員長(大会組織委員会副事務総長)にルートの狙い、見どころを聞いた。
――IOCは「一筆書き」「100日以内」を内規で定めているが、東京は121日間と長い。
「私たちが強く訴えたのは二つ。47都道府県を網羅することと、東日本大震災などの被災地を丁寧に回ることだ。100日間では足りないので、何度も思いを伝えた。少しでも復興につながるリレーになればよい」
――東日本大震災の津波に耐えた「奇跡の一本松」(岩手県陸前高田市)のほか、世界遺産の姫路城(兵庫県)、日本三景の「天橋立」(京都府)なども回る。
「都道府県実行委が良いルートを考えてくれた。北海道はアイヌ文化施設『民族共生象徴空間(ウポポイ)』を通る。日本には、世界に知られた観光名所以外にも優れた歴史と文化がたくさんあることを伝えたい」
「親子の火方式も用いたことで(1時間以内にリレーを見に行ける範囲の住民を日本の総人口で割った)人口カバー率は98%になった。国中の人がオリンピックへの期待感を高めてもらえると思う」
――日数が増えたことで運営費がかさみ、メインスポンサーは過去最多の4社。企業色が強まりはしないか。
「企業PRの要素は少なからず出るが、スポンサーは国民と一体になってリレーを盛り上げてくれる。例えば、うちわや自社製品を配ることで沿道で見てくれる人の参加意識は高まる」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/319839