犬が現在のように飼い慣らされるようになったのは
約9,000年前のことだという。
その後、人間に大いに役立つということで繁殖も行われ、
私たちにとって欠かせないパートナーの地位を確立した。
さらには癒しとしての役割もあわせ持つ存在ともなる。
一方、犬は犬で、人間との共生によって
安定した食糧と安全な生活を確保できることから、
人間に服従するとともに、人間のご機嫌をうかがう能力を
身に付けた。
犬が持つ人間の視線や合図を読み取る能力は
類人猿すら持ち合わせていないそうである。
犬は人間に絶対服従の心から従順な心の持ち主か、
はたまた、巧妙に人間に取り入ろうとする
狡猾で計算高い動物なのか…
犬の本当の心とは?
TIME.com の記事から紹介する。
The Secrets Inside Your Dog’s Mind 犬の心の中の謎
Duke University の進化人類学の准教授、Brian Hare 氏は犬用ビスケットを差し出した。
「Henry!」と、彼は言う。Henry というのは、同じ Duke 大学の人類学者 Tracy Kivell 氏の飼い犬である。シュナウザーとプードルの混種の黒い大きな犬で、Kivell 氏によればシュヌードル(schnoodle )という種類である。Kivell 氏が Henry の首輪をつかんで離さなかったので、Henry はそのビスケットをただ見つめているしかなかった。
「いいか?」と、Hare 氏は Henry に尋ねる。それから Hare 氏は後ずさりして床の上に逆さに置いた一対のプラスチック製のカップの間に立った。彼はすばやくビスケットを持っている手を一方のカップの下に持っていき、それからもう一方にも持っていった。そして空になった両方の手をかかげた。Hare 氏は実に有益な当てっこゲームを行うことになる。この部屋の誰も―犬も人も―どちらのカップにビスケットが隠されているか言い当てることはできない状態だ。
Henry にしてみればカップを嗅いだりひっくり返したりすればビスケットを見つけることができた。しかし Hare 氏はそう簡単には Henry にビスケットをゲットさせはしない。代わりに、彼は右側のカップを指さすだけだ。Henry は彼の手に目をやり、向けられた指に従う。Kivell が鎖をはずすと Henry は Hare 氏が指さした方のカップに向かって歩いてゆく。Hare 氏がそのカップを持ち上げるとご褒美のビスケットが現れる。
このシュヌードル の Henry は実に驚くべきことができたのである。さされた指を理解することは簡単に思われるかもしれない。しかし次のことを考えていただきたい:人間や犬はそれを自然にできるだろうが、それ以外にこれができる種は動物界には知られていないという事実。また、さされた指が何を意味しているかの理解につながるすべての知的活動についても考えていただきたい。その知的活動とは、人間に対して詳細な観察をすること、さらに、身ぶり(合図)が一つの考えを反映しており、自分たち以外の動物が考えを持ちうることを認識することである。Kivell 氏が愛情たっぷりに認めている通り、Henry は“馬鹿なやつ”(the sharpest knife of the drawer)ではなく、他の動物に比べれば真の能力者であるといえるのである。
Hare 氏の指さしテストに合格する人間と犬の二つの動物種がさらに深い異種間の結びつきを共有していることは偶然ではない。多くの動物たちにはある程度の社会的知性が備わっており、同一種の他のメンバーと共存し協力しあうことを可能にしている。たとえば犬の先祖と考えられるオオカミは獲物を狩る群れで生活し、そこには複雑な序列が存在する。しかし、犬は私たちとの生活に順応したことで並はずれて豊かな社会的知性を進化させた。犬について私たちが愛するすべてのこと―私たちがそばにいると犬が喜んでいるようにみえること、私たちの生活に溶け込もうとする多くの態度など―が彼らの社会的スキルから生ずる。Hare 氏らは、人間と犬の親密な共存がどのようにしてこの動物の顕著な能力を形成してきたのかを明らかにしようとしている。
犬の心を推し量ろうとすることは犬の飼い主たちにとってお気に入りの作業となる。「誰もが自分の飼い犬の専門家だと思っています」と、Barnard College の認知科学者で新しい著書 “Inside of a Dog: What Dogs See, Smell, and Know” の著者である Alexandra Horowitz 氏は言う。しかしこれまでのところそのような確信を検証する研究は科学者たちによってほとんど行われてこなかった。
この秋、Hare 氏は Duke Canine Cognition Center を開設し、希望する飼い主から持ち込まれた何百匹もの犬を検査することにしている。また Harvard University の認知心理学者 Marc Hauser 氏は最近、自身の研究所を開設し研究対象として1,000 匹の犬を準備した。この他にも米国やヨーロッパでいつくかの施設が活動を始めたと