愛犬の命はせいぜい 15 年。
この上もなく可愛いワンちゃんなら、
あまりにも短い年月と言えるだろう。
どの飼い主も、
必ず別れの時が来ることを、承知の上で飼い始めたはずなのに…
残された時間には限りがあるのだ。
ところが、最近のクローニング技術を用いると、
愛犬とうり二つのクローンを作ることができ、
かけがえのないワンちゃんとの生活を生涯続けることが
可能になるという。
クローン犬やクローン猫の作成が商業化される日も
それほど遠くなさそうだ。
そんなお話。
Beloved Pets Everlasting?
愛するペットは永遠に?
同じ犬からのクローン、MissyToo(左)、と Mira(右):大好物のチキンを待っているが彼らは好みも同じだ
あ
クローン犬についてもっとも困難なことは、それらを区別できないことではなく、それらがなぜ寸分の違いもなくそっくりではないのかを説明することである。
2002 年に死んだコリーとハスキーの雑種犬 Missy の、再生目的で保存されていた DNA から胚細胞が作られ誕生した Mira と MissyToo の二匹の犬を連れた散歩がてら Lou Hawthorne 氏が直面した問題だ。確かに、それらはお互いに極めて似ており、Missi にもそっくりである。
それらの犬がクローンであることを聞かされた人からは、当然のように次のような質問が出てくる。「どうして一匹だけ毛が縮れているの?」
「どうして二匹は同じ大きさじゃないの?」
「どうして一匹は犬が黒っぽいの?」
「どうして一匹だけ耳が垂れているの?」Hawthorne 氏(48才)はそっくりなものを作り出そうとする意欲に多額の投資を行っている。
クローン技術を用いることは、果たして、そっくりを作り上げることに有用なのだろうか?
実際にクローニングを行っているのは、Hawthorne 氏の経営するバイオテクノロジー会社 BioArts である。
同社は Bay Area に本社を置いているが実際のクローニングが行われているのは韓国にある研究所だ。彼の研究所の主任遺伝研究者、韓国 Sooam Biotech Research Foundation の Hwang Woo Suk(黄禹錫 ファン・ウソック)博士の経歴を考えると、Hawthorne 氏にはこれらクローンの信憑性に関わる質問に敏感である特別な理由がある。
Hwang 博士は、2004 年に彼が主導していた研究チームがヒトの胚子と幹細胞のクローン作成に成功したという虚偽の報告をしたことで有名である。
偽りの報告が明るみとなった後、彼は教授として研究を行っていたソウル大学を解雇された。
しかし彼は 2005 年のアフガン・ハウンド犬のクローニング成功に関与した人物として広く認められている。「Hwang 博士の過去には、確かに問題があります。しかし、我々は犬のクローニングに成功した彼の研究室とその業績はこの分野では最高であると思っています」と、Hawthorne 氏は言った。
「彼は私に対して正直に自分の過ちを認めました。動物のクローニングについても彼が嘘をついていると言う者はいません」Davis にある University of California、Veterinary Genetics Laboratory の副所長 である Elizabeth Wictum によれば、彼女と彼女の部下が今年の初めに Hawthorne 氏の犬から DNA を採取し、保存してあった Missy の DNA と比較を行ったという。
その結果、クローン犬として矛盾はないと結論した。「その犬たちは Missy と同一の核 DNA を持っていましたが、クローン犬から得られるミトコンドリア DNA は異なっていました」と Wictum 女史は話す。
「もし同じ犬あるいは一卵性双生の犬からサンプルを二つ持ちこみそれがクローンのものであると主張していたなら、核 DNA とミトコンドリア DNA の間になんら差異は見られなかったでしょう」
( MrK 註:核外 DNA であるミトコンドリア DNA は卵子由来のため)Missy 1.0―それは Hawthorne 氏が Missy を専門的に呼ぶ言い方で、Mira と MissyToo の“遺伝子のドナー”の意味―は彼の母親の犬だった。
彼によると、これまでに4匹の Missy クローンが作られ走り回っているというが、それらはいずれも 2007 年 12 月から 2008 年 6 月の間に生まれている。
Mira は Mill Valley にある Hawthorne 氏の家に住んでおり、MissyToo は Mill Valley と San Francisco の間を行き来している。
No.3 と No.4 は友人に譲られており、今はそれぞれ Phoenix と Boulder に住んでいる。(さらに他に二匹が作られたが生まれたとき parvovirus に感染し死亡した)7 月、Hawthorne 氏は一連のオンライン・オークションを行い、飼い犬のクローンに 130,000 ドルから 170,000 ドルの値段をつけた四人の高額入札者に彼のサービスを提供することになった。
(エリート偏向の非難をかわすため、Hawthorne 氏は無償となる5人目の依頼者の募集も行った)
この数週間のうちに、このグループから最初の3匹の犬が韓国で誕生した。Hawthorne 氏は、Missy のクローンが世界で最初の商業化クローン犬であると主張する。
しかし、彼が特許権―すなわちクローン犬市場を独占する好機―をめぐって法的闘争となった相手側の韓国企業 RNL Bio もまた同様の主張を行っている。
2004 年から 2006 年の間には、Hawthone 氏が経営する別の会社は少数の顧客に対して有料でのクローニングを猫で行った。
犬はその生殖システムがきわめて特殊であるため最もクローン化が難しい哺乳類の一つであると科学者たちは言う。
しかし、Hawthorne 氏はこのマーケットは熱いと考えている。Hawthorne 氏が Missy のことを思い起こす時、どうしても優生的見地に向かう傾向にある。
「Missy は素晴らしい犬でした。頭が良く、信じがたいほど美しく、従順で、とてもいい性格でした」と彼は言う。
「私が特に好きだったのは、その堂々とした尻尾の毛でした」
そして、そのクローン犬も「それらのすべての特徴を持ち合わせている」と当然のことのように語った。いくつかの相違点を探せば、そのクローンにおいては大きさや色に違いが認められるのであるが、そもそもそれらは数ヶ月の間隔で生まれており、いずれもまだ成長しきっていないという理由が考えられる、と Hawthorne 氏は言う。
「毛の色の濃い部分は、最初赤黒色から、いずれさらに黒味が強くなります。顔の部分は最初は黒ですが、一年以内に白くなるのです」それぞれのクローンの胚子は、別の犬の核を抜き去った(つまり DNA を除かれた)受精卵に Missy の核 DNA を入れることによって作られた。
Missy からの新しい DNA が入った受精卵は成長し分裂を始め、その後、さらに別の犬の子宮に置かれ出産まで妊娠を維持された。
この段階ではその犬の遺伝子構成には全く影響はないのであるが、毛の巻き方や耳介が上向きか下向きかなどの外観的性質には影響が及ぶ可能性がある。
(それはコラーゲン・レベルの違いが関係しているに違いない)Lagunitas 湖畔の午後の散歩で、Hawthorne 氏は『clisters』―クローン姉妹のために彼が作った単語―と呼ぶ2匹の犬が代わるがわるお互いを追いかけている光景を目の当たりにしているピクニック中の家族に対して必死にこれらの説明を行った。
「ココナッツもクローニングできるの?」一人の少女が尋ねた。
「残念だけど、植物はやってないんだ」と、Hawthorne 氏は答えた。
その子の両親の一人が説明を加えた:ココナッツはその家族の犬の名前だった。
「3才のよくしつけられた犬をクローニングできますか?」Hawthorne 氏は続けて言った。
「学習した行動については引き継ぐことは無理です。でも遺伝に基づく行動も多くあります」高度に訓練可能な犬などの動物について言えば、どこまでが本能でどこからがしつけかを知ることはきわめて困難であることを Hawthorne 氏は認めるが、彼の犬のケースでは、クローン犬に認められる本質的なところでの Missy たる点に疑いの余地はない、と言う。
(中略)
昨春、Hawthorne 氏の小学校3年生の息子である Skye 君は行動比較の図表をまじえた『おばあちゃんの犬のクローニング』と題した科学研究を完成させた。
色々な観察の中に、Missy のブロッコリーや『すり寄ること』が好きだった性癖を Mira が共有していたこと、また、『長く歩くことが好き』などのカテゴリーで5項目中すべて一致した。(もっとも、『大部分の犬は長く歩くのが好きだろう』と『コメント』で Skye 君は述べているのだが)
不一致となった二つの重要な事柄は、『車に飛び乗ること』(「クローン犬はどの車が自分たちのものかということをまだ学習していなかった」)と、『カメラのフラッシュを嫌がること』(「クローン犬は通常のフラッシュに反応しなかった」)である。最終的に、Mira はきわめて Missy に似ていたが、行動様式については 77 %しか一致しなかったと結論した。
「しかしそれは4月のことであり、今ではもっと似てきていると思います」と Hawthorne 氏は言う。(中略)
Hawthorne 氏はもう一匹のクローン犬 MissyToo を、元の犬 Misssy がいなくなったことを未だに淋しがっている彼の母親 Joan Hawthorne さんに譲った。
しかし、彼女はまだこの Missy の後継犬を好きになっていない。
「まるで似ていません」と、Hawthorne さんは Missy と新しい犬について語った。
「もちろん外見的には少しは似ています。でも、MissyToo は華奢で、攻撃的です。Missy は頑強で非常に穏やかでした」
さらに付け加えて「Missy は家の中に入ってきてすべてのワイングラスをひっくり返すようなことはしませんでした」と、言った。(中略)
貯水池の周りを散歩していたその日、Hawthorne 氏は 7 月のオークションの落札者である Nina と Ed の Otto 夫妻に電話した。
彼らは 155,000 ドル支払ったが、このプロジェクトの第1号のクローン犬の栄誉あるオーナーとなったことを実感しはじめている。
亡くなった彼らの黄色いラブラドール、Lancelot のクローンは2、3日前韓国で生まれていた。スターバックスの中庭から、携帯電話でフロリダの彼らの自宅に電話をかけ、「あなた方の小さな Lancelot はここにいます」と Hawthorne は Otto 夫人に伝えた。
彼は Lancelot 誕生の日時、体重(540 g あるいは 19 オンス)を伝え、その写真2枚をEメールで送った。
「息をしていますよ。どんな風に見えますか?」と Hawthorne 氏は尋ねた。
「ネアンデルタール人のようですね」と、後ろの方から Otto 氏の声が聞こえた。
「そんなことないわ」と、夫人は言った。
「それは私たちの前の犬に全くそっくりではない」と Otto 氏は叫んだ。
「いえ、そっくりよ」と、夫人は言う。
アメリカまで空輸可能な 10 週齢に達するまで自分たちの新しい犬には対面できない。
その間、自分たちの Lancelot そのものが戻ってくるということで有頂天になっていたと Otto 夫人は言った。「私たちははやる気持ちを抑えることができませんでした」と、Otto 氏は言った。
彼は医療機器会社の経営責任者であり、彼の父親はかつての Nescar の創業者である。
「私たちには8人の子供、11 人の孫と9匹の犬がいます。Lancelot はその行動がもっとも人間に近かった犬です。彼は昨年癌で死んだのです」「犬の唯一の問題は、その命がたいへん短いことです」と、Otto 夫人は言う。
「クローニングは、生涯にわたって同じ犬と過ごせる機会が与えられる可能性を意味しているんです」と Otto 氏は言う。
クローン犬といえども元の犬の形質すべてを引き継いでいるわけでは
なさそうだ。
それでも、最愛の昔の犬を彷彿をさせるところが
随所に見られるにちがいない。
我が子供のように可愛がっていたペットを失った人には
救いとなることだろう。
しかし、ペットとはいえ、自然の摂理や生命倫理の観点から、
クローンの作成を商業化することはいかがなものか。
対象が無常である事実からこそ、
生まれてくる深い愛情というものがきっとあるに違いないと思うのだ。
出だしでちょっとドキッとしちゃいました。
クローン犬って・・・人間のエゴというしかないような気がします。クローンとは言え全く別の個体、別の命でしょうに、愛情は前の犬に向けられ、比べられ、かわいそうすぎです。
もう一度会いたいという気持ちはわかるし、もう一度愛犬を小さい頃の姿から可愛いがることができるというのはとても魅力的ではあるけれど、やはりMrKさんのおっしゃるとおり「心の中でこそ永遠に」ですね。二度と戻ってこないからこそ、命の大切さを知るっていうのもありでしょう。
裏では人間のクローニングも研究されている?・・・怖っ!
ご心配いただきありがとうございます。
我が家の愛犬も11才の老犬になりましたが、おかげさまで元気です。でも、遠からず別れの日が来ることを、いつも考えています。悲しいけれども出会いがあって、別れがある…これが本当の姿だと思います。
技術的にはクローン人間の製造も可能でしょう。優秀な人間、戦闘能力のすぐれた人間を選択的にクローニング…恐ろしいことですね。