goo blog サービス終了のお知らせ 

MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

専門医の死角

2010-10-02 22:57:30 | 健康・病気

お待ちかね?
恒例のメディカル・ミステリーである。

9月27日付 Washington Post 電子版

Medical Mysteries
Nurse solves mysterious ailment that puzzled orthopedists, oncologist 整形外科医やがん専門医を悩ませた不可解な病気を看護師が解決

Mysteriousailment

父と義父が医師である John Gordon 氏は、金のかかった長期間に及ぶ苦労の一つの理由として、『彼が“善良すぎる患者であった』ことがあると言う。

By Sandra G. Boodman
 振り返ってみると、もし彼のオフィスが多くの診療所も有する Montgomery County の高層ビルの中になかったなら事態は変わっていたかもしれないと John Gordon 氏は思っている。
 もし彼がポンとエレベーターのボタンを押せばいいだけでなく、診察予約、検査や治療のためにわざわざ遠くへ出かける必要があったとしたら、稀な癌をはじめとしてどんどん突拍子もないゾッとする診断名へとエスカレートしながらあとでそれらを否定するような医師たちを最初から疑ってかかっていたことだろうと Gordon 氏は考えている。そうしていれば、何千ドルも費やした鍼治療や、無効で、時には苦痛を味わった他の治療だけでなく、2回の不要な膝の手術と何十回と繰り返した理学療法の時間を彼は回避できていたことだろう。
「私は善良すぎた患者だったのです。その理由はうまく説明できませんが」と、この54才の商業用不動産会社社長は言う。彼の父親と義父は医師だった。結局、よくある疾患だった正しい診断へとつながったのは5人の専門医の眼識ではなく一人の看護師による基本的な質問であった。
 Gordon 氏の症状は2007年5月に始まったが、それは、結婚20周年のお祝いに彼と妻の Christine がニューメキシコとアリゾナに旅行し帰ってきて間もなくのことだった。夫妻は Sedona 近辺で険しい峡谷を歩きまわっていた。自宅に戻った後、テニス愛好家である Gordon 氏は左の膝が腫れているのに気づいた。彼はハイキングで膝を捻挫したためと思っていた。
 数週間経ったが、膝が良くならなかったので彼は同じビルにある整形外科医を受診した。そこで理学療法を勧められた。「理学療法士の元に行くのもきわめて簡単でした」と、Gordon 氏は思い出す。「エレベーターにポンと飛び乗るだけだったのです」
 しかし、数週間のうちに週に2回の理学療法の時間は効果がないことが明らかになった。膝はさらに痛みを増し、“ズボンの上からも感じられるほどの高度の熱感”があった。整形外科医は膝から黄色い液を抜き、尿酸が関節に溜まる時に生ずる関節炎の一つである痛風の既往歴がないかどうか Gordon 氏に尋ねた。Gordon 氏はさらに理学療法に通い続け、2回のコルチゾンの注射を受けた。これは一時的に効果を見たが、膝はむしろ動きにくくなったため、松葉づえでの歩行を余儀なくされるようになった。
 11月、痛風は否定的で、MRIでも疼痛や腫脹を説明できる靭帯や軟骨の損傷が認められなかったことから治療に行き詰った整形外科医は診断のための手術を勧めた。2007年12月、医師は手術を行い、よく見られる軟骨の損傷である半月板の部分的な断裂があると Gordon 氏に告げた。整形外科医は軟骨を修復し、Gordon の膝は改善するだろうと予測した。
 しかしその後数ヶ月経っても痛みは依然改善せず、楽に歩くことができなかったため、Gordon 氏はリハビリテーションと疼痛管理を専門とするリハビリテーション専門医の診察予約をした。その新しい医師がまず考えたのは、熱感と腫脹は感染の徴候ではないかということであった。しかしその医師が「いや、もしそうなら診断されているはずです」と言ったのを Gordon 氏は思い出す。彼は鍼治療を受けることを Gordon 氏に勧めたが、結局これも無効だった。
 2回目のMRIによって原因不明に組織の異常増殖を生ずる pigmented villonodular synovitis(色素性絨毛結節性滑膜炎)と呼ばれる疾患が指摘されると、Gordon 氏は整形外科医を変えた。
 次の新しい医師からも手術を勧められ、2008年5月20日、7ヶ月で2回目となる膝手術を受け、 Gordon 氏は再び松葉づえの生活となった。その整形外科医は絨毛結節性滑膜炎を否定したが Gordon 氏にはもっと深刻なことが心配されると Christine Gordon さんに告げた。
 膝の中や周囲にきわめて多くの異常な組織が存在していたと、夫が回復室にいる間に医師は夫人に告げた。悪性腫瘍の一つ、肉腫の可能性があり、最悪の場合、夫の足を切断する必要があるということだった。医師は John Gordon 氏を整形外科腫瘍医と感染症専門医に紹介し、この夫妻は組織生検の結果が出るまでの苦渋に満ちた数日間を過ごすことになる。しかし結果は陰性だった。
 感染症専門医は詳細な病歴をとり、今回の症状に先行した南西部への Gordon 氏の旅行に照準を合わせた。
 「95%の正確さであなたの病気がわかると思います」、彼がそう言ったのを Gordon 氏は思い起こす。彼は Gordon 氏が valley fever に罹ったものと考えた。これは南西部の土中に認められる微生物によってひき起こされる、時に致死的ともなる真菌感染症である。この医師は、最大量の強力な抗真菌薬を2週間分処方した。
 結局この薬は Gordon 氏に強い吐き気をもたらし弱らせただけだった。彼の膝は好転せず、検査で valley fever ではないことがわかった。この感染症専門医は困り果て、代わりに抗生物質を処方したと、Gordon 氏は言う。
 しかし、一週間後の2008年6月、この医師が電話をかけてきた。Gordon氏によると、彼の病状が検討されていたスタッフ・ミーティングで、あるナースから、これまで Gordon 氏が Lyme disease(ライム病)の検査を受けたかどうか、という質問が出たことをこの医師が報告してきたという。受けたことがありますか?と、医師は尋ねた。受けたことはないし、誰からもそんな病名を持ち出されたことはなかったと、Gordon 氏は答えた。医師はただちに検査の依頼をファックスし、程なく Gordon 氏はエレベーターに乗り彼のビルにある臨床検査センターへ降りて行った。
 結果は明確だった。ライム病の二つの検査は陽性で、そのうちの一つによって、感染が何ヶ月も前に起こっていたことが示された。Gordon 氏の膝の症状はライム病による関節炎の結果であった。通常関節炎は感染のずっと後に発生し、複数の関節、特に両膝関節が侵される。
 シカダニの刺咬によって媒介される病原体スピロヘータの一種による感染症であるライム病は1970年代半ばにコネチカット州ライムの住民に関節炎が高頻度に認められることに対して研究者が調査を開始し発見された。WebMD によると、この疾病の最初の症状は、通常刺咬部近くの遊走性紅斑である。初期の症状として全身倦怠、項部硬直、筋肉痛などがある。感染は抗生物質のドキシサイクリンで治療される。未治療の場合、患者は数日から何ヶ月続く関節痛を繰り返す。ライム関節炎を起こす患者もいるが、これはしばしば永続的である。
 Gordon 氏は愕然とした。どうしてこれがあれほど多くの専門医に見逃されていたのかと彼は不思議に思った。また、どうして彼はライム病に罹ったのだろうか?
 数週間後、National Institute of Allergy and Infectious Diseases の感染症の専門家で、ライム病の自然経過を研究している Adriana Marques 氏の診察室に座っている時、彼はその2番目の疑問に対する答えを得たのである。
 Gordon 氏は Glen Echo にある彼の自宅近くの鹿がいっぱいいる公園で犬を散歩させるのが好きだった。彼はしばしば短パンをはき、しばしばツタウルシに接触した。そのため、彼がシカダニに刺されても紅斑に気づかなかったり、あったとしても間違ってツタウルシのせいだとしていた可能性がある、と彼は言う。
 どうしてあれほど多くの医師たちがそれを見逃したのか?
 Marques 氏によると、ライム病の診断が遅れた患者を見たことはあるが、Gordon氏ほど長く遅れた例はいないという。
 「単に彼らがそれを考えつかず、違う道に嵌まっていったのだと思います」と Marques 氏は言う。「簡単な血液検査あるいは膝関節液の解析を行っていればその感染が明らかとなっていたはずですが、恐らく両者とも行われていなかったのです」
 二人の整形外科医は、検査によってその診断が確定したことを彼から告げられた後もライム病が原因だということに懐疑的だったと、Gordon 氏は言う。「それは納得できないと彼らは言っていました」と、彼は言う。
 これに対してMarques 氏は異議を唱えている。「彼のケースでは彼がライム病以外の何かに罹っていたという証拠はありません」と、彼女は言う。
 ドキシサイクリンを数週間内服し、本疾患の Marques 氏の研究に登録した Gordon 氏は、完全ではないが膝ははるかに良くなっていると言う。彼は再びテニスをするようになったが、まだいくらか関節の硬さが残っており、可動域も障害されている。恐らくこういった症状はずっと続くだろう。
 早い段階で内科を受診し“専門医と交渉してくれる味方を得ておくべきだった”と、今にして彼は思っている。しかし、数年前に重大な病気にかかってこのかた、すぐに専門医を受診することを常としていたと、彼は言う。
 もっと懐疑的になるべきだったと“自分を責めている”と彼は言い、彼の診断につながった端的な質問をしてくれた看護師にはいまだに感謝していると付け加えた。
 「必要だったのは簡単な血液検査だったのです。驚くべきことは、あれほど多くの医師たちが目の前にある正解がわからなかったことです」と、Gordon 氏は言う。

ライム病については 
IDWR の感染症の話をご参照いただきたい。
本疾病は野鼠や鹿、小鳥などを保菌動物とし、
マダニによって媒介されるスピロヘータの一種、
ボレリアによる感染症である。
アメリカ北西部を中心に流行が続いているが、
日本でも1986年に初めて報告されて以来、
年間20~30例の発生があり、現在まで
主に本州中部以北で数百人の患者が
確認されている。
マダニ刺咬部を中心とした遊走性紅斑が
特徴的だが、数日から数週を過ぎると
この紅斑は消失し、感染が全身性に広がって
神経症状、心症状、筋肉痛、関節炎など
多彩な症状が主体となると
本記事のように診断が困難となる可能性がある。
診断には病歴や特徴的な皮膚症状が重要だが、
確定診断には病原体の検出や
ウエスタンブロット法により
特異抗体の上昇を確認する。
治療としては、セフトリアキソン、ドキシサイクリン、
テトラサイクリンなどの抗菌薬が有効である。
日本での報告例は少ないが、
実際には見逃されている症例も多いと推察され、
潜在的な蔓延が生じる可能性が常にある。
マダニの活動期は春から初夏、秋とされており、
野山に出かけるには絶好のシーズンとなるこれからも
深い茂みや藪を避けること、
肌を露出しないこと、
虫体を確認しやすい白っぽい服装をすること、
もしマダニに食いつかれたら不用意に虫体を潰したり
しないこと、
など十分にお気をつけいただきたい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする