MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

記憶のピースを戻せなくなったとき

2011-09-21 19:06:40 | 健康・病気

自分が認知症を発症する可能性がきわめて高いと
知ったとき、
人はどのように受けとめ、生きてゆこうと
するのだろうか。

9月12日付 CNN.com

When the pieces of memory are scattered 記憶のピースがバラバラになるとき
By Elizabeth Landau

Jigsawpuzzle
オレゴン州ポートランドに住む Phil Kreitner さん(71才)は記憶の欠落を実感している。

 ペンシルベニア州にある老人ホームで Robert John Kreitner Jr 氏が迎えた晩年の誕生日にケーキが出されたがその主賓は目を開けてそれを見ようとはしなかった。
 彼の妻はテーブルの端で彼を支えた。彼らの息子である Phil はその光景にゾッとしないではいられなかった。
 独学で技師となった Phil Kreitner 氏の父親はしっかりした考えを持っていて、自分を曲げるのが嫌いな人物だった。自分に記憶障害があることを認めたのは彼の人生の終わりの12年間で一度だけだった。今、彼の息子は自身に記憶障害があり、父親のようにいずれは老人ホームに入るようなことは決してないと心に決めているが自分の脳に起こっていることを否定しようとはしない。
 「父がアルツハイマー病であったことは私にとって助けとなっています。なぜなら、その存在を、その現実を、自分に当てはめることを、そしてその結末を、私自身が受け入れることを容易にしてくれているのです」とオレゴン州 Portland の Kreitner 氏(71才)は言う。
 Kreitner 氏は軽度認知機能障害(mild cognitive impairment, MCI)があるが、これは認知症の初期の段階であり、研究者らは記憶障害や認知機能障害の進行を止めるのに有効と考えられる治療を試す最適な機会と考えている。Oregon Health & Sciences University and Portland VA Medical Center の研究者 Joseph Quinn 博士によると、軽度認知機能障害の患者には、確かに無視できないほどの記憶障害があるが、言語障害や一般的な思考障害はなく、機能はまだ残されているという。
 軽度認知機能障害の患者は、そのすべてが悪化しアルツハイマー病に移行するわけではないが、脳には特定の痕跡が見られる。β-アミロイドと呼ばれるたんぱくから作られるプラークは、これが認められればすでに記憶障害を起こしている患者がアルツハイマー病である可能性がきわめて高いことを示すものである。このプラークは MRI や PET スキャンで見つけることが可能である。
 「私の記憶はジグソーパズルのようなもので、まさに箱から放り出された状態です」と、Kreitner 氏は言う。「もし私がそのパズルをはめ直さなければならないとしたら、私にはそれをすることはできません」
 Kreitner 氏は、最終的に父親の命を奪うことになったアルツハイマー病と戦う取り組みに参加することは人類に対する自分の義務であると信じている。この病気は540万人の米国民を蝕んでおり、2050年までに1,600万人が罹患すると予測されている。
 そういった理由から 軽度認知機能障害の患者に対する薬剤効果を調査する臨床試験に Kreitner 氏は参加している。
 「父は非常に軍国主義に彩られた人でした。それで私はこのようなことを生涯、頭の中に叩きこまれてきました。つまり、その集団がどのようなものであるとしても、おまえにはその集団に対する責任がある。人は独りでは生きられないのだ」そう、Kreitner 氏は言う。

Getting patients into trials 患者を治験に参加させる

 アルツハイマー病の研究者は Kreitner のような姿勢を持った人をより多く見つけたいと思っているが、現実的にはアルツハイマー病や認知症の臨床試験に患者を参加させることはむずかしい。
 一つの問題として、自分たちに試されているのが実験的薬剤であることが確実な場合に限り治験に参加したいと考える人がいるということがある。しかし科学的に有効な医学研究は“二重盲検法”であり、それは、研究者も参加者も、誰が真の薬剤を投与されており、誰がプラセボと呼ばれる偽の治療を受けているかを知らされない状況を意味する。
 ある薬剤が用いられれていることが何の薬剤も用いられていないことより有効であることを示すにはそうするのが最強の方法となるのである。それはまた、ある参加者には実験的治療が試みられることなくすべての治験の過程が全うされなければならないことを意味している。薬剤の治療グループに自分の患者を入れようとする医師がいるとすると、誰が何の治療を受けているかを治験者が知ることとなり標準的な治験の方法に違反することになる。アルツハイマー病協会の主席医学・科学担当官である William Thies 氏はそう述べている。
 また、交通手段や介護者との調整など、高齢患者の参加に伴う現実的な問題も存在する。認知症の早い段階では、患者は治験への参加についてまだ自己決定が可能である。しかし、後期の患者にとっては、治験を見つけ出したり、患者に治験を受けさせる責任は介護者が持つことになる。
 軽度認知機能障害の治験に募集をかけるのは特に困難である。というのも、軽度の障害で申し込むことに難色を示す人が多いからである、と Quinn 氏は言う。さらに、実験的薬剤に伴う可能性がある危険性に挑みたくないと考える人もいる。
 昨年立ち上げられたウェブサイト Alzheimer’s Association’s TrialMatch は患者にとって有利で的確な治験を見つける手助けをしようとするものだ。このウェブサイトでは120以上の治験がリストアップされている。これまでほぼ12,000人の人たちがプロフィールを書きこんでいる。アルツハイマー病協会は目下彼らに適切な治験を見つける支援を行っているところである。
 「治験のボランティアがいなければ、実際のところ次の新しい薬剤を手に入れることができません。もしより良い未来を作ることにおいて彼らの参加がどれほど重要であるかが実際に十分理解されるなら、恐らくはるかにたくさんの治験への志願者が出ることでしょう」と、Thies 氏は言う。

An experimental drug 実験的薬剤

 Kreitner 氏は Bristol-Myers Squibb 社から出資を受けている第2相の薬剤治験に参加している。Quinn 氏は国内数十施設の一つ、Oregon Health & Sciences University での割り当て分の治験責任医師である。
 問題の薬剤はγセクレターゼ阻害薬で、脳内のβ‐アミロイド蛋白のプラーク形成を妨げる薬剤の一つである。
 これまで、γセクレターゼ阻害薬をめぐるニュースは、少なくともアルツハイマー病の患者においては良いものではなかった。昨年、Eli Lilly 社はγセクレターゼ阻害薬である semagacestat の開発を中止すると発表したが、それは、二つの進行中の長期的第3相試験で、同薬剤がアルツハイマー病の進行を遅らせることができなかったことが示されたからである。研究者たちによって認知機能症状の悪化との関連も確認されている。
 しかし、Quinn らは、もし脳にそれほどの病理変化が起こっていないならば、同じタイプの薬剤は軽度認知機能障害の患者で有効ではないかとの希望を持っている。
 この薬剤では、比較的悪性度の低い皮膚がん、胃腸障害、および脳浮腫の頻度が高まる危険性が確認されていると彼は言う。
 これまでのところ、Kreitner 氏は何ら副作用を感じていないという。2、3カ月ごとに、彼は脳検査と腰椎穿刺を受け、認知症に関連する生物学的マーカーを研究者らによってチェックされる。この過程を彼は嫌だと思うことはない、たとえ彼らによって彼の脊椎に針を刺されるときも。
 「このカプセルを毎日飲むことを何としても覚えておかなければならないこと以外には文字通り犠牲になっていることはないというのが私の個人的な気持ちです」と、彼は言う。

Life in the shadow of Alzheimer's アルツハイマー病に脅かされる生活

 Kreitner 氏には多種多様な職歴がある。海軍将校、非常勤教授、マッサージ療法士、環境問題研究家、とりわけ人口統計学者というのも…。彼は rowing machine(ボートを漕ぐエクササイズ・マシン)の名人でもあり、毎週90分の時間を割く。今年、ボストンで行われた World Indoor Rowing Championship で彼の年代グループで準優勝を飾った。
 彼が社会の欠点について多くのことを考えてきたことはおわかりだろう。そして彼は世界と彼自身に対して全般的な不満をいつも感じていたことを認めている。彼は常に自己評価し、良い体型を保つよう努力する人物であった。そしてこの頃は自分自身の精神機能を監視することが加わっている。
 彼の妻で Portland State University の公衆衛生学教授である Sherril Gelmon さんは約2年前に Kreitner 氏の物忘れに気がついた。Kreitner 氏自身も小さな失敗に気づくようになった。たとえば彼は部屋にいることに気づいたとき、そこにいる目的を忘れていたりした。二人はお互いに対してイライラし始めたが、そんなことは結婚して13年になるがまれなことであった。
 彼女は Kreitner 氏と一緒に Oregon Health & Sciences University にある Layton Aging and Alzheimre’s Disease を受診した。夫妻は Kreitner 氏に適した治療法があるかどうかを知りたがっており、Bristol-Myers Squibb の治験を知ることになる。Quinn 氏は Kreitner 氏がそれに適している可能性があることを彼らに告げ、正式なスクリーニング検査のあと Kreitner 氏はその臨床試験に参加した。
 Gelmon さんがこの経過を語ったあと、Kreitner 氏は笑って、自分自身ではそれらの詳細をつぶさに語ることはできなかっただろうと言うのである。
 「妻の Sherril がまさに話したことすべてに心当たりがある段階に今の私があります」と、彼は言う。「もし『このことに関連してこの2、3年間に何が起こったのか?』と聞かれたら、私はその10%しかお話しできなかったでしょう」
 Gelmon 家の両方の親が認知症を発症していた。彼女の父親は2009年に死亡しており、母親は現在、進行期にあることから、彼女はこの疾病の現実についてもよくわかっている。彼女は自分自身の精神状態を監視しているが、それを心配するあまり目が覚めてしまうようなことはない。彼女と Kreitner 氏は、仮にそうなって、つまり Phil の病状が悪化したとしても、どのようにして自分たちの生活スタイルを調整するべきかを日頃から話し合っている。
 「それまでのようにうまくすることができなくなるのはつらいことです。私たちは落ち込んだりはしていません。苛立って動揺はするかもしれません。しかし私たち二人は親がたどった経過を見ていますので、一定のレベルの対処がすでにできているのです」と、Gelmon さんは言う。

Toward the end 終わりに向かって

 死を迎えるまでの Kreitner 氏の現在の目標は、彼が世界をどのように見ているかについて本を書くことである。しかしもし彼が目的を達することができなければ、1,500単語の論文で…。彼はこう言う、「人間を一つの種として考え始めることが自分の同胞に対する願いであり、私たちは個人的、階級的、民族的、国家的、人種的という自滅的な旅の途中にあり、この地球を闘争へと向かわせようとしているというのが私の仮説です」
 彼の母親が自宅で彼の父親の世話をしいかに苦しんだかを思い出し、老人ホームに彼を訪ねるにつけ、Gelmon さんには同じような負担をかけたくないと Kreitner 氏は考え、また自分が老人ホームに入るのはありえないと思うのだった。
 しかし、まだずっと先と彼が考えている点に到達したなら、たとえそれが正しいことではないとしても、“人生を降りる”道を見つけることを固く決心している。
 「私は正当な通告をすることになるでしょう。それは限定されるものではないかもしれませんが、その時が今なのか、そうではないのかを感じることが暗に示されるでしょう。私は自分の死につながるいかなる行動に対して一切の責任を持つでしょう。私は人生を台無しにはしません」と彼は言う。
 夫がこのように話しても、Gelmon さんは苦悩を示すことはない。彼女は平静に率直にこう言うのである。「私たちがもしそのような時点に達しても、それまでに長い時間をかけてそのことを話し合っており、それが驚きにはならないことを望んでいます。それでもやはりそのことで私は非常に悲しむことになるでしょう。しかし、早くから十分に理解しあっていれば、それが予期しない驚きとして訪れることはないし、彼が自ら進んで私に伝えようとするものとして知らされるべきなのです」
 当面、Kreitner 氏は臨床試験で処方される灰色のカプセルによる治療計画に従い続けている。彼はメモを頼りにしているがその多くは約束を覚えておくためである。そして彼の心の中の泥の中を記憶が這い出してくるのを待っていることもある。
 「私たちは、思慮分別があったにもかかわらず、維持できる以上の人間を地球上で排除してきました。一体私は誰なのか?私の実効性が消滅するとき、私は消滅するのです」と、彼は言う。「先頭を行くか、従うか、それともその場を去るしかないのです」

文中に出てくる軽度認知機能障害(MCI)とは
以下の基準を満たすものである。

①正常ではない、認知症ではない。
 (認知症の診断基準を満たさない)
②本人かつ/または家族から認知機能低下の訴えがあり、
 客観的な認知機能検査でも障害を認める、
 かつ/または
 検査上以前と比べて認知機能低下がある。
③日常生活動作は正常、あるいはごく軽度に
 複雑な動作性機能が障害されているのみ。
(2003年MCIコンセンサス会議で提唱された基準)

玉虫色の基準で非常に理解しがたいが、要するに
正常でも認知症でもないグレーゾーンにある状態
のことである。
MCIの患者は4年間で半数がアルツハイマー病を
発症すると言われている。
(MCI 患者の70%が進行性との報告もある)。
今後はMCIの中で、
アルツハイマー病の前駆段階にある患者を特定し、
そういった患者に対して早期に治療を
開始できるようにすることが重要と考えられる。

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