オバマ大統領が
15日、シカゴで開催された米国医師会の年次総会で、
医療制度改革の必要性を強調した。
現在の米国医療制度は
4,600万人にも上るといわれる無保険者、
急増する医療費という、二つの大きな問題を抱えている。
オバマ氏は、「今改革しないと米国がGMと同じ道を歩む」と
危機感をあおり、国民の理解を求めようとしている。
前政権はこの問題を避けてきたが、
大統領選で掲げていた中心的政策課題の言葉どおり
オバマ政権はこれに真剣に取り組む姿勢を見せている。
しかしながら医療制度改革に対する
医師、病院、保険会社、薬品会社の抵抗は根強く、
改革の断行は容易ではなさそうだ。
Following the Money in the Health Care Debate 医療制度議論における銭の問題
連邦議会は最も議論の多い国内問題の一つ―医療制度改革―に取り組む構えを見せる。今後数ヶ月、さらに議論が飛び交うことになるだろう。
これまでのところ議論の多くは、コストを減らすことになると主張する政府支援の医療計画についてのオバマ大統領の提案に焦点が向けられてきている。保険会社や医師は、それが患者の選択の制限につながると主張し、薬品会社は医療の質が損なわれると警鐘を鳴らす。
しかし、オバマ氏の提案は、米国の約5,000万人の無保険者に対処しながら、急増する医療費をいかにして抑制するかという問題に連邦議会が直面する時、議会に求められる多くの案の一つに過ぎない。この問題の大きさと複雑さは気が遠くなるほど厄介だ。どうなっているのかを理解するためには、金、財源に注目する必要がある。
ざっと2.5兆ドルが危機にさらされているわけだが、これは毎年米国が医療に費やしている額であり、アメリカ経済の約5分の1に相当する。その金をどのように分割するか?あるいは現在のペースでの増加をどのように阻むかということが議論の中心である。多くの医師、保険会社および薬品会社は、自分たちの収入が著しく減少し、患者への医療が脅かされることを危惧しているという。
それらの議論はメリットをもたらすかもしれない。しかし、「国民は自分自身の経済的関心に従って意見するでしょう」と、New York の Miller Tabak & Co. のためにこの論争を注意深く追いかけているウォール・ストリート・アナリストの Les Funtleyder 氏は言う。
すべての利益団体が頼りとして支持するのは、補填を無保険者へと拡大するなんらかの新しいプログラムである。こういったプログラムは、病院、医師、保険者、薬品メーカーなどに支払いをする新たな数千万人の顧客に向けられることになる。
しかしそういった団体を気がかりにさせていることは、これに付随してくる、とどまるところを知らない医療費の急増への取り組みについてのワシントンにおける議論である。というのも、なんであれ出費の減少は彼らの収入の減少に直結するからである。今後十年間、国民皆保険への支払いに求められる約1兆ドルを生み出すために必要な財源を政府がどのようにして工面するかをめぐって議論はことさら白熱してきている。たとえば、米国の医師たちは、誠心誠意、医療制度改革を支持すると言う。しかし米国医師会は現状を脅かすような立法化に反対してきた長い歴史がある。事実、同組織は30年以上前、メディケアの創設に反対した。
メディケアに類似した公的保険プログラムについて医師たちに懸念を与えているのは、メディケアと同じような支払いが成される可能性があるということである、とヴァージニア州 Alexandria の健康政策コンサルタントの Robert Laszewski 氏は言う。「メディケアは保険会社が支払う80%しか医師に支払いません。もし、公的プランを受け入れれば、医師たちは20%の減収に甘んじることになります」と、彼は言う。
しかし、様々なタイプの医師たちがどのように補償されるべきかについて、医師の間でも意見が分かれそうである。連邦議会は、プライマリ・ケアの医師、すなわち、一般開業医や家庭医などへの代価の引き上げを検討している。これによって、患者の健康をより積極的に監視させ、専門医や病院への金のかかる受診を減らそうというのである。
専門医―心臓医、神経医、外科医など―は、プライマリ・ケア医の報酬を上げるために高い支払いを受ける専門医から金を回すことに連邦議会が決めれば、この議論に対し異議を示すだろう、と Laszewski 氏は言う。「問題は、いかにして心臓医や他の専門医の報酬をカットすることなくプライマリ・ケア医を支援することができるかです」
大方利益を享受する立場にある家庭医でさえ、もし公的プランがメディケアの比率で支払われるのであれば、このプランに反対であると主張する。
その他、勝ち負けが重大な結果をもたらす団体として米国の民間保険会社がある。雇用者や自分の考えで民間保険に加入する人々の増加が見込めないことから、保険会社は新しいビジネス源を見出したいと考えている。少なくとも、現在の保険には入る余裕はないが、保険料の支払いに政府の援助を受けることになりそうな新たな顧客を生み出すことを、医療制度改革は保険会社に期待させる。
しかし、同業者団体である America's Health Insurance Plans は、それが不公平な便宜を与えるとして、いかなる種類の公的健康保険計画に対して反対の意向を明確に主張してきた。この同業団体は、政府がその購買力を利用して医師や病院からはるかに低い代価を要求することで、加入企業がビジネスから締め出されることを危惧している。
この団体の最高責任者である Karen Ignagni は、公的健康保険が高齢者や障害者を越えて拡大しないことを前提にメディケアを運営してきた政府の実績を批判してきた。このプログラムは、重病である時の治療に十分機能してこなかった。「メディケアは治療を有効に調製したり、慢性疾患に対処したり、高い効率を推進したりすることができませんでした」と、最近彼女は連邦議会に語った。
医療制度改革に必要な財源を確保する一つの方法として、メディケアの患者の一部を賄うために補償されている民間の保険会社への支払い額を下げることも議論されている。そのような財源が保険会社から出ても医師からは出ないことを前提に、米国医師会はその削減に対する支持を表明している。
病院もまた、公的プランについて懸念を表明している。同じように、メディケアによる支払いが民間保険よりはるかに低いからである。
国内製薬メーカーもまた、公的プランは最終的に全システムの政府による独占につながると予測されることから反対を表明している。「政府による医療の独占に伴って必然的に生ずる長い待ち時間、選択肢の制限、あるいは医療配給に近い形態に米国の患者は順応しない、あるいはすべきでないと思います」と、薬品メーカー Eli Lilly & Co. の最高責任者 John C Lechleiter 氏は財界首脳の会合で最近語った。「米国の医師や患者に、治療法の選択肢の真の価値に基づいて選べる可能性を温存しておく必要があります」
しかし薬品会社は、今日取引している保険会社に比べ、より低い価格を要求する政府の抑制策にも警戒する。「政府の介入が強まれば強まるほど、支払いは少なくなるでしょう」とアナリストの Funtleyder 氏は言う。
政府が様々な薬剤や医療器具の有効性を決定するのに以前より大きな役割を担うこととなり、製品について、どれが保険適応となるのか、どのように政府が支払うかのかについての決定にそういった情報が用いられることになる事態についても、これらの会社は懸念している。当然のことながら、保険会社は薬品や医療器具メーカーに対して政府が強硬政策をとることを支持している。それによって彼らの手を煩わされることがなくなるからである。
どのような形になるにせよ議会による法案のまとめ上げが近づくにつれ、多くの利害関係者からの意見が一層高まり、それおぞれが自己本位となってゆくだろう、と Laszewski 氏は予測する。デイトナ500の最終ラップを見ている時のように、集団から抜け出そうとする試みがグループの何者かによって企てられるであろう。「最終段階に達すれば、そこには味方はいません、頼れるのは自分だけです」、と彼は言う。
医療の現報酬システムを維持したまま
4,600万人の無保険者に対する保険の拡充は
さらなる医療費増大を招くとの意見もある。
より多くの医療サービスを提供した方が
医師、病院、薬品会社、医療機器メーカーなど
儲けが大きくなり、患者側もそれを期待する限り、
医療費の抑制は困難であろう。
お金持ちなら、不自由なく高度な医療を受けられ、
貧しい人たちにも最低限の医療が保証される、
それが理想的な医療制度であるが、
そこに膨大な医療費が計上されるのは間違いない。
明らかに存在する医療の無駄は極力省かなければ
ならないが、
医療に対する自分本位の国民個々の姿勢を
今一度考え直してみる必要があるのでは
ないだろうか。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます