フッフッフの話

日常の中に転がっている面白い話、楽しい話!

「生命ある限り」

2009-07-20 21:35:40 | 
 曽野 綾子著  桃源社発行  昭和53年
昭和41年8月から、「旅行読売」に、毎月1編ずつ連載された70余編の短編集。
旅を中心に、そこで出会った様々な生と死が書かれている。

「乾いた花」の中で、曽野氏は次のように書いている。
”小説家は真実を書くために、事実をめちゃめちゃに並べかえ歪めてしまう”
全ての編は、「私」という一人称で書かれているが、
曽野氏が経験されたことばかりではなくて、フィクションであろう。

 「処刑の朝」
エレンズ夫人は、かっての恋人オザワ・キイチが、マニラのモンテンルパに
囚人として収容されていることを知る。戦争で現地人を殺したとの罪状である。
キイチが明日処刑されることを知った時、早朝大統領官邸行き、
大統領に会いたいと粘った。粘った末に大統領は起きた。
オザワは私の恋人でした。死んだと思って私はエレンズと結婚したのです。………………
オザワは音楽と動物の好きな口数の少ない学者です。
決して人を殺したりしていません。彼を釈放してください。
その代わり、私は二度と彼に会いません

彼は釈放され、思いがけず駐在員としてマニラにやってきた時、妻子を連れていた。
これと同じ表現は、「極北の光」にあった。
光子が、手放したわが子の病気を治してくださいと、神に祈るときである。
二度と子供には会いませんので、子供を助けてくださいと祈り、
オーロラの見える極北のホテルで、終生働くことになる。

 エレンズ夫人は、日本食が大好きである。
オザワは出世し、近々マニラに来るとの事を聞き、
茗荷の根を持ってきて欲しいとの伝言である。
エレンズ夫人の待っていたのは、キイチではなくて、茗荷の根ではないだろうか。
コメント
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