ソニーは昨日バッテリー自主交換プログラムの詳細を発表したと今朝の新聞は一斉に報じた。最初聞いたときは古いニュースかと思ったが、自主交換の発表は今回初めてだった。リコールの対象は2003年8月から今年2月までに製造されたリチウムイオン電池パック960万個、510億円に達すると報じられている。
デルのノートパソコンが発火事故を起こしたのが昨年10月だったからソニーがリコールを決定するまでに丸1年かかった。発表によるとデルの最初の事故から今年2月まで5ヶ月間生産が続き、多分翌月まで不良パックの流出が続いたことになる。
品質管理の問題もさることながら、日本を代表する世界企業のソニーの危機管理がどうしてこんなに粗雑で時間がかかったのか興味がある。危機管理が適切に機能して例えば1ヶ月で不良品の流出を抑えていれば少しはダメージを減らせたはずだ。
ソニー内で一体何が起こったのか大変興味がある。指揮系統における現場とトップ間、及び製造技術部門と管理部門で何が起こったのだろうか。私の危機管理の経験から何が起こったか例によって大胆な「憶測」をしてみたい。
バッテリーは化学変化をエネルギーに変える極めてアナログ的な性質を持ち、パソコンのデジタル技術者が通常扱う電子回路とは異なる。ノ-トパソコンは90年代から品質問題でリコールを繰り返してきたが、その殆どはバッテリー絡みの事故だった。デル自身90年代初めに事業解体的見直しに繋がるリコールを行った。
バッテリー事故は火災などの深刻な事態に発展する恐れがあるので、問題が起こるとリコールに繋がり多額の損失を被ることが多い。しかし、バッテリーそのものの品質問題よりバッテリー持つ大きなエネルギーを適切に制御していれば防げた事故もかなりあった。
今回の事故原因はバッテリー生産過程で金属粉が電極間の絶縁層に混入した為内部短絡を起こしたと説明されている。想像では、デルの事故報告がソニーに届いた時品質管理や技術部門はデルの使い方に問題があるという先入観があって、それが調査を遅らせた可能性がある。
もしくは、金属微粒子の混入はかなり早い時点で検出したが、2003年出荷開始より2年無経過していたのでそれが事故に繋がる確率を過小評価したものと思われる。その頃までに出荷した何百万パックの中でデル以外に事故の申告がまだ届いて無いか、もしくは頻度が少なかったから現場はそう思いたかったのではないだろうか。
最初ラインからトップへの報告はこの希望的観測でなされ、トップにはバッテリーが引き起こすかもしれない潜在的な問題を感じ取れる人はいなかったと思われる。想像ではトップが技術者出身の人材だとしても直感的にデジタル的発想しか出来ない人だと思う。バッテリーに詳しい技術者出身で世界的企業のトップにつくことは先ず考えられない。
ところがバッテリーの問題は時間の経過と共に化学変化し劣化が進む場合がある。最初は問題なくとも使っている間に混入した金属微粒子に導電性の結晶が徐々に成長し電極がショートし発火する事故がその後起こったはずだ。温度など使われる環境や、充電方式によって事故が起こる時間や頻度が異なる。
その後アップルやレノボ等の事故報告が届くたびにこの希望的観測が崩れていったと思われる。悪いことに希望的観測に基づいた初期の発表との辻褄を合わせる為、途中で思い切った方針転換が出来なかったのではないかと推測される。初動でボタンを掛け違え、以後逐次投入という危機管理としては最悪シナリオ」だ。
デジタル的に1か0かの判断に慣れた人が、バッテリー問題をアナログ的表現で多分に自己保身的・希望的な報告から重大な危機を感じ取り、大損しても冷徹に意思決定することの難しさを示した例ではないかと想像する。
しかしソニーほどの巨大組織の中でトップマネジメントにこれを求めるのは現実的ではないだろう。私の憶測が当たっているなら、危機管理組織と指揮系統の見直しをするにしても、部長か事業部長クラスは深刻さを感じ取り、トップに理解できる言葉で報告する人材を少なくとも一人配置することだろう。こういう人はビジネスを知らない、空気を読めないと普段は評判が悪い。■